昨今、北米以外のポップミュージックがグローバルで注目を集めている。ヒットチャートにもその傾向は表れており、これまでの北米中心のトレンドが崩れつつある中、イギリスの復権に加えラテンミュージックやK-POPの台頭が可視化されるようになって久しい。日本においても、YOASOBIや藤井風からIchika Nito、新しい学校のリーダーズに至るまで、シーンや手法は異なるが多くのアーティストが海外で存在感を高めている。
そんな中、今回NiEWでは「グローバルなシーンの中でアジアのアーティストとしていかにサバイブしていくか」というテーマで、JP THE WAVYとLexie Liu(レクシー・リウ)による対談を実施。映画『ワイルド・スピード』シリーズへの楽曲提供やアジアツアーによって海外での展開を進めるJP THE WAVYと、先鋭的な作品で国外の人気を高め、88risingからもリリースを行うLexie Liuが語り合った。Lexie Liuはちょうど『FUJI ROCK FESTIVAL』で来日し、JP THE WAVYのもとを訪ねてのコラボレーション。実体験を元にした、2人のアーティストのリアルなトークに触れてほしい。
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日本と中国のミュージシャンが語る、自国と他国での活動の実感
―WAVYさんはアジアツアーをされていたばかりですね。国内と海外のライブで変えたポイントなどはありましたか?
JP THE WAVY(以下、WAVY):MCのためにその国の簡単な言葉を練習したりはしましたけど、基本的には何も変えてないんです。どれだけがんばったとしても結局、自分は日本語で歌ってることには変わりないし、あまり考えずにいつも通りやっています。そもそもフェスに呼んでもらってる時点で、普段のパフォーマンスを見てくれて、良かったから声がかかってるんだろうなって思うので。

1993年生、湘南出身。2017年にMVを公開した「Cho Wavy De Gomenne」が大きな話題に。映画『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のサウンドトラックに唯一のアジア人として参加。2023年公開の『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』では日本版イメージソングを提供した。
―お二人とも自国以外へ活動の場を広げている最中ですが、実際に海外進出をされる中で得た発見があれば教えてください。
WAVY:自分は日本と国外で大きな違いはそんなに感じていなくて。でも海外の方は知らない曲でも興味を持って聴いてくれて、それがいい曲だったらすごくノってくれる気がします。日本人は知ってる曲で盛り上がる傾向がある。そこは違いますね。
Lexie Liu(以下、Lexie):特に欧米の人は知らない曲への関心が高いですよね。アジアの人間は恥ずかしがり屋なのか、様子を見てゆっくりノっていく印象です。

1998年生、湖南省長沙出身。中国とアメリカで活動。2015年、韓国のオーディション番組「K-pop Star」第5シーズンに出場。2017年、「サウス・バイ・サウスウエスト」(SXSW)に出演。初めてSXSWに出演した中国アーティストとして知られる。2019年にはEP「2030」をリリース。2023年『金曲奨』の最優秀女性シンガーにノミネートされた。
―海外でやることで、自国の音楽の良さに気付くことはありますか?
WAVY:色んな国に行けば行くほど、日本のラッパーは本当にさまざまなタイプがいるなって思うんですよ。こんなに小さな国なのに、ヒップホップの中のジャンルが幅広くて、東京のラッパーだけでもめちゃくちゃバラエティーに富んでいる。トラップが流行ってるからトラップだけをやるとかじゃなく、みんながそれぞれ多様なスタイルをやっているのがすごい。
―ヒップホップに限らず、色んなジャンルで言われますよね。日本はとにかく色んな人が色んな音楽をやっていると。中国ではいかがでしょうか。
Lexie:中国では長い間、バラードの人気がすごくてポップスの大部分を占めていたんです。でもインターネットの普及によって状況が変わりました。プロフェッショナルな訓練を受けなくても、レーベルと契約していなくてもデビューできるようになったんです。その結果、今までは存在しなかったさまざまなジャンルのミュージシャンが最近は登場してきていますね。
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アジアのポップスを象徴するK-POP。2人の立場から見たグローバルな人気の秘密
―アジアの音楽と言うと、近年K-POPがグローバルで大きな人気を得ていますね。韓国の音楽についてどのような点が支持されているのか、アーティストの目線で感じることはありますか?
WAVY:ラップに関して言うと、日本と比べてメジャーで身近な音楽になっている印象があります。韓国に行って街を歩いていると、色んな所からヒップホップのベースやキックが普通に聴こえてくるんですよ。しかも、それがアイドルの曲だったりすることも多い。ポップス自体がヒップホップに寄っているのだと思います。

―それは音楽としてだけでなく、カルチャーとしてもヒップホップが根付いていると感じますか?
WAVY:自分はまだカルチャーの部分までちゃんと知れるほど長く韓国にいたことがないんです。まだ表面的な部分でしか感じ取れていないから、そのあたりはわからないですね。客観的に見たらすごく盛り上がっている印象は受けるけど、どうなのかな……。
あと韓国はアイドルでもすごく歌が巧いし、ダンスも素晴らしいし、1つのプロジェクトを作るのにどうやってトレーニングしていくかというノウハウが確立されているように思います。
Lexie:自分は16歳のときに半年間、韓国で音楽活動をしていたんです。韓国のアーティストたちはとても厳しい訓練を受けていて、激しい競争の中にいる。そんな環境のため、デビューして大衆の前に出るのは非常に限られた一部の人のみです。
そして、流行に対する嗅覚がとても鋭くて、次のトレンドの流れに乗るのが上手。WAVYさんが言うように、色々な意味で興行のシステムが完成されているんですよね。
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意味と同じくらい、もっとノリが重視されてもいい。それぞれの楽曲におけるプライオリティー
―実はお二人のスタイルには共通点があると思っていて。Lexie Liuさんは歌う際のリリックの発音に独自性がありますよね。ボーカルがトラックと絡み合って、独特の響きになっている曲が多い。JP THE WAVYさんも、ラップの「音」としての響きを重視しているラッパーのように思います。お二人の歌唱スタイルはグローバルで活動するにあたって強みになっていると感じるのですが、そのあたりは実感としていかがでしょうか。
Lexie:私は小さいときから欧米の音楽を聴いて、常に第一印象が重要だなと感じてきました。なぜなら、音楽はとても情報量が多いから。そうなると、1回聴いただけではなかなか歌詞の意味、内容まで認知がいきません。ファーストインプレッションが大事だからこそ、自分の作品でも始めに聴こえる「響き」に重きを置いて作っています。
WAVY:海外でライブをやっていると、お客さんのほとんどは日本語がわからないのにノってくれてるから、リズムやグルーヴで楽しんでいるんでしょうね。自分も小さい頃から、海外のヒップホップを聴いているときはまずリリックの意味よりもサウンドとしての気持ちよさやカッコよさを優先していて。だからラップするときもフロウを優先して作ってるのかもしれないです。
WAVY:日本人ってすごく歌詞を大事にするじゃないですか。「もうちょっとノリで聴いちゃってもいいのにな」とは思う。もちろん、自分もUSのヒップホップを聴きながら好きな曲はリリックの意味を確認しますけど。でも一発目に聴くときはまずノリですよね。
―歌詞の意味よりもまずはサウンドとしてのノリをカッコよくするために、具体的にどんなことを意識していますか?
WAVY:ヒップホップを聴いていて一番最初に聴こえてくるのはビート。「この曲マジでヤバい」ってなるときって、だいたい最初の2秒でそうなってるじゃないですか。だからリリック以前の問題として、当たり前だけどビート選びがめちゃくちゃ大事なんです。具体的には、まずイントロ。そしてキックとベースが鳴る瞬間。ウワネタももちろん大事。低音があまり鳴ってないビートは、そもそも審査基準に入らないです。中にはキックもベースもなくてカッコいいビートもあるので、一概には言えないですけど。


―ラッパーから「(ラップよりも)まずはビートが大事」という答えが返ってくるのは、とても冷静な意見で面白いですね。
WAVY:ビートマラソン、やりますからね。色んなプロデューサーやビートメイカーからとにかくいっぱいビートを送ってもらって、スタジオで1つずつ爆音で聴いていく。10時間以上ノンストップでやったこともあって、でもそのときはエンジニアの人が気持ち悪くなって退出しちゃいました。
―さすがに10時間以上も聴き続けると気持ち悪くなる(笑)。
Lexie:それはすごくよくわかります。自分も以前ヒップホップ系の曲を作ったときに、ノンストップでビートを聴いていきました。でも10時間はさすがに無理かな(笑)。

―Lexie Liuさんは、普段はどういう流れで曲制作をしているんですか?
Lexie:短いデモを自分で制作して、それをプロデューサーと一緒にブラッシュアップしていき、歌詞を乗せていくような流れですね。場合によっては歌詞も共同制作するときもあります。
最近はそれらをほぼオンラインのみで作ってます。でも、そもそも(レーベルの)88risingからもリリースをするようになるまでは制作は全て1人でやっていたんですよ。「一緒にやりたいプロデューサーがいたら能動的に声をかけてもいいんだ!」というのが88risingに参加して最初は衝撃でした。
―海外でも作品が聴かれていますが、どういった部分がリスナーのハートを掴んでいると思いますか?
Lexie:私は編曲やアレンジがすごく大事だと思っているんです。それらは、音楽の背景を形作る重要なものだから。映画でファンタジーやサスペンスといったジャンルを決めていくように、楽曲全体のムードをアレンジによって作っていきます。そのムードの中で、自分が役を演じていく感じですね。