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北京にはDIY文化が着実に根付いている
ーここからは、中国ロックシーンのトレンドについて伺いたいと思います。まず、オーディション番組『The Big Band』以前にも、商業化の流れはあったと思いますが、そのスケールや活動内容について、当事者から見ていかがでしたか。
チン:いわゆる歌謡曲風ではない、新しいバンドが活躍しはじめたのはだいたい2004〜2005年頃からで、当時からメディアがユースカルチャーを語る上で重要な存在の一部だったと思います。その後、コンバースやZippoなど、カルチャーと深く結びついたブランドとのコラボレーションが徐々にはじまりました。2010年頃にコンバースがバンドやレーベルとのコラボレーションをはじめたのをよく覚えています。
ウェイスー:その過程で、アメリカの『SXSW』で中国をテーマにしたショーケースが行われたように、海外のミュージシャンやイベントとつながったり、より多くのオーディエンスに中国のロックシーンを届けるために「文化勢力」として一丸となる機会もありました。
ー『The Big Band』の2ndシーズンに、Carsick Carsも出演しています。出演した狙いについてまずお聞きできますか。
ウェイスー:一番の動機は、「もっといい生活がしたい!」(笑)。実際に出演した後は、イベントのギャラも上がったし、出演する機会も増えたよね。
ショウワン:個人的には、何年もやってきたバンドが番組に出ることで有名になるのは健全ではないと思うけれど。ただ、番組の影響で実際にインディーズバンドに興味を持つ人もぐっと増えたので、それはポジティブな面かなと思っています。
チン:テレビに出るかどうか、というよりどういう番組に出るかが大事なのだけど、今の中国にはこの番組しかないですからね。結局私たちは優勝できなかったんだけど、それによって、こういう番組に必要なのは私たちみたいなバンドじゃないんだな、という気づきもあったし。『The Big Band』はその後、有名なポップ歌手とコラボする企画を番組内でやったので、そうした流れに加わらずに済んだのは正直、良かったです(笑)。

ーこうした商業化が、若いバンドにもたらす影響についてどう考えていますか。
チン:大型のライブハウスが出てきて、レンタル料も上がって……と、ビジネス化しすぎている側面はあるよね。昔みたいにふらっとスタジオに行って、そこに他のバンドの誰かがいて、軽くジャムして……という風景が減ってきてるのはちょっと残念。でも、皆食べていかないといけないのでしょうがないかな。
ウェイスー:ライブハウスが商業的になっていく一方で、逆にDIYに回帰して新しいシーンが出てきた側面もあるよね。工場、公園、カフェに演奏の場を求めてDIYでライブをするという流れも生まれていて、たとえばイベントスペース「fRUITYSPACE」では僕たちの仲間も出演していて、面白いライブも多いし。
ショウワン:そう、商業主義に引っ張られると、そのカウンターになり得る新しい流れも生まれてくるから、必ずしもビジネス化していることが悪しき側面だけではないですよね。
ー中国のバンドにとって、そうした広告的な価値の獲得を活動のスコープに入れるのは普通の価値観になっていますか。
ショウワン:テレビに出たいバンドもテレビに出たくないバンドもいて、二極化しているかもしれませんね。メディアの恩恵を受けられるかは運の部分が大きい。商業資本は常に時代に合うものを追い求めるけれど、音楽制作はやはり自分が何を表現したいかが第一だと思います。
チン:広告的なコラボレーションって、本来はお互いの考え方が一致してるからやるはずなんだけれど、今はスポンサーの意向がどうしても強くなってしまうよね。アーティストとスポンサーの方向性が一致している良いコラボレーションをもっと見たいなと。
ウェイスー:僕たちみたいな地下のバンドがスポンサーを獲得できないのはしょうがないよね。“中南海”とコラボする(※)わけにもいかないし(笑)。
※1stアルバム『Carsick Cars』に収録されている代表曲”中南海”はタバコの銘柄について歌ったものと言われていて、中国では「中華人民共和国広告法」によりタバコの広告が全面的に禁止されている。