メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

坂部三樹郎が語る、フットウェアブランド・groundsの強靱なアイデンティティ

2023.9.19

#FASHION

日本のファッションシーンにおいて、確固たる地位を築きつつある、デコラティブなアウトソールが印象的なフットウェアブランド・grounds。デビュー当初は「歯」とも呼ばれていたという、半透明のぷっくりとしたソールが印象的な靴は、数年前までサブカル界隈の子たちが履いていたかと思えば、今やモードラバーでさえも、その動向を追う存在になっている。

仕掛け人は、あのアントワープ王立芸術アカデミー・ファッション科を主席で卒業し、MIKIOSAKABEやファッションスクール・coconogaccoなどの運営に関わり、この10年で日本のファッション業界にさまざまなインパクトを残してきた坂部三樹郎。日本における既存のファッションシステムを悠々とかいくぐり、アントワープで鍛えられた豊かなクリエーションの力を多方面に発揮する坂部の手腕は、業界でも一目置かれている。そんな坂部は、groundsを通して何を表現しようとしているのか。groundsのアイデンティティについて、彼にさまざまな角度から話を聞いた。

「顔」中心だったファッションの先へ。足元から立ち上がる人間像を探求した靴

─まず、groundsは一言でいうとどのようなブランドですか? 設立から現在までの流れを教えてください。

坂部:groundsは特徴的なアウトソールに象徴されるフットウェアブランドです。設立から4年、紆余曲折がありながらも順調に成長していると感じています。

─ご自身が手掛けられているファッションブランド・MIKIOSAKABEがあるなか、どうして靴を作りたいと思われたのでしょうか?

坂部:近年の洋服は、顔に目が行く作りのシャツやジャケット然り、「知能が重要だ」という思想を起点に、間違いなく頭部を軸にデザインされていました。

坂部三樹郎(さかべ  みきお)
1976年生まれ。アントワープ王立美術アカデミーに進学、ファッション科を主席で卒業。2007-08年、自身の名を冠したファッションブランド・MIKIO SAKABEが秋冬シーズンのパリコレクションにプレゼンテーション形式でデビュー。2019年にフットウェアに特化したブランド・groundsを設立した。

坂部:しかし、人間と社会との関係を考え、時代のフレッシュな空気を反映したものがファッションです。その点において、次の時代の「新たな人間像」を提案する必要があるように感じました。そこで、何か違うアプローチはないものかと模索していたところ、靴が特徴的だと全身に目が行き、今までと違う見え方になると気づいたんです。

―なるほど、次は足元に注目されたんですね。

坂部:はい。頭や顔を中心とした発想ではなく、足元から発想することで新しい人間像を提案できるのではないかと考えました。groundsは文字通り、地球に接地している人間の足元からデザインを考えるブランドで、スタイリングの基点となるように見えるデザインを開発しています。

また、靴は洋服とアプローチが異なり、建築的な要素があったり、顔から一番遠く、地球と人との関係においてもっとも重要なプロダクトであるという点も面白いです。

―そもそもそういった発想はどのようなところから生まれるのでしょうか?

坂部:まずは現状や既存のものに対する不満から始まることが多いです。 たとえば、スニーカーというアイテム一つとっても、動きやすさ、軽さなどの機能性に偏った進化をしていますが、それだけだとつまらない。そこにファッション性が加わったらどうか。そんな発想からデザインに落とし込んでいきます。

「関係性」から生まれるアイデンティティ

─具体的に初期モデルはどういったコンセプトで、どのような形だったのでしょう?

坂部:groundsのコンセプトは「人間と地球(重力)の関係性に変化を与える」ことです。そのコンセプトを体現する、最も重要なパーツに当たるアウトソール(靴底の部分)には、それぞれ名前がついていて、一番古いのは「INTERSTELLAR」と「JEWELRY」です。クリアな色と高さのある形状は後出のほかのデザインのアウトソールにも踏襲されていて、今でも変わらないコアの部分です。

―どうしてそのような特徴にこだわったのでしょう?

坂部:人間と地球(重力)の関係性に変化を与えることを考えた際、まず頭に浮かんだのは「浮遊感」があることです。そのためにはいつも地面に接している足を地面から離すために、アウトソールに厚みを持たせました。そしてそれが重たくならないように、クリアな素材で表現する、というふうにつながっていきました。 

─実際に靴を作る上で、苦労した点はありましたか?

坂部:立ち上げ時には、製造工場探しが難航しましたね。僕は服づくりを行っていましたが、靴づくりの工程は全く知りませんでした。工場を探し始めてから知ったのですが、特にスニーカーは特殊な分野で、NIKEやadidasなどの大手スポーツメーカーのスニーカー製造を請け負う工場は、技術を漏らさないように取引先にルールがあったりと、なかなかお願いできる工場がなくて。いろいろと探して、ようやく見つけたのが、現在も提携しているインドネシアの工場です。

ーgroundsのアイテムを制作する上で大切にしていることはありますか? 

坂部:groundsのデザインは基本的にニュートラルを意識していて、チームで企画・運営をしています。シーズンごとに出すアイテムは僕がしっかり見ていますが、毎週発表している新作はチームが主体となって動き、細かく口を出すことはほとんどありません。

ーチームでデザインをする際に、どのような点に気をつけていますか。

坂部:世界観の共有ですね。デザインの基点となるムードや価値観を共有できる環境があれば、チーム内でプロダクトを1から100に展開することは可能です。また、全体の空気がいろんな方向に向くよう、バランスよくいろいろな毛色のデザイナーをチームに入れておくと、自然と面白いものができてくるんです。

―制作の現場でも、関係性を大切にされているんですね。

坂部:そうですね。それでいうと見せ方に関しても、groundsでは靴を単体として見せるのではなく、色のグラデーションや並べたときの凹凸など、集合体の中の関係性を大切にしています。お客さんにはその中から好きなものを選んでほしいです。

アマチュアリズムに感じた、クリエーションのヒントとは

─groundsはコラボレーションも頻繁に行われていますよね。特にアイドルやアーティストとのコラボが多い印象ですが、そこにはどのような思いがあるのでしょうか?

坂部:はい。過去には、元乃木坂の伊藤万理華さん、元でんぱ組.incの最上もがさん、元AKB48の島崎遥香さんなどのアイドルとのコラボレーションを行なっています。日本のアイドルは「未熟さ」や「アマチュアリズム」といった未完成な要素が特徴的で、アイドル本人やファンの熱量につながっている。そこがとても魅力的で面白さを感じています。 

─なるほど。日本独特の「かわいい」カルチャーにも通ずるものですね。

坂部:ヨーロッパのファッションの価値が「プロフェッショナル」であることに対し、前述した「アマチュアリズム」や「未成熟」といったアンバランスさ、またカルチャーやアート的な要素も日本特有の「かわいい」に含まれていて、僕にとってそれはファッションデザインのヒントになっています。

ー「プロ」ではなく「アマチュア」に着目されるというのは新鮮です。

坂部:クリエーションの面白さは、人の知識と経験から生まれるものではなく、その場にあるもので、どれだけエネルギーを出し切れるかにあります。また、アイデアを思いついても、完成までの工程が多いほど純度が減ります。純度を保つ上で、プロフェッショナルである必要はありません。そうじゃないと、お金のある人しかクリエイターになれなくなりますよね。これは、前述した「かわいい」に含まれる「アマチュアリズム」に直結します。

ーgroundsの人気のヒントはここに隠されていたんですね。

坂部:そうかもしれません。元々ファッションのど真ん中のものをやるというより、どこか「熱量」のあるものとファッションを融合したものを作りたいと考えていたんです。groundsもプロダクトとして強烈な個性があるからこそ、多くの人の目に止まって、広がっていっている気がします。

ジェルを踏んだかのような形状のアウトソールが特徴的な「MOOPIE MARY JANE」。

NewJeansも着用。グローバルに注目を浴びる存在へ

─現在までに、およそ何種類の靴を発表されたのでしょう?

坂部:合計で600種類以上は製作したはずです。毎週新作をドロップしつつ、毎シーズンコレクションも展開するので、かなりの数です。昔のデザインを再販してほしいという声もけっこうありますね。

坂部さんが履いているのは、粘土で作った形状をそのまま商品にした「CLAY」。

─購買層は、この4年で変化はありましたか?

坂部:最初はやはり、MIKIOSAKABEのお客さんや原宿界隈などの辺りからのスタートでした。そこから、靴自体が目立つので、購入したお客さんの間で口コミがどんどん広がっていきました。最近では徐々にお客さんの幅が広がっていて、いろんなスタイリングを楽しんでもらえているようです。スニーカーが好きな人のコレクションの中の一つになったり、最近ではメンズのお客さんや海外の方も増えています。

─特に人気のある国などはあるのでしょうか?

坂部:アジア、ヨーロッパ、アメリカなど世界的にまんべんなく展開していますが、数として一番多いのは中国、その次はアメリカです。

─海外と日本ではgroundsの履きこなし方に違いはあるのでしょうか?

坂部:最近アメリカへルック撮影に行ったのですが、そこで見つけた黒人の人たちの履きこなし方はけっこう魅力的でした。日本とアメリカのストリートカルチャーの解釈の違いが見て取れ、興味深かったです。

─例えばどのような?

坂部:ストリート系のテイストで、ブランドの洋服を着つつ、足元がgroundsというスタイルでしたね。ポイントとしてはラグジュアリーブランドにgroundsをミックスしてコーディネートしているということ。デザイン面でファッション的な面白さを探求しているスニーカーがまだまだ少ないので、その点で面白がってくれているようです。ミュージシャンの方がレッドカーペットで着用してくださったこともありました。当初の日本のファンと、海外のお客さんは良い意味で違っていて、そこは面白いですね。

─最近では、セレブやK-POPグループが着用しているところも見かけます。

坂部:そうですね。NewJeansがMVで履いた直後、いち早くファンの方たちが反応して、InstagramのDMに問い合わせが来たりしました。ただ面白いのが、有名人が着用したからものすごく大きな反響があるかというと、実はそうでもない。groundsの特徴の一つで、ブランド発信のコンテンツの力が一番大きいんです。

ーあくまでブランド主体のコミュニケーションが強いんですね。

坂部:そうですね。これまでは主にInstagramとECというオンライン上での発信だったのですが、この9月にブランド初の直営店が原宿にオープンしました。ここでバーチャルとうまく連動して、新たな提案ができればと思っています。  

2つのソールを溶かして結合させた、インパクトのある「MOOPIE MELT」。

靴を通して、日常にファンタジーをもたらしたい

─ビジネスにおいて、4年間右肩上がりで運営できた理由を、ご自身はどう捉えてらっしゃるのでしょうか?

坂部:複合作用だと思いますが、前述のように、洋服に比べてファッション性の高いユニークなスニーカーが希少だったことが起因しているかなと。これまでのスニーカーは、ラグジュアリーかスポーツ系のどちらかだったので。

左から「MOOPIE MARY JANE」と「JEWELRY」。

─ブランドを持続するために意識したことを教えてください。

坂部:ブランドの規模と相応のことをやっていかないと続かないので、一時的なブームにはならないようにしています。それは4年前から言っていて、ブームになってしまうと、どんなブランドもブーム後に下火になってしまうんです。

─groundsを通して、坂部さんが伝え続けたいことはなんでしょう。

坂部:普段歩いてる道が楽しくなったり、ファンタジーの入り口になるようなスニーカーを引き続き作っていきたいですね。

─この場合のファンタジーは、どう定義されるのでしょう。

坂部:ファッションブランドには全てファンタジーが入っています。それがブランディングです。空間や場所、一緒にいた人によって感じ方が変わってくるように、日常を日常のまま捉えている人はほぼいません。

そして、ファンタジーの内容よりも重要なのは、現実からファンタジーへの入り口をどう作るか、です。例えば、真っ赤なドレスを着ると、不思議なことが起こりやすい気分になったり。ファンタジーの入口をちゃんと持っていることは、人生の豊かさにつながると思います。

─最後に、ブランドとして目指しているところを教えてください。

坂部:日本発のラグジュアリーブランドにしたいと考えています。日本にはラグジュアリーブランドと呼ばれるファッションブランドはそう多くありません。来年以降はパリでのプレゼンテーションも本格的に視野に入れていてその辺りからラグジュアリーという大きなコンセプトを持って、日本を代表するブランドとして運営できたらいいですね。

ブランド初の旗艦店「grounds STORE 001」

住所:150-0001 東京都渋谷区神宮前5-18-14
営業時間:12:00〜19:00
休業日:水、木曜日
電話:03-6427-5121
Instagram:https://www.instagram.com/grounds_store.001/

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS