INDEX
「すべてのクリエイティブは外からの刺激によって生まれる。意思を持ち続ける限り、アイデアは生まれ続けるんじゃないかな」(三船)
ー三船さんが新作に込めた「個人的な発見でしか人間はドライブできない」という気づきにも通じますね。実は今日までお二人とも「個人的な発見」ではなく、世の中に対する問いや違和感をきっかけに作品をつくられているのではないかと思っていました。
吉祥丸:それを第一に作品をつくるのではなくて、つくったものが勝手にそういったものに繋がっていくのだと思います。社会をある方向に変えることを目的に作品をつくっても、誰かにとっては思想の押し付けになりうる危険もあると思うので、僕はもっと開かれた問いを提示していきたいと思っています。自分は正直、世界の歴史や構造のほんの一部しか知らないですし、戦争で目の前で誰かが亡くなるような体験も実際にしたことはありません。しかし、そんな自分という存在を俯瞰して捉えつつも、自分自身が触れることのできる範囲で、自分という媒介者を通して投げかけた波紋が少しずつ広がっていって、この世界に少しでもいい循環を生むことができればそれで十分とも思っています。
三船:僕自身もそうですが、長い歴史の中で誰か一人が社会をどうにかできた試しはないし、社会を変えようと言っているだけでは人々はなびかないんじゃないかな。「これ良くない?」「この音楽を楽しくない?」って、身近な人たちに共有していったほうが実感として人は変わる。無理に多くの人に届けようとしても、表層的なものしか届かないと思っています。

三船:とはいえ、ひと握りの背伸びがたいせつだなとは思う部分もあって。そうすることで手の届く範囲をちょっと飛び越えて海の向こうで聞いてくれたり、僕が知らない世界でROTH BART BARONの音楽が盛り上がってくれたり。
吉祥丸:ほんの少し背伸びをすることで、その作品が起こす小さな波紋がすこしだけ大きくなって、やがて別の場所にある波紋と繋がってどんどん大きくなる。僕もそういう地道な繰り返しが身近なコミュニティを考える上でも、大きな社会を考えていく上でもたいせつだと思っています。
ーそれこそ先ほどの、フィジカルで繋がる関係の中で作品を届ける重要性を感じますね。でも、お二人は何かをつくり続けることが苦しくなったり、線路が途切れてしまう、ということはないのでしょうか。
吉祥丸:僕らは何かをつくるというそのアイデアやエネルギーが写真や音楽としてアウトプットされていますが、「何かを自分以外の存在に共有したい」という気持ちは誰にでも当てはまると思います。たとえその気持ちがなかったとしても、周りの世界に目を向けていれば、自分でも気づかないうちに何かしらの列車に乗っているのではないでしょうか。
三船:「すべてのアイデアは外からきて、クリエイティブやアウトプットはそれの反応現象」とリック・ルービンも言っていて。たぶんアイデアが自分自身から生まれることってほとんどないと思うんですけど、その反応って本当はおなかが減るのと同じくらい誰にとっても自然な営みで。たいせつなのは吉祥丸さんが言うように「世界の魔法」に気づくこと。そうすれば、きっと生きて意思を持ち続ける限り、アイデアは生まれ続けていくんじゃないかな。

『音楽とグラフィック #002』

2023年11月9日(木)~2023年12月17日(日)
会場:OFSGALLERY(OFS.TOKYO内)
時間:木~月 12:00~20:00 (展示最終日は18時まで)
URL:https://ofs.tokyo/about/
写真集情報

ROTH BART BARON 三船雅也
『RBB “ZINE” BEAR MAG vol.3 – ” 8 ” Photo Book』
2023年11月8日(水)
発売価格:4,400円(税込)
URL:https://roth.theshop.jp/items/78634229