メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

柴田聡子と夏目知幸対談。長い付き合いの中で初めて語る、お互いの音楽と人生の移ろい

2024.3.11

#MUSIC

二人の書く歌詞について。「直截な言葉って、シンプルに見えて、じつは一番大きく謎を引き付ける表現だと思うんです」

―ここからはより歌詞にフォーカスした話に移らせて下さい。まず夏目さんに伺います。前半でも少し話に出た通り、それまでのバンド時代の歌詞と比べると、Summer Eyeではよりシンプルな表現になってきている印象があります。具体的な表現のレベルでも、やはり意識に変化があったんでしょうか?

夏目:そうですね。前までは、例えばミカンのことについて歌おうと思ったとしたら、「丸くてオレンジ色ですっぱいやつ」みたいな表現をしていたんですけど、ここ最近は一言「ミカン」って言い切ったほうがいいなと思っていて。

音としても意味としても、ギュッと身が詰まった言葉遣いができた時点ではじめてその曲が完成するというイメージですね。比喩表現もなるべくここぞっていう時だけにして、簡単に言えちゃうことは簡単に言い切っちゃおうという気持ちが強くなりました。

―それって、柴田さんの歌詞にも通じるものがありそうですね。柴田さんの歌詞って、表現自体はすごく直截だなと感じるんですけど、一方で、言葉通りにただありのままのことを言っているのではなくて、視点の変化や逸脱を交えながら歌われることで、言葉と言葉の間に明示されていない意味が滲んでくるような感覚があるんですよ。

夏目:うんうん。わかります。

―どういう考え方を経てそういう言葉の連ね方になっているのか、とても気になります。

柴田:それは多分、私がもともと映像の勉強をしていたからだと思います。コラージュとかカットアップとかモンタージュとか、いろいろな手法を教わったんですけど、そういうことを知ったおかげで、仮に同じものを撮っていたとしても映像表現っていうのは無限の可能性があるんだなと理解できたんです。

やろうと思えばなんでも繋ぐことができるんですよね。そこで得た驚きが、自分の歌詞にある視点の移動だったり、言葉自体の組み合わせ方に影響を与えていると思うし、実際にこれまでもそうやって挑戦してきたつもりです。直截な言葉って、シンプルなように見えて、じつは一番大きく謎を引き付ける表現だと思うんですよ。その言葉の含むものの大きさが底知れないというか。

夏目:わかるな〜。

柴田:もともと私は、擬人化がやめられない人間だったんです。「すべてのものに人と同じような魂がこもっている」っていうアニミズム的な発想じゃないけど、モノをやたら人に喩えて、人間の観点から考えてしまいがちで。

けど、最近はそればっかりじゃダメだと思うようなったんですよね。つまり、自然とか人間以外のものを深く理解しているようでいて、じつは「人間」っていう概念を尊重しすぎた、もっといえば人間であることの誇りみたいなものが不遜なかたちで働いてしまっているってことでもあるんじゃないかと思って。

人間って、いいところもいっぱいあるけど、どうしようもないところもたくさんある。今の世界の状況を見ても、どうしようもないどころか、害悪としか言いようのないこともたくさんあって……。

夏目:何千年も同じ過ちを繰り返してますからね……なんかすごい話になってきたな。

柴田:物事を形容するにしても、数学的っていうか、自然科学的な言い方はいいと思うんですよ。例えば、「太陽は大きくて丸い」みたいに。けど、「まるで風が話しかけてくるように」みたいな表現は、よく考えてから使わなきゃダメだと思っていて。

夏目:「花鳥風月を安易な人間の思い込みで擬人化するなよ!」と(笑)。

柴田:そう。「人間の都合にあわせて感傷に浸っているんじゃない!」って(笑)。とか言いつつ、今でもそういう表現をしちゃうんですけどね。

夏目:反対に、一見ドライな言葉遣いでも、顕微鏡で見てみたり望遠鏡で見てみたり、目線を変えるようにカット割りされた表現を使えば、面白い歌詞はできるってことだよね。

柴田:そうそう。だからこそ、比喩を弄ぶんじゃなくて、あくまで直截な表現を積み重ねていくのが一番面白いと思ってしまうんですよ。

夏目:めちゃくちゃわかる。

柴田:たくさん歌詞を書いていると、つい手癖みたいなものができてきちゃうんですよね。それに溺れないようにするためにもそういうことは考えていますね。といっても、テクニカルな確信があるというより、あくまで勘でやっている感じなんですけど(笑)。

夏目:でも、そうやって勘で作ったものとはいえ、やっぱり自分で「これだ」と納得するタイミングがくるわけだよね。

柴田:そう。歌いながら作っていくと、最初はバラバラだったものが、不思議となんとかなっていくんですよね。今回の作品は特にそうでした。「ここはリズムに乗らないかなあ」みたいなところも、「乗せるぞ!」っていう根性と開き直りがあれば案外乗っちゃうこともわかって。

昔は「ここちょっとハマりが悪いな」っていうところがあった場合、他の言葉に置き換えたりしていたんですけど、最近は「この言葉がどうしても必要だから、気合を入れて歌の表現力でいくしかねえ!」って思えるようになったんです。

―柴田さんの言う「歌でなんとかする」っていうのは、本来想定していた音符なり譜割りから外れてでもいいから、何よりも説得性のある歌を歌うっていうことですかね?

柴田:そうですね。

夏目:その話で思い出したのが、忌野清志郎さんの“500マイル”のカバーバージョン。ピーター・ポール&マリー版で有名な曲ですけど、清志郎さんは日本語に訳して歌っていて。

夏目:はっきり言って原曲の譜割りやノリとは違うものになってしまっているんだけど、その方が圧倒的に「歌」になっている気がしたんですよ。それは自分で曲を書くときにも大きなヒントになってるんだけど、柴田さんも、まさにそういうことを自分の歌を歌うにあたってやっているのかもしれないね。

柴田:そうかもしれない。でも音韻論をわかってやっているわけじゃないし……勉強しなきゃなと思うし、本当はこういう話をいろんな人とたくさんしたい!

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS