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ロバの放浪を描いた映画『EO イーオー』。論理を超えた不条理な世界と対峙する
『EO イーオー』はロベール・ブレッソン監督作『バルタザールどこへ行く』(1966年)にインスパイアされて制作された、1匹のロバを主人公とした作品だ。サーカス団に飼われてパフォーマーの若い女性と親密な関係にあったロバのEOだが、あるとき動物愛護団体のデモにより彼女と引き離されてしまう。その後、目的地もないまま放浪することになったEOの旅を映画はただ追い続けることとなる。
本作は何よりも、EOの視点で世界を旅することを徹底している。サーカス団から連れ出されたEOは、農村や町をさまよう中で多くの人間たちに出会うことになるが、そこに善悪の判断はない。『バルタザールどこへ行く』には存在した大きなストーリーラインもなく、EOは純粋な目で行く先々で起こることを断片的に目撃していく。ゆえにその過程を見守るわたしたちも、映されるものをありのままで受け止めることが求められる。

だからと言って、必ずしもリアリティーのみを追求しているわけではないことが『EO イーオー』の重要なポイントだ。オープニング、赤い光が明滅する中でパヴェウ・ミキェティンによる荘厳なオーケストラ音楽がゆっくり立ち上がるさまは非常に陶酔的であるし、道々の大自然を捉えるミハウ・ディメクの映像はにわかに信じがたい美しさを湛えている。またEOが耳にする音の数々は、ときに極端に立体的な音響で表現される。どこまでも感覚が研ぎ澄まされるような映画だ。
つまり、『EO イーオー』という映画を観る行為自体が論理を超えたひとつの体験として提示されているのである。木がメリメリと音を立てて倒れ、馬たちは大地を颯爽と駆け、戸棚が突然ガシャンと崩れ、ハンターたちに追われたオオカミは重傷を負っている。まったく説明もなく4本足のロボットが何やら象徴的に映されもする。だがそれらはすべて明確な意味を持たず、ただそこで起こる出来事としてのみ立ち現れる。