昨年12月にデジタルシングル“What is love???”でデビューを果たしたシンガーソングライターのJU!iE。中国出身の彼女は10代の頃からバークリー音楽大学を目指し、単身ニューヨークにわたって音楽活動を開始。その後活動の拠点を日本に移し、今年3月にはトラックメイカー Gimgigamとコラボレーションした新曲”OTSUKARE”をリリースするなど、その繊細で透き通るような歌声からは想像もつかないほどバイタリティ溢れる活動を続けている。
中国、アメリカ、そして日本を行き来し3カ国語を操りながら「文化の架け橋」を目指すJU!iE。たとえ一人でも、未知の世界へと果敢に飛び込んでいくその勇気やモチベーションは、一体どのようにして培われたのだろうか。「失敗を重ねながらも何度もチャレンジしていくうちに、自分のやりたいことを確信していった」と語る彼女に、その半生をじっくりと語ってもらった。
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アメリカのバークリー音楽大学へ行くために。中国で挑戦の日々がスタート。
─JU!iEさんは4歳の頃からピアノを習い始め、かなり早い段階で「将来はプロの音楽家になりたい」と思っていたそうですね。
JU!iE:はい。たまたまテレビでピアノを演奏する人の映像を見て、「かっこいいな」と思ったのが習い始めたきっかけだったんですけど、10代前半で学校の先生に「これからどんな大人になりたい?」と聞かれたとき、真っ先に思い浮かんだのがピアノを弾いている自分の姿でした。今考えてみると、その頃から音楽に救われてきたというか。私の通っていた学校は結構厳しくて、いろいろしんどかった時にピアノを弾いたり音楽を聴いたりして癒されていたことが結構あったなと。
─JU!iEさん自身も「誰かを音楽で癒すことができたら」と思ったわけですね。
JU!iE:そうですね。自分が世の中に貢献できるのは、音楽を通してなのかなと。

中国出身、北京の音楽学院卒業、単身渡米バークリー音楽院に入学 卒業後、NYで音楽活動を開始、2022年より日本で音楽活動をスタート。 バークリー音楽院にて専攻してきたJAZZをベースに 自身の音楽スタイルを形成、 英語、日本語、中国語3ヶ国語を使ったグローバルな クリエイティングが特徴。アーティスト活動と並行し、楽曲提供、 プロデュースなど幅広い活動を行なっている。また、モデルとしても注目を集 め、Instagram14万人、weiboのフォロワーは50万人を越える。
─その頃はどんな音楽に勇気づけられたり、癒されたりしていたのですか?
JU!iE:クラシックピアノをやっていたのもあって、主にクラシックですね。それから中国のバラードポップを聴いていました。韓国の歌手や、もちろん日本の2000年代の音楽も。当時はまだジャズに出会っていませんでした。
─それなのに、プロの音楽家としてバークリー音楽大学を目指すのもすごいですよね。
JU!iE:「どうやったらプロになれるのかな」と思い、インターネットで「一番すごい音楽の学校」って検索したらバークリーがトップに出てきたんです(笑)。私は中国の南京という、そこそこ都会に暮らしていたのですが、英語も話せないのにアメリカへ行って音楽を学ぶなんて当時はまだ想像つかなくて。その頃はまだ「遠い目標」ですし、そこまでどうやって到達するかを真剣に考えました。
まず、音楽プロになるには、ちゃんとした音楽学校に入る必要がある。高校はとりあえず北京にある中国の音楽学校へ行き、そこからバークリーを目指すことにしました。

─ご両親は協力的でしたか?
JU!iE:最初は全然。「私、バークリーに行きたい」なんていきなり言ったところで、「何言ってんの?」って(笑)。南京から一人で北京へ行くことも(飛行機で2時間くらい)、まだ10代だったから心配されました。私自身も勇気が必要でしたし、まだサポートも必要でした。北京の音楽学校に通いつつ、毎日親を説得していましたね。「アメリカ行きたい~!」って(笑)。
─あははは。そんなJU!iEさんがジャズにハマったのは、高校生のときに参加したバークリーのサマースクール(夏季講習)がきっかけだったとか。
JU!iE:サマースクールは、バークリーの学生以外にも門戸が開かれていて、私はボーカリストとして参加しました。ボーカルはバンドの中でアンサンブルを引っ張る役目ですから、そのためには譜面が必要だよって。「おー、譜面ね。それならピアノ教室でも習っていたし楽勝!」と思ったら、書き方がクラシックとは全然違う。ポップスやジャズの場合、譜面ってコードだけでも成立することを初めて知って衝撃を受けました(笑)。
課題曲として、最初はビル・エヴァンスやチャット・ベイカーのようなクールジャズからスタートし、スティーヴィー・ワンダーやディアンジェロなどのブラックミュージックも演奏させてもらいました。今までとは全然違う世界が広がっているというか、その時に自分が感じた気持ちは今すぐにでも思い出せるくらい鮮烈でしたね。「音楽ってすごいなあ」と心から思いました。

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「日本の文化を理解すればするほど日本の音楽の良さに気づいていく」
─そのサマースクールの後、日本にも立ち寄ったとか。
JU!iE:そうです。その時にジャズシンガーakikoさんのライブに潜り込んだんです(笑)。その時のライブの華やかな雰囲気は、今でも忘れません。バークリーのジャズは「dissonance」(不協和音)を求めてるというか、単に心地いい音色や「ここで解決しよう」という傾向をあえて崩したり、ハーモニーだけでなく楽曲の構成や楽器の組み合わせ方もどこかdissonanceなんですが、日本の音楽は、アグレッシブな要素ももちろんありますが、多くは調和・優しい響きを求めているように感じます。
─当時はジャズだけでなく、2000年代の日本のポップミュージック、例えば椎名林檎や宇多田ヒカルもよく聴いていたそうですね。どんなところに魅力を感じていたのでしょうか。
JU!iE:日本人の国民性や価値観から来ていると思うのですが、日本の音楽は音数が多くて、フリークエンシー(周波数)帯域が全体的に高いですよね。その良さにすぐには気づけなかったのですが、日本に暮らし始めて、日本の文化を理解すればするほど日本の音楽の良さも理解できるようになっていきました。歌詞ももちろん、サウンドデザインの部分は特にそう思います。

─とても興味深いです。確かに、音楽だけでなく伝統工芸にしても精密機械にしても、あるいはフィギュアやジオラマにしても、日本人は箱庭的というか幕の内弁当的というか、細かく整然と配置していくのが得意だし好きですよね。
JU!iE:そうそう! とにかく独特だなと思います。
─では、中国の音楽シーンは今どんな状況ですか?
JU!iE:自分は今中国で活動してないから正確には言えませんが、最近は韓国や日本、アメリカやヨーロッパなど様々な国の文化を吸収しながら、急成長を遂げているように思います。国内に大きな音楽フェスが誕生したり、少しずつですがインディミュージックも増えてきているので、いろんな音楽ジャンルがもっと広がればいいなぁと思います。もし中国で音楽活動が出来る機会があれば、私もインディペンデントなシーンで活動しているミュージシャンたちと親交を深めることができたらいいなと思っていますね。

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渡米して失意の底に沈んでいたJU!iEを救った、ジェイコブ・コリアーの講義
─高校卒業後は、念願のバークリー音楽大学に入学したわけですね。学生生活は充実していましたか?
JU!iE:渡米した当初は英語も分からなかったから、授業を録音して家でそれを聴き直したりしていました。友達もいなかったし、みんな自分よりもはるかにレベルが高いように感じてしまって「音楽やめようかな」と思ったことも正直ありました。自分が何を求めているのか分からなくなるくらい苦しんだ時もありました。

JU!iE:そんな時にたまたま覗いたのが、ジェイコブ・コリアーの講義で、「せっかくだから」と思って見に行ったら圧倒されました。
─どんなところに圧倒されたのでしょうか。
JU!iE:あれだけの音楽的才能と演奏スキルを持っているのに、生徒との距離感が全くないんですよ。自分が持っているものを独り占めするのではなく、みんなでシェアしたいというマインド。音楽に対してどこまでもピュアでオープンな彼の姿を見ていたら、なんだか自分が恥ずかしくなってきて。自分をどう見せるか、これをやったらカッコよくて、これをやったらダサイとかそんなことばかり気にしていた自分に気づき、「今まで何をやってたんだろう」と。これからは自分もジェイコブのように、ピュアにシンプルに音楽をやっていこうと思い直すことができました。自分にとって、大きなターニングポイントとなりましたね。
─2018年に再び来日し、移住することになったのは?
JU!iE:バークリー音楽大学を卒業して、1年くらいニューヨークのレコーディングスタジオでアシスタントを経験しました。それから半年ほど中国に戻り、自分はこれから何をやりたいと思っているのかもう一度考え直したんです。すぐには答えを出すことができず、「もう少し勉強しよう」と思い大学院を受験することにしました。アメリカに戻るか、それともまた新しい環境に飛び込んでいくかで迷ったのですが、縁があり慶應大学の大学院でメディアデザインを専攻することになりました。

─新しい環境でチャレンジすることを選択したのですね。
JU!iE:幼少期からピアノを始め、10代の全てを音楽に費やしていたから全く違うことを学んでみたくなったんです。日本で学校に通いながら就活をすることも考えたのですが、そうすると音楽活動を両立させるのは難しいだろうと思い、モデル活動をしながら曲を書いたりライブを観に行ったりしていました。そのうちミュージシャンのお友達も増えていき、今の事務所と出会うことができたんです。
─初めて渡米した時と同じように、最初は日本語も話せなかったわけですよね?
JU!iE:「あいうえお」すら分からない状態でした。大学院の授業は全て英語だったので、やりやすかったけど日本語は独学で覚えるしかなかったですね。友達もいないし言葉も通じないっていう、またそこからのやり直し(笑)。大学1年の頃に戻ってしまったようで、最初の半年は寂しかったし孤独でしたね。

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「失敗したことを自分で許せない人ってたくさんいる。でも、まずは自分のことを許さないと、次に進むのは難しい」
─それでも未知の世界へと飛び込んでいく勇気やモチベーションはどこから来るのでしょう。
JU!iE:ね(笑)。改めて考えてみると、とんでもないことを自分でもしてるなと思うので、深く考えないのがいいのかもしれない。特に「こうなりたい」という具体的なイメージがあったわけでもないし、むしろそれを探しに日本まで来たところもあるんです。10代の頃から日本の文化も音楽も好きだしもっと知りたいと思ったし、住んでみないと分からないこともあるだろうなって。

JU!iE:もちろん、残念な結果になることもたくさんあったと思います。「やらなければよかったな」とすごく後悔することもありました。でも一方で、そういう経験があったからこそ成長できたとも思えるんです。失敗を重ねながらも何度もチャレンジしていくうちに、自分のやりたいことを確信していったというか、私にはあまり「恥ずかしさ」ってないのかもしれなくて、例え失敗して笑われたり馬鹿にされたりしても「まあ、仕方ないよね」と思うし、もう一度チャレンジしようと思うから。
─日本の若者は「内向き志向」になっているとよく言われますが、未知の場所へ飛び込むことに躊躇してしまいがちなのは「失敗したくない」という意識があるからなのではないかと思っています。
JU!iE:これは日本人に限らないかもしれないけど、失敗したことを自分で許せない人ってたくさんいると思うんです。でも私は失敗しても、「もう済んだことだし仕方ない」と考えるようにしています。だって、その先も人生は続いていくわけじゃないですか。まずは自分のことを許さないと、次に進むのは難しい。それに自分で自分を許さないと、おそらく誰も自分のことを許してくれないですし、サポートしてもらえないですよね。

JU!iE:やってみてどうなるか、結果が見えないものに興味があるし、道が見えてしまうと「つまらない」と思っちゃう(笑)。クラシックからジャズへと傾倒していったのも、譜面どおりに歌ったり演奏したりするよりも、今その瞬間にしか生み出し得ない音楽を作りたいと思ったからでしょうね。

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中国、アメリカ、日本の文化的な架け橋を目指して
─2022年12月に、デジタルシングル“What is love???”でデビューを果たしました。WONKの江﨑文武さんと井上 幹さんが、それぞれアレンジャーとエンジニアで参加しています。
JU!iE:アメリカにいた時からWONKの音楽をたくさん聴いていましたし、そこから日本のソウルやジャズを知っていったので、まさかデビューシングルでご一緒できるなんて夢のようです。江﨑さんもビル・エヴァンスが大好きでいらっしゃるし、年代も近いので共通の話題がたくさんあって話しやすかったですね。
JU!iE:この曲は「愛って何?」というタイトルですが、いまだに答えは見つかっていないです。今も「愛」について考えていますし、おそらく10年後も「愛ってなんだろう?」と自問している気がする。その時にこの曲を聴いてどう思うのかが楽しみです。私の成長を見守ってくれる楽曲になりそうな気がしますね。
─今年3月には、Gimgigamとのコラボレーションで”OTSUKARE”をリリースしました。
JU!iE:ギタリストと一緒に仕事がしたいとずっと思っていて。ギム(Gimgigam)さんはギターがすごく上手いから「一緒にやりませんか?」と声をかけたら快諾してくださって嬉しかったです。コード進行がシンプルなぶん、歌詞のストーリー性やメロディの展開で遊んでみようと思いました。かなり入り組んだメロディなので、チャレンジングで楽しかったです。

JU!iE:歌詞は、「アーティスト同士のカップルが破局した後、偶然楽屋で会ったらどんな感じになるんだろう?」とシミュレーションしながら書いた完全なフィクション。子供の頃から小説を書くのが好きだったので、その経験を生かしました。楽屋での会話みたいなSEは、ギムさんに出演してもらっています(笑)。「おつかれ」ってすごく不思議な言葉ですよね。すごく親しげな仲にも聞こえるし、すごくよそよそしくも聞こえる。シチュエーションによって響きが全然変わるのが面白いなと思ってタイトルにしてみました。
─中国、アメリカ、そして日本での暮らしを経験してきたJU!iEさんですが、今後はそういった国々の文化的な架け橋をしたいという気持ちはありますか?
JU!iE:ありますね。こういう感じで育ってきたから、いつも頭の中で3カ国語を混ぜ合わせながら考えていて(笑)。もちろん、いろんな言語を話せる人はたくさんいますが、音楽シーンで私と似たようなアーティストがいるかなと思って探してみても、意外といないんですよね。だからこそ、他に誰もいないからこそ「居場所」を自分で作ることができるんじゃないかと思っています。

─「道なき道」を切り拓いていくのって、孤独なことでもありますよね。寂しいと思うこともありますか?
JU!iE:たくさんありますよ!(笑) でも、日本は一人ひとりの個性を尊重してくれる国で、みんな優しいし言いたいことが言える、文化のレベルも高くて最高の環境だと思っていますね。これからも「ありのままのJU!iE」でみんなとコミュニケーションができたらいいなと思っています。

リリース情報
SUKISHAとのコラボプロジェクト第2弾シングルリリースが決定!
6月21日(水)配信Sg
SUKISHA 『Make a wish feat.JU!iE』