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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

NOT WONK加藤が語る『FAHDAY2024』と街の文化。再開発される街で守りたいもの

2024.9.17

#MUSIC

自分のポリシーやイデオロギーを表現するためだけのイベントを組むのは、ナンセンスに思えてきちゃった。

ー「表現の交換市」という本イベントの位置づけも、各々の人生を持ち寄ってフェアな形で共有するという意味合いなんですか。

加藤:そうですね。たとえばこういったイベントを開催する場合、どうしても言い出しっぺが神輿の上に乗らないといけなくなるし、そうなると神輿の上の人間の利益が多くなることが大半ですけど、俺はそういう仕組みがピンとこないんです。みんなの力を合わせてやったなら、分け前もフェアであるべきだし、そういう場所を作りたいんだよなって、『YOUR NAME』直後から考えていて。

でもそのままコロナ禍に入ってしまって、自分の主義とか精神性とか言ってる場合でもなくなっていった感覚があって。多くの人がコロナ禍で痛感したことでしょうけど、それぞれの人生があって、個々に大切な信念があるわけだけど、そんなことより自分や家族の命、自分の周りの人間の命が常に危険に晒されていて、それを守ることを常に優先しないといけない社会にいて、その中で自分のポリシーやイデオロギーを表現するためだけのイベントを組むっていうこと自体が俺にはナンセンスなことのように思えてきちゃったんです。自分の意地のために「DIYでやるんだ!」なんて言ったところで、お前そんなこと言ってる場合か? っていう数年だったわけですから。

ーとっくに破綻した社会のシステムを目の前にして、今こそ個人と個人の連鎖を基にした新しいユニティを作るべきいうことも痛感しましたよね。

加藤:そうなんですよね。だから、私が独善的に設定したテーマやイデオロギーを叶えることを目的にした場所じゃなくて、その場に居合わせたそれぞれの人間が、ひとりのまま有機的に交差して、それが最終的にひとつの意味や表現になっていく場所があったらなと思ったんです。これは自分の根底にある考えですが、すべての個人の足跡が表現なんだということは変わらない部分ですね。

ー個人の日々の営みが「表現」だとおっしゃるのはその通りだと思いつつ、加藤さんご自身は、どういう場面でそれを感じたんですか。

加藤:コロナ禍の間、ずっと地元の苫小牧で過ごしていたことが大きくて。俺はバンドを始めた頃から「東京でひと旗上げて飯食おう」みたいな気持ちは一切持ってなかったけど、それでも軸足を苫小牧に置いたまま東京で活動することの方が多かったから、実際、苫小牧だけでなく東京で得たものや自分の表現に対するリアクションも少なからずあったんですよね。その中で地元と東京での自分の表現の受け入れられ方にギャップも感じるようになっていって。そのどちらもがピンとこなくて、それが自分が鳥でも獣でもないコウモリみたいな感じで、中途半端な気持ちだったんですけど。

でもコロナ禍で半ば強制的に苫小牧で過ごさなくちゃいけないとなった時に、自分が音楽家として表現したいことと、苫小牧での伝わり方、苫小牧が置かれている状況、東京のありさま、東京での理解、その全部がひとつになって融解していく感覚があったんですね。要は、自分が音楽家として表現したいことと、一個人としての苫小牧での営みとの境目がなくなっていったんですね。どちらもれっきとした自分の表現なんだと信じられるようになったんだと思います。

加藤:それこそ去年、自分からより遠ざかって、デカい宇宙を漂って本当の自分を見つけたい、みたいなイメージでSADFRANK(加藤のソロプロジェクト)のアルバムを制作していたんですけど。作り終えた時に、遠ざかろうとしてもなお滲み出てしまう部分に自分自身をみたんです。それから自分のことを宇宙みたいな大きなテーマとして捉えるんじゃなくて、もっとちっちゃくて、ちょっとの角度の違いで色や大きさが変わるようなものとして考えてもいいんじゃないかなって思ったんです。

加藤:そういう歩みも、ミニマムな営みこそが一人ひとりの表現である、どんな場所にも一人ひとりの文化があるという当たり前のことに気づくきっかけだったと思います。自分の外にある社会も「自分」の中に含まれているなんて、当たり前のことじゃないですか。だけど、そういう部分を俺は忘れていた気がするんですよね。一人ひとりの人生を交換しながら個人が生きているんだっていう当たり前のこと。じゃあ、そのことを大きな声で示す場所があってもいいじゃないかと思ったし、それをやりたかったです。

けど……自分のやってきたことをこうして振り返ってみると、宇宙のように大きいと思っていたものがミニマムな答えに繋がっていたり、ミニマムなものが実は一番大きな世界だったり、そこの行き来を繰り返してきただけのような気もするんですけどね。でも、それが芸術をやる意味だと思うんですよ。

ーそうですね。物事を見る選択肢と発想を拡げていくこと。

加藤:それこそ行政がニーズに合わない(※)と取り壊しを決めた場所(『FAHDAY』の会場となる苫小牧市民会館)も、ちょっと見方を変えれば無限大の遊び場になるわけですから。すべてのものは移り変わっていくけど、変わるんだったら、いい方向に変えるべきじゃないですか。苫小牧の市民会館で言えば、会場の周りをぐるりと歩いて見ることが変化のヒントになるかもしれないし、はたまた、苫小牧のどんな場所に位置している建物なのかを考えることも有効かもしれない。あるいは、時代の中でどんなふうにくすんでいった建物なのかを僕の記憶の中から眺めてみてもいい。そこに「在る」っていうことを、多くの視点から見てみたい。僕の中には、そういう行動原理がある気がします。

苫小牧市民ホールの移転に関する資料はこちらから閲覧できる

苫小牧市民会館

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