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アキ・カウリスマキ映画を解説。物質主義社会の片隅で生きる人々の居場所を描き続ける

2023.12.15

#MOVIE

物質主義社会の敗者を「敗者」のままにしない。その居場所の探求は続く

この映画を契機として、カウリスマキはフィンランドを舞台に貧しき者たちがそこにこそ生きる場所を見出していく作品を生み出していく。フィンランドはその後グローバル化の波に乗ることで奇跡的な経済的回復を遂げることになるが、痛みを伴う改革は一方でさらなる格差を生み出すことにもなった。職も住む家も失ったホームレスの共同体を描いた『過去のない男』はそうした変化を背景にしている。が、本作でもカウリスマキは彼らが生きる場所はここにある、としぶとく宣言する。社会からの追放を救いだと言っていたシニカルな男はもういない。そのとき彼の映画のなかでは、社会から滑落した者たちはそれでも仲間で助け合い、酒を飲みかわし、音楽を奏で、明日を生きるための希望を分かち合うのだ。

それはヨーロッパに広がる不寛容な移民政策に反対の意をこめて移民を主人公にして制作した『ル・アーヴルの靴みがき』(2011年)や『希望のかなた』(2017年)でも同様で(前者は舞台をフランスの港町としているものの)、弱い立場にいる者を庶民たちが助ける過程をより具体的に描こうとしている。ユートピア幻想が消え去ったことで、かえって貧者たちの人間性がタフに立ち上がることになったのである。

『希望のかなた』予告編

カウリスマキの映画では、資本主義社会の「敗者」たちの尊厳が頑なに信じ抜かれる。経済格差がますます広がり、次々と悲惨な戦争が巻き起こる現代にあって、それでもそんな小さなものを讃えるにはどうすればいいのか……『枯れ葉』は、そんな頑固な理想主義者の新たな実践に他ならない。だから彼は自分がどこから来たのか思い出し、その先にあるものとして、また映画を作り上げたのだろう。

そうした意味でカウリスマキは貧者が生きる場所をつねに探し続けてきた作家だが、結局のところ、その「場所」は彼が作り上げる美しい映画世界のなかにある。登場人物たちは物質主義的な価値観の世のなかでは文字通りの「持たざる者」に違いない。けれども彼らは仏頂面のまま、味わい深い音楽とささやかな食事を噛みしめ、日々の労働に誇りを抱き、ふと出会うロマンスに心ときめかせる。彼らが持つのは、粘り強く存在する人間愛だ。敗者が敗者でなくなる場所――それこそが、アキ・カウリスマキの映画であり続けている。

『枯れ葉』場面写真 / © Sputnik

(参考資料)
『アキ・カウリスマキ』ペーター・フォン・バーグ著 森下圭子訳 愛育社刊
『アキ・カウリスマキ』遠山純生編 エスクァイアマガジンジャパン刊

『枯れ葉』

2023年12月15日(金)よりユーロスペースほか全国ロードショー
上映時間:81分
製作:2023年(フィンランド=独)
配給:ユーロスペース
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:
アルマ・ポウスティ
ユッシ・ヴァタネン
ヤンネ・フーティアイネン
ヌップ・コイヴ
https://kareha-movie.com/

特集上映「愛すべきアキ・カウリスマキ」

2023年12月9日(土)~2024年1月12日(金)
会場:東京都 ユーロスペース
上映作品:
『罪と罰(1983年)』
『カラマリ・ユニオン』
『パラダイスの夕暮れ』
『ハムレット・ゴーズ・ビジネス』
『真夜中の虹』
『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』
『マッチ工場の少女』
『コントラクト・キラー』
『ラヴィ・ド・ボエーム』
『愛しのタチアナ』
『トータル・バラライカ・ショー』
『レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う』
『浮き雲』
『白い花びら』
『過去のない男』
『街のあかり』
『希望のかなた』
http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000739

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