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ROTH BART BARON三船雅也×嶌村吉祥丸の写真談義 自分にしか気づけない世界を探して

2023.11.24

#MUSIC

「世の中にはすでに好きな作品がある中でなぜ自分がやるか。この瞬間これを美しいと思えるのは自分しかいないと気づくんです」(吉祥丸)

ーフィジカルで繋がった「この場所・この人に響く作品」とはどういうものなのでしょうか。

三船:「日常の中に流れているものでありながら、日常をうまく超えられるような作品」ですかね。たとえば写真であれば、そこにあるものをただ写すだけではなく、吉祥丸さんだったら吉祥丸さん、僕だったら僕の視点でそこにあるものを撮ろうと思った意思がある。その中に「日常を超えようとする意思」を込められると、それがいい作品になっていくのかもしれない。

ー日常を越えようとする意思。それはどういう瞬間に生まれるのでしょうか。

三船:写真を撮ったり曲を考えているとき、とある場面が頭に浮かんできて、それにたどり着こうとする原始的な強い意思みたいなものを感じるときがあるんです。詩も最終的には言語としてアウトプットされるけど、むしろ最初は非言語的なイメージボードがあって、それを後から言葉にしています。ツールが違ってもどの表現も根っこにあるものはいっしょで、その瞬間をキャプチャーしたいから写真をとるし、楽器を弾き歌をうたう。僕の作品はメッセージ先行かと思われるかもしれませんが、実は最初はすごく非言語的で曖昧なイメージから始まっているんです。

吉祥丸:僕も常に頭の中で並行して考えている曖昧な概念がたくさんあって、それがたまたま時期や人と繋がったときに、香りのブランドやラーメンやギャラリーという具体的なプロジェクトになってアウトプットされる。おおもとにあるのは三船さんと同じで、非言語的で曖昧な何かなのかもしれません。

三船:もう勝手につくりたいことは浮かんじゃうから、あとはやるしかないんですよね。もっと言えば意思がアイデアに変わって、気付いたら何かをつくり始めている。わかりやすくたとえると、僕の場合はいつも10本くらいのアイデアの列車が走ってて、いつもそのどれかを運転している。そしてその列車が目的地につきそうになったら、隣を走る電車に飛び乗るんです。最後はもう放っておいても勝手に目的地を目指してくれるので。

「ジュブナイル」も10年くらい隣を走ってたけど、なかなか飛び乗るチャンスがなかった。でもドイツに行ってみて、さっき言ったような「個人的な発見や喜び」が自分に当てはまった瞬間に、今ならできる! と急いで飛び乗った感じです。

吉祥丸:「走っている列車に飛び乗る」という表現はおもしろいですね。列車の例を借りて言えば、その列車たちが実は振り返ったときに同じ線路を走っているということもあると思うんです。僕は展示をするとき、コンセプトに関連した論文や歴史、過去の別アーティストの作品などをリサーチするのですが、たとえば自分がむかし直感的に撮った写真の中にも、そのときに考えているコンセプトと同じ匂いのする作品があることも。列車は必ずしも同じ線路を走り続けているわけではなくて、交差したり、分裂したり、そのときどきによって変化しているようにも感じます。

三船:何かの魔法みたいに列車と列車が連結するタイミングがあるんですよね。実際、『8』にある“Closer”という曲はコロナが始まったときに「踊れる曲を」と思ってつくったものだけど、踊れない世界で3年間歌える気がしなくて、リリースしなかったんです。でも2023年になってコロナが明けた瞬間に、パズルがはまるように『8』に入れるべきだと感じた。どういうわけか歌詞も「ジュブナイル」にぴったりだったんです。

ーまるで、自分でも気づかないうちに列車に引き寄せられているようですね。

三船:もはや自分が運転しているわけでもないのかな。どちらかといえば列車にコントロールされている(笑)。

吉祥丸:そうかもしれませんね。先ほどの作品づくりの出発点にある意思の話とも繋がるのですが、世の中にはすでに自分が好きな音楽家や写真家がいる中で、なぜ自分がやらないといけないのかということが腑に落ちる瞬間があるんですよね。自分がこの写真を撮らないといけない……というよりも撮らざるを得ないんだという瞬間。このときこの場でこれを美しいと思えるのは自分しかいない、と気づくんです。その曖昧で直感的なものに自分がこれまで考えていた作品のコンセプトや思考を結びつけることで、作品が出来上がるんだと思います。

三船:吉祥丸さんの言葉を借りると、自分しか気づけない世界のちょっとした魔法に気づけるかどうか。そして一度気づいたら、その「世界の魔法」が持つ魅力を曲をつくったり写真を撮ったり、僕らなりの視点と意思を通してアウトプットすることで増幅しているんですよね。

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