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多忙かつ責任も重たいが、それでも「余力がある」と語る石若駿のメンタリティ
─歌モノのポップスをここ数年やってきて、何か気づいたことはありますか?
石若:これは音楽の聴き方の話になるかもしれないのですが、やはり歌詞が乗ることによって、その言葉を取り巻いている音楽の状況が聴き手により強く記憶づける効果があると思いました。しかも時を経ることにより、その歌詞が持つイメージがいろんな形に変化していくのも面白い。それってインプロヴィゼーション要素の高いジャズを毎日やっていてあまり持ったことのない感覚だったので、インストな音楽と、歌詞のある音楽の違いになるのかなと思います。うまく説明できているかわからないんですけど。
演奏する側からすると、とあるジャズのスタイルの場合はこの先何が起こるかわからない未来を想像しながらどんどん演奏していく。毎日ツアーで同じ曲を演奏するシチュエーションで、1キロ先のゴールに向けていろんな道と景色があり、それが毎回全然違い、その違いを楽しんだり、壊したりする即興性の高い音楽なんですよね。対してポップスの演奏の場合、もう少し決まった道のりや景色があって、それをどういうふうに歩いていくか、どういうふうに彩っていくかを考える。そんな違いがある気がします。しかもドラマーは、アンサンブルの中でとても影響力があって、責任が重いと思っています。

─というと?
石若:必ず決まった構成のある演奏の場合、例えばサビの数小節手前でバンドが鳴らしている音ををギューと抱擁し続けて、サビ頭で上の空間にエネルギーを持ち上げるようなイメージを、あらかじめ持って演奏するような。それは、ジャズを演奏している瞬間とは一味違う頭の使い方ですが、もちろんどんな音楽でも大切にしているスタンスは同じですね。その瞬間生まれた誰かのちょっとしたアイデアに、いつでもキャッチできるセンサーを持っていたいし。それを活かすことで、「その日の未知なる景色」を探し出そうと思っています。なので、演奏している時にモードを切り替えなきゃいけないというつもりはないですね。
─石若さんは今、最も忙しいミュージシャンの一人であるのは間違いないし、しかも全く畑の違う現場を渡り歩きながら毎日演奏をしている印象です。よくそれだけの仕事量をこなせるなといつも思うんですよ。僕らの仕事で喩えるなら、今日は科学者にインタビューして、明日はスポーツ選手にインタビューするような感じじゃないかなと。しかも準備する時間もほとんどないっていう。
石若:あははは、なるほど。
─実際、どうやって対応しているんですか?
石若:僕は、自分がすごくラッキーだなと思っているんです。毎日こうやってレコーディングやライブがあって、もちろん準備しないといけません。事前にデモを聴いて機材の選定やチューニンングのイメージをしたり、譜面に目を通したり。ただその準備の仕方が、幼い頃からの音楽体験によりスピーディなんだと思います。側から見たら、「忙しそうだな」「準備する時間とかあるのかな」なんて思われているけど、実際のところ余力が常にあって、新しく出会う音楽に常にワクワクしている感覚があるんですよね。
─なるほど。
石若:今までずっといろいろやってきた経験は今の活動の仕方に対してどれも必要で、そのおかげで余力がちょっとある状態でできるようにしてくれているのだと思います。ジャズと呼ばれる音楽の中でもいろんなスタイルを演奏してきましたし、そこで感じ取ったことがそれぞれあって、全然違う音楽にも還元出来ているのかなと。そういう手札を、この歳になってうまく使えるようになってきたともいえますね。
─それはきっと、子供の頃から新しい現場や不慣れな現場へ果敢にも飛び込んで行った経験があったからこそでしょうね。
石若:かつ、そういう自分を楽しんでくれる人に、ラッキーなことにずっと巡り合い続けてきたんだと思います。やっぱりタイミングってあるんだと思います。「この人にその時期に出会ったから」という強烈な出会いに恵まれてきたんですよね。感謝極まりないです。