キャリアの初期から海外を意識した活動を続けてきたThe fin.。特に2016年から2019年までは拠点をロンドンに移し、北米・ヨーロッパ・アジアをツアーで回る日々を続けることによって、現在では世界の各地にファンベースを築いている。
コロナ禍によって社会が大きく変わり、日本でも多くのアーティストが海外を意識するようになった2023年において、その先駆けとも言うべきYuto Uchinoの言葉に耳を傾けることには非常に意味があるはず。『NiEW』では英語版、中国語版で海外に向けて日本のアーティスト情報を発信しているので、その意味でもぴったりのアーティストだ。
2話に分けてお届けする記事の前編では、毎回ツアーで1000人キャパの会場が軒並みソールドアウトになる中国との関係を、The fin.と長年活動をともにするマネージャーの山崎和人も交えながら紐解く。
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北京と上海以外の都市でも、会場のキャパがあんまり変わらない。中国の場合、東京規模がいっぱいある。

2012 年 4 月、兵庫県宝塚市にて Yuto Uchino と Kaoru Nakazawa を中心とした 4 人組バンドとして本格的に活動をスタート。Metronomy や Tame Impala、Washed Out、Friendly Fires といった海外のポップ・ミュージックに、 日本人である自分たちにも通じる孤独や寂しさ、喜びや悲しさなどの情動を感じ、 同じ時代を生きる若者として共感することにより、日本のロックのフォーマットに囚われない楽曲を制作。日本国内と同時に海外も目標に置いて活動し、インターネット・メディアを駆使し自分たちの音楽を世界に向かって共時性をもって発信している。
https://www.thefin.jp/
―The fin.が初めて中国でライブをしたのは2015年に上海で開催された『ShoeGaze Festival』というイベントだったそうですね。
Yuto:「こういうフェスをやるんだけど、The fin.が大好きだからぜひ出てほしい」みたいなメールが突然来たんですよ。どこかの会社ではなくて、個人イベンターみたいな人だったんですけど、当時の俺たちは海外でのライブをやり始めたころで、「誘われたら全部行く」みたいな感じだったから、「行くでしょ!」ってなって。
でも実際上海に行ったら、ちょうど反日デモが起こってて、「いま日本人がフェスに出るのは危険かもしれない」って言われて。なので、他のバンドはメインの会場でライブをしてたんですけど、俺たちだけ別の小っちゃい場所で深夜にやることになって。でも来てくれたお客さんの熱量はすごくて、「中国にも聴いてくれてる人がいるんだな」っていうのは、そこで実感できました。
―2017年には北京と上海でライブをしていて、1200人と800人キャパの会場がソールドアウトになっています。2015年からの2年間でどんな変化があったのでしょうか?
Yuto:正直中国でなにが起こってたのかは全くわかってなくて、「行ってみたら、急に人が増えてた」みたいな感覚でした。会場に着いて、「ホントにここが埋まるの?」って感じやったんですけど……埋まってましたね(笑)。

山崎:2016年にブライトンで行われた『The Great Escape』に出てるんですけど、中国にThe fin.を呼んでくれているNew Noiseというプロモーターのジェフがそのライブを観てくれて、それで2017年に中国ツアーを組んでくれたんです。なので、ちゃんとしたプロモーターがついたっていうのがまずは大きくて、なおかつ、New Noiseはもともとイギリスとかヨーロッパのアーティストを中国に呼んでくる会社なので、ファン層が一致したっていうのがあります。
あとは、その前からThe fin.は台湾で人気があって、それは台湾の有名なブロガーが1stアルバムの『Days With Uncertainty』を紹介してくれて、そこから火が点いたんですよね。その記事が中国でも広まったのはあると思うし、もともと中国に日本の音楽が好きな人も多かったりするので、そういういろんな要素がミックスされて、中国で人気が出たのかもしれないです。
Yuto:たしかに、台湾は最初からライブハウスのキャパが大きくて、当時から一番聴かれてる実感がありました。ただやっぱり個人の感覚としては「いつの間にこんなに聴いてくれる人が増えたんだろう?」っていう感じではありましたね。曲もちゃんと知ってくれてるし、メンバーの名前も知ってるし、それはうれしい驚きでした。
―2018年のツアーは一気に会場の数が増えて8公演になって、1000人キャパの会場がすべてソールドアウトになりました。
Yuto:そこで確信に変わった感じですね。「ちゃんとファンの人がいてくれてるんだな」って。あとこのとき驚いたのが、初めて北京と上海以外に行って、他の都市でも会場のキャパがあんまり変わらなかったことで。日本だと東京が一番大きくて、次が大阪で、地方都市はもうちょっと小さめの会場が普通だけど、中国の場合は東京がいっぱいあるというか、一個一個の街が大きくて、それはびっくりしました。
―やはり中国は日本よりも圧倒的に広くて人口も多いということですよね。でもその分、移動の大変さはあるのかなと。
Yuto:めっちゃ大変です。車は無理だし、飛行機は荷物がなくなっちゃうのが不安なので、中国では新幹線で移動するんですね。ただ中国の駅は日本の空港みたいな感じで、すごく広いし、セキュリティもちゃんとしてるから、機材を引きずってそのなかを移動するだけでも結構大変なんですよ。で、ライブをしたらすぐ次に移動してっていうのを2週間くらい繰り返すので……それは正直きついです(笑)。
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全公演ソールドアウトで1万5千人を動員。バンドの成長を実感した2019年の中国ツアー
―2018年には北京と上海で開催される中国最大規模の野外フェス『Strawberry Music Festival』でメインステージに立っています。どれくらいの規模感なんですか?
山崎:北京は一日の動員数が8万人だそうです。
Yuto:ステージも『フジロック』のメインよりデカかったですね。
―The fin.がその位置まで行けたのはなにか要因があったのでしょうか?
山崎:それまでは曲が無料でネットに上がっちゃってたんですけど、2018年のツアーのタイミングでジェフがNetEase(Tencentと並ぶ中国の大手音楽配信サービス)と話をしてくれて、『There』が正式に配信されて、そのとき日本人で初めてトップバナーになったんです。いまだと一日とか、下手したら数時間でバナーが変わっちゃうんですけど、当時はまだそんなにリリースの量が多くなかったのか、2週間ずっとトップバナーで、そこで聴かれたのも大きかったと思います。
―New Noiseのジェフはかなりキーパーソンなんですね。
Yuto:彼がすごくやり手で、上手く導いてくれた感じはします。The fin.は他の外タレと比べて中国でのチケット代がすごく安くて、若い子が来やすいようにしてくれているんです。中国のカルチャーとかいろんな状況をくんだうえで、中国でのThe fin.の進み方を組み立ててくれてる。日本人のチームが中国に乗り込んでやるんじゃなくて、向こうのチームがいろいろやってくれるっていうのは成功の秘訣かもしれないですね。
―2019年のツアーはさらに規模を拡大して、13公演すべてソールドアウトになり、約1万5千人を動員。人気が完全に定着していることが伝わってきます。
Yuto:2018年は結構しんどくて、正直あんまり記憶がないんですけど、2019年のツアーはすごくよかった記憶があります。2018年より全然盛り上がったし、バンドとしても、やっとライブを楽しめるようになったのが2019年だったなって。ライブ13本を連日のようにやるのは修行みたいな部分もあるけど、それを経ることで、自分たちがより良いバンドになれてることを実感できました。



―もともとThe fin.は録音を重視してて、ライブは模索しながらやっていたわけですよね。
Yuto:そうなんです。でもこのころだんだんライブが好きになって……あと中華料理も好きになりました(笑)。最初八角がダメだったんですよ。最初行ったときは「これは無理だ」と思って、みんなでマクドナルドに行きましたもん。2018年のときももやしみたいなのばっかり食べてた気がするけど……2019年はなにを食べても美味しくて、八角も美味しいと思うようになったし、いまはライブをやらずにご飯だけ食べに行きたいくらいです。
―海外ツアーは食文化になじめるかどうかも大事な部分ですね。
Yuto:衣食住のどれかが欠けるとダメですよね。ロンドンに住んでたときはあっちこっち世界を飛び回ってたから、「住」が不安定過ぎて、東京だとAirbnbで泊まったりしてたけど、たまにとんでもない部屋のときがあって。中国もいまでこそちゃんとしたホテルを取ってくれてるんですけど、最初のころは一部屋に2人だったし、なおかつご飯もちゃんと食べれなくて、そりゃあ疲弊しますよね。
―でも回を重ねるごとにいろんな環境が改善されて、だからこそ、2019年のツアーが充実したものになったんでしょうね。
Yuto:すごく基本的なことですけど、自分の音楽をもって海外に行って、そこに待ってくれてる人がいて、その人たちに自分の音楽を直接届けることができるっていうのは、全ミュージシャンの夢やと思うんですよね。それができるのは奇跡に近いと思うので、圧倒的に幸せだと思うし、何回行っても毎回感動します。
―他の国と比較して、中国だからこそ感じられることもありますか?
Yuto:どの国も全然違うんですよね。中国とタイは全然違うし、イギリスとフランスも全然違うし、中国のなかでも場所によって全然違うし。だから、セットリストは毎回考えます。日本と中国とイギリスで同じセットリストだと上手く行かなかったりするので、現地のオーディエンスの感じを見て、どういう構成にして、どれくらいMCをするかとか、そういうのは常に考えてます。

Yuto:中国はお客さんの熱量が高いから、こっちもフィジカルを出せるっていうのはありましたね。いまは日本でもどこでもフィジカルなライブができるようになったけど、以前から中国だとフィジカルなライブができたっていうのは、The fin.が変化していくうえですごく大きかったかもしれないです。
―コロナ禍になってからツアーには行けなくなってしまいましたが、2020年の配信ライブは中国国内で約20万人が視聴したそうで、それもすごいことですよね。
山崎:コロナ禍以降の話で言うと、New Noiseがツアーを組めなくなってしまった代わりに、アナログをつくるようになって、The fin.は中国におけるアナログ人気の火付け役にもなったらしいです。中国はSNSの力が強くて、ターンテーブルの上でアナログレコードが回っている映像をアップすることが流行して、それも知名度の上昇につながったみたいですね。
※後編は近日公開
The fin.(ザ・フィン)

2012 年 4 月、兵庫県宝塚市にて Yuto Uchino と Kaoru Nakazawa を中心とした 4 人組バンドとして本格的に活動をスタート。Metronomy や Tame Impala、Washed Out、Friendly Fires といった海外のポップ・ミュージックに、 日本人である自分たちにも通じる孤独や寂しさ、喜びや悲しさなどの情動を感じ、 同じ時代を生きる若者として共感することにより、日本のロックのフォーマットに囚われない楽曲を制作。日本国内と同時に海外も目標に置いて活動し、インターネット・メディアを駆使し自分たちの音楽を世界に向かって共時性をもって発信している。