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殺人鬼のようなキャラクターとでも、心のつながりを見つけようと試みています。
―なるほど、それは興味深いお話ですね。一方でギャングスタラップのギャングの部分でいうと、『RHEINGOLD ラインゴールド』は幼馴染同士がギャング仲間になっていくという、伝統的なギャング映画としての魅力もあります。参照したギャング映画や、参照しなくても意識に染みついているような、フェイバリットのギャング映画はありますか?
アキン:何といっても(エドワード・ヤンの)『牯嶺街少年殺人事件』(1991年)ですね。また自分のターニングポイントになったのはマチュー・カソヴィッツ『憎しみ』(1995年)とテイラー・ハックフォード『ブラッド・イン ブラッド・アウト』(1993年)。自分が映画監督としてキャリアを始めた頃のものでは、ヤウズ・トゥルグル監督のトルコ映画『ESKIYA ~エスキア心の旅路~』(2018年 / 製作は1996年)ですね。

―『ESKIYA ~エスキア心の旅路~』は知らなかったです。
アキン:ぜひチェックしてください。『ESKIYA』に出てくる若いギャングスタの俳優は『RHEINGOLD ラインゴールド』で「おじさん」の役をしている(※裏社会のボス的な存在のイェロをウグル・ユーセルが演じている)ので、直接的な関係もあるんですよ。
―そうだったんですね、チェックしてみます。『RHEINGOLD ラインゴールド』もそうですが、監督の作品はどのようなテーマにおいても人間のパッションが強く感じられるのが魅力だとわたしは考えています。ご自身では、人間のどういった感情や姿を描くことに強く惹かれますか?
アキン:わたしの親友に今回の作品の初期段階のものを見せたときに――彼は良くないと思ったらはっきり言ってくれるタイプなのですが――、彼は「人間をしっかり描けている作品だ」と言ってくれました。それはうれしい言葉でしたね。人間のどのようなところを描こうとしているか自分でもわからないところがありますが、できるだけリアルに描きたいという気持ちは毎回持っていますし、映画のキャラクターに対してシンパシーを持つことがわたしには必要なのです。それがないと作れない。
それは「主人公が猫を助けたからいい奴だな」と共感するというような話ではなく、たとえば『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』(2020年)のように殺人鬼のときでさえ、何か1つだけでもその人物とつながれるものを見つけようとするのです。彼のように女性の首を部屋で切るようなことはできませんが、もしかしたらいっしょに飲んで話すくらいならできるかもしれない。そうやって飲み交わしているうちに「じつは殺人をした」と聞けば、「お前それは警察行ったほうがいいんじゃねえの」とは言えるかもしれない。そんな風に、毎回キャラクターと関係性を築きながら作っているんですよ。その過程があるからこそ、映画を観ている人にとってもキャラクターの信憑性につながっているのではないかと自負しています。
『RHEINGOLD ラインゴールド』

2024年3月29日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次ロードショー
140分/Dolby Atmos/2022/ドイツ語、クルド語、トルコ語、オランダ語、英語、アラビア語/ドイツ・オランダ・モロッコ・メキシコ
監督・脚本:ファティ・アキン
出演:エミリオ・ザクラヤ、カルド・ラザーディ、モナ・ピルザダ
配給:ビターズ・エンド
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