メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

中国のバンドブームをどう思う? レジェンド・Carsick Carsが語るシーンのいま

2023.12.20

#MUSIC

日本で『イカ天』がバンドブームに火を着けてから約30年後、2019年より中国では動画配信プラットフォーム大手、愛奇芸(アイチーイー)が手掛けるバンドオーディション番組『The Big Band(乐队的夏天)』の配信がはじまり、2020年に第2シーズン、2023年に第3シーズンまで放映されている。

番組は中華圏から集ったさまざまな音楽性のバンドがコンテストに挑むという内容で、瞬く間に人気番組となり、中国でバンドブームを引き起こしている。人口の多さ、国土の広さもあいまって、ロックシーン全体がスケールアップし、「食べていける」音楽関係者も増えているという。

メディアが大きくバンドシーンを拡大させている一方、DIYでコツコツとシーンを築いてきた当事者はどう思っているのだろうか。2000年代前半に北京へオルタナティブロックの価値観を持ち込んだアンダーグラウンドミュージックシーンの創始者で、大都市のツアーを即完売させるほどの実力を持つベテランバンド・Carsick Carsであれば冷静に語ってくれるだろうと考え、来日を機に話を聞いた。

バラバラの3人だからこそ出せる音がある

Carsick Cars(カーシックカーズ)
2005年に結成。北京を中心に活動を開始し、中国の音楽業界人や洗練された若い音楽ファンから強い支持を受けているインディーズバンドの象徴的な存在。中国で優れたインディーズバンドを輩出している音楽レーベル「Maybe Mars」所属。アメリカ、オーストラリアなど多数の海外ツアーを果たし、2007年にはソニック・ユースのヨーロッパツアーに同行。中国のインディーズ音楽を牽引し続けている稀有なバンドである。

<日本人アーティストからのコメント>
人生最高の思い出の一つはDYGLと行った2017年の7都市に及ぶ中国ツアーの最終日、アンコールにCarsick Carsの「中南海」をカバーしたことです。彼らの音楽は、遠い異国のものでもなんでもなくて、きっと自分たちと同じように音楽が好きでバンドをやっている人が中国にもいる、というよくよく考えれば当たり前のことを体現したようなサウンドです。中国の隠されたオルタナティヴ・ロックです! mitsume 川辺 素 https://www.tunecore.co.jp/artists/CarsickCars?lang=ja

ー今回は待望の初来日公演で、お話を聞けるのを楽しみにしていました。チンさん(Dr)、ウェイスーさん(Ba)は日本のアニメ、ゲームにも親しみをお持ちと聞きましたが、自己紹介も兼ねて、最近おすすめのコンテンツについて教えていただけますか。

ウェイスー(Ba):僕はSteamで1980年代のゲームをしています。日本のレトロゲームも好きで、初代『ファイナルファンタジー』から順に始めて、今は『ファイナルファンタジーVI』に挑戦中です。

チン(Dr):『THE FIRST SLAM DUNK』は中国の映画館で16回見ました! 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』も最高。私たちのマネージャーは3人の性格をエヴァにあてはめて、「チンはシンジ、ショウワンをアスカ、ウェイスーはレイだよね」って。彼女はもしかすると、私たちをマネジメントすることに疲れているのかも(笑)。

ー(笑)。ショウワンさんは、ゲームとかアニメはあまり、と聞きましたが。

ショウワン(Vo&Gt):そうですね、最近は狩猟犬と獲物の関係性を描くドキュメンタリーをずっと見ていました。捕食者と被食者の関係が複雑で面白いな、と。

チン:捕食者、被食者といえばアニメ『進撃の巨人』の最終シーズンが始まるよね。今回来日して、日本でリアルタイム視聴ができるので、それも楽しみ(※)。

※Carsick Carsが出演した『BiKN shibuya 2023』は11月3日(木・祝)開催で、『進撃の巨人』The Final Season 完結編は11月4日(金)より放送開始された。

写真左から、ウェイスー(Ba)、チン(Dr)、ショウワン( Vo &Gt &  Loop)


ー皆さん、本当に趣味はバラバラなんですね。さてCarsick Carsは北京のバンドシーンでレジェンド的存在として知られていますが、シンプルな構成の楽曲の中に、強いメッセージ性と次々に繰り出される自由なアイデアが魅力です。まずは制作するときのプロセスと、インスピレーションについて教えてください。

ショウワン:曲作りをするときは大抵スタジオに入ってジャムをしながら、3人が「これは良いね!」と一致したものを起点に、アイデアを膨らませていきます。そうしていく中で、曲のテーマになるインスピレーションを軸にして歌詞を当てはめにいく。

ウェイスー:僕とチンは『Snapline』というノイズミュージックのサイドプロジェクトをしていて、そこからアイデアが得られることも多いです。

ー中国インディーズロックの代名詞的な楽曲、“中南海”の間奏の即興的な演奏はまさにそれですね。

チン:感性がバラバラの3人が良いと思ったものを残すことで、その最大公約数的な部分が、Carsick Carsのアイデンティティになっていく。技巧的なものではなく人間味が私たちらしさかもしれません。

ショウワン:自分は若手のバンドのプロデュースをしているのですが、北京では象徴的なライブハウスがいくつもあり、そこで若い人が演奏すると、私たちには出せない良いものができます。若手のアーティストを通して、インスピレーションが得られることがあります。

北京にはDIY文化が着実に根付いている

ーここからは、中国ロックシーンのトレンドについて伺いたいと思います。まず、オーディション番組『The Big Band』以前にも、商業化の流れはあったと思いますが、そのスケールや活動内容について、当事者から見ていかがでしたか。

チン:いわゆる歌謡曲風ではない、新しいバンドが活躍しはじめたのはだいたい2004〜2005年頃からで、当時からメディアがユースカルチャーを語る上で重要な存在の一部だったと思います。その後、コンバースやZippoなど、カルチャーと深く結びついたブランドとのコラボレーションが徐々にはじまりました。2010年頃にコンバースがバンドやレーベルとのコラボレーションをはじめたのをよく覚えています。

ウェイスー:その過程で、アメリカの『SXSW』で中国をテーマにしたショーケースが行われたように、海外のミュージシャンやイベントとつながったり、より多くのオーディエンスに中国のロックシーンを届けるために「文化勢力」として一丸となる機会もありました。

ー『The Big Band』の2ndシーズンに、Carsick Carsも出演しています。出演した狙いについてまずお聞きできますか。

ウェイスー:一番の動機は、「もっといい生活がしたい!」(笑)。実際に出演した後は、イベントのギャラも上がったし、出演する機会も増えたよね。

ショウワン:個人的には、何年もやってきたバンドが番組に出ることで有名になるのは健全ではないと思うけれど。ただ、番組の影響で実際にインディーズバンドに興味を持つ人もぐっと増えたので、それはポジティブな面かなと思っています。

チン:テレビに出るかどうか、というよりどういう番組に出るかが大事なのだけど、今の中国にはこの番組しかないですからね。結局私たちは優勝できなかったんだけど、それによって、こういう番組に必要なのは私たちみたいなバンドじゃないんだな、という気づきもあったし。『The Big Band』はその後、有名なポップ歌手とコラボする企画を番組内でやったので、そうした流れに加わらずに済んだのは正直、良かったです(笑)。

photo by: gmng

ーこうした商業化が、若いバンドにもたらす影響についてどう考えていますか。

チン:大型のライブハウスが出てきて、レンタル料も上がって……と、ビジネス化しすぎている側面はあるよね。昔みたいにふらっとスタジオに行って、そこに他のバンドの誰かがいて、軽くジャムして……という風景が減ってきてるのはちょっと残念。でも、皆食べていかないといけないのでしょうがないかな。

ウェイスー:ライブハウスが商業的になっていく一方で、逆にDIYに回帰して新しいシーンが出てきた側面もあるよね。工場、公園、カフェに演奏の場を求めてDIYでライブをするという流れも生まれていて、たとえばイベントスペース「fRUITYSPACE」では僕たちの仲間も出演していて、面白いライブも多いし。

ショウワン:そう、商業主義に引っ張られると、そのカウンターになり得る新しい流れも生まれてくるから、必ずしもビジネス化していることが悪しき側面だけではないですよね。

ー中国のバンドにとって、そうした広告的な価値の獲得を活動のスコープに入れるのは普通の価値観になっていますか。

ショウワン:テレビに出たいバンドもテレビに出たくないバンドもいて、二極化しているかもしれませんね。メディアの恩恵を受けられるかは運の部分が大きい。商業資本は常に時代に合うものを追い求めるけれど、音楽制作はやはり自分が何を表現したいかが第一だと思います。

チン:広告的なコラボレーションって、本来はお互いの考え方が一致してるからやるはずなんだけれど、今はスポンサーの意向がどうしても強くなってしまうよね。アーティストとスポンサーの方向性が一致している良いコラボレーションをもっと見たいなと。

ウェイスー:僕たちみたいな地下のバンドがスポンサーを獲得できないのはしょうがないよね。“中南海”とコラボする(※)わけにもいかないし(笑)。

※1stアルバム『Carsick Cars』に収録されている代表曲”中南海”はタバコの銘柄について歌ったものと言われていて、中国では「中華人民共和国広告法」によりタバコの広告が全面的に禁止されている。

若手アーティスト発掘のポイントは「赤い瞳」をしているか?

ーチンさんは、北京拠点の大型レーベルで、デビュー以来Carsick Carsのリリースを手掛けるMaybe Mars Records(兵马司唱片)の共同創設者である一方で、2015年にRuby Eyes Records(赤瞳音樂)の立ち上げにも関わっています。この2つのレーベルにはどういった違いがありますか。

チン:Maybe Mars Recordsは2007年の創立以来2010年代前半にかけて、ポストパンクロックのジャンルでクールなバンドを次々と発掘し、北京のシーンを築いたんです。しかし時代が変わって、新しい音楽性のアーティストもどんどん出てきて、彼らをフックアップする必要も出てきた。Ruby Eyes Recordsはジャンルを問わず、新しいアーティストを表に出していくという方針です。

ショウワン:Ruby Eyesで扱うアーティストは多元的でありつつ、Maybe Marsの精神性を継承しているよね。

チン(Dr)

ー新しいアーティストの発掘で重視しているポイントはありますか。

チン:レーベル名の通り、「赤い瞳」、つまり熱い目をしているか? そして作品に強さがあるか? ということです。たとえ有名ではないアーティストでも、ライブを見て衝撃を受ける感覚ってありますよね。そういうアーティストをサポートしたいんです。だから有望だな、と感じたアーティストに出会ったときは、必ず一度会いに行って深く話します。一度レーベルに入れば、活動が軌道に乗るよう、親友のようにサポートする。

ー中国大陸だけではなく、台湾のサイケサーフバンドCrocodelia(鱷魚迷幻)のツアーも手掛けました。台湾ではサイケデリックロックの自体のファンベースが大きくない中、あえて中国でツアーを組んだ理由は?

チン:彼らもそうした「熱い目」をしていたからです。コロナ禍で少し台湾とのつながりが薄れてしまった側面もありますが、最近注目している台湾のバンドは「昏鴉(The Murky Crows)」。ロマンチックな音楽性なのでぜひ聴いてみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=ml2y5uAItnk

ーチンさんがそうした、レーベル業や若手のバンドから得られるものはありますか?

チン:一番大事なのは新しい音楽を聴き続けることです。今は新しいサウンドを生みだすのが難しい時代になっているから、気を抜くとパターン化していたり、古い価値観のままで止まってしまう。「認知症」みたいにならないようにするのが大事だと思っています。

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS