2026年も徐々に迫ってきた夏フェスシーズン。4月2日(木)には『SUMMER SONIC 2026』にヘッドライナーとしてAdoの出演が、翌3日(金)には『FUJI ROCK FESTIVAL ’26』の第2弾ラインナップとしてジョーディ・グリープ、ケリー・リー・オーウェンスら13組の出演が発表された。
2026年の夏フェスをめぐるあれこれを、音楽ライターの井草七海、hiwatt、風間一慶に、ざっくばらんに語り合ってもらった。座談会「What’s NiEW MUSIC」第14回。
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「エキゾファンク」系が充実した『フジロック』
—2026年も国内大型フェスのラインナップが続々発表されています。まず『FUJI ROCK FESTIVAL ’26』のラインナップについて、全体的な印象や期待のアクトなど、うかがえたらと思います。

風間:『フジロック』は最大公約数の素晴らしいラインナップを持ってきた印象です。The xx、Khruangbin、Massive Attackという、これまでの『フジロック』でホワイトステージやグリーンステージのトリ前に出ていたようなアーティストを、ヘッドライナーに置いて。Khruangbinは去年のVulfpeckの成功がないとなかったブッキングだと思います。
井草:そうですね。Khruangbinは若干ビッグインジャパンみたいなところもあって、ヘッドライナーで大丈夫かな? という声もあるとは思うんですが、藤井風がその前に来るというのも、すごくバランスを取ってきたなという印象はありました。
風間:Khruangbinに代表されるような、ファンクのインストに東洋や各地の影響を汲み入れたサウンドは、エキゾファンクと呼ばれて、ここ数年は日本でも人気のあるジャンルですよね。Glass Beamsとか、YIN YINも以前『フジロック』に出演してものすごく人気になりました。今年はKhruangbin以外にもYUUF、ALTIN GÜNが出演します。世界中のフェスを回りまくっていて、評判が高いアーティストですし、『フジロック』ってなんか、こういうアーティストがぜったい盛り上がるんですよね。
hiwatt:3日目に出演するAngine de Poitrineとか、去年出演したMdou Moctarとかも、Khruangbinの成功がなかったらたぶん注目されていないので、ニッチですけど偉大なバンドですよね。僕はヘッドライナーへの起用については若干否定派の方ではあるんですけど、そこを覆してみてほしいなという気持ちはあります。
風間:否定派なのはどんな部分でですか?
hiwatt:単純に盛り上がらないんじゃないかと……。ヘッドライナーって、盛り上げてなんぼみたいなところがあるじゃないですか。あんなに微熱でゆっくりな音楽でどれだけ盛り上げられるか、観てのお楽しみ、っていうところはありますよね。
風間:なるほど。最初に『フジ』に出演したとき、フィールドオブヘブンですごく盛り上がったけど、ヘブンでKhruangbinだからこその盛り上がりだろう、というのもあるので、たしかにグリーンでどうなるかはわからないですね。他にも「サハラ砂漠のブルースロック」と言われるTinariwenや、アフリカ系だとKOKOROKOもいますし、歩き回るのが楽しそうな、ちょっと前の『フジロック』の姿に戻った感じもあります。
井草:『フジロック』って、音量制限がないということもあって、バンドのアクトはやっぱり盛り上がりますよね。自然に囲まれた環境で、ロックバンド本来のデカい音で聴く爽快感がすごくあると思う。2年前にホワイトで観たgirl in redも、音源以上にダイナミックに感じて、すごく良かったんですよね。そういう意味では、1日目のSnail Mailや、3日目のMitskiとか、オルタナの文脈も含めたシンガーソングライターがバンドを引き連れて来るのは、ライブハウスで観るのももちろんいいんですけど、『フジロック』の環境で観るとまた違って新鮮に聴こえるだろうなと思います。
hiwatt:Mitskiはヘッドライナーでもいいはずですよね。たしか三重県出身なんですよね。
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『フジ』3日目ヘッドライナーのMassive Attackとは
—藤井風やXGが出演することもあり、今年はじめて『フジロック』に参加する人も多いのではないかと思います。若い世代などで、Massive Attackに馴染みのない方も多いと思うのですが、どんなアーティストなのかhiwattさんから少し解説いただけないでしょうか。
hiwatt:はい。彼らはブリストルサウンド、別名トリップホップ——これはメディアでつけられた名前ですけど——というジャンルの始祖と言ってもいい人たちです。イギリス西部のブリストルという街は、カリブ系の移民の方が多い地域で、レゲエのサウンドシステムカルチャー(※)が活発だったんですけど、そこで生まれた『The Wild Bunch』というパーティーのメンバーだった3DとダディGの2人が中心となって結成されました。ちなみに3Dは、バンクシーの正体だとずっと言われていた人ですね。
※サウンドシステムカルチャー:移動式の大きなスピーカーや音響設備を、DJ / MC / エンジニアらのチームが自分たちで所有していて、それをストリートに持ち出して野外でパーティーを行う文化
hiwatt:Massive Attackが使っていたスタジオで、Portisheadのジェフ・バーロウがレコーディングアシスタントとして働いていて、彼らがジェフ・バーロウにサンプラーなどの機材を与えたことでPortisheadが出来上がったというエピソードがあったりと、彼らがいなかったらその後のブリストルサウンドはなかった、というような存在です。1998年のアルバム『Mezzanine』は多くのアーティストのリファレンスになりました。あと、最近ヨーロッパを中心に、トリップホップリバイバルの気配がちょっとあって、例えばMen I Trustとかもトリップホップみたいなことをやっていますよね。なので、このタイミングでMassive Attackを呼ぶのは最高、と思います。
hiwatt:あと、これはちょっとしたトリビアなんですけど、Massive Attackはサッカーの大ファンで、基本的にはワールドカップの年には活動してないんです。
井草:あれ、でも今年はワールドカップが開催されますよね?
hiwatt:そうなんですよ。彼らがワールドカップイヤーなのに活動するっていうのは、やっぱりポリティカルな考えの強いグループなので、いまやる意義があると考えてステージに上がるんだと思います。それだけ気合いが入ってるんじゃないかなと思いますね。ただ、ワールドカップの期間中はスケジュールを空けてます(笑)。
風間:ブリストルサウンドの解釈にもよりますが、今回の『フジロック』の並びで、その大きな遺産のひとつを受け継いでいるのがThe xxという気もします。クールな音楽なんですけど、源流を辿るとサウンドシステムの文化が根底にあって。
井草:たしかに。いまMassive Attackの代表的なアルバムをあらためて聴くと、レゲエカルチャーを踏まえたサウンドということもあって、いまよく耳にするUKガラージのリバイバルともサウンド的に通じる部分も感じて、そういう意味でも、いまの新しい音楽を聴いている世代にとっても響く部分があるのかなと思いました。
hiwatt:ダディGはちょうどいま来日公演の最中で、Massive Attack“Teardrop”のマッド・プロフェッサーによるダブミックスを初っ端からプレイしていたみたいなんで、かなりいまもうMassive Attackのモードに入っているんじゃないかと思いますね。
風間:楽しみですね。
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『サマソニ』は「地蔵」問題の解消なるか?
—バラエティ豊かな今年の『フジロック』ですが、一方で『SUMMER SONIC 2026』の方についてはいかがですか?
井草:そうですね、『コーチェラ』にも出演していたFKA twigsであるとか、特別枠のデヴィッド・バーンとか、いま世界のフェスでアクトをしている観てみたいアーティストがけっこう呼ばれているなと思っています。いま悩んでいるのは、観たいアクトが3日に分かれてしまっていて、どうしようかなと……。
hiwatt:そうなんですよね。『サマーソニック』の理念なのかもしれないんですけど、近いジャンルのアーティストを各曜日に何組かずつ分けて配置しがちなので、客としては同じ属性で固めてくれたらいいのに……と思ってしまいます。『コーチェラ』でのThe Strokesからデヴィッド・バーンの並びとか、ニューヨークのポストパンクの系譜が見える最高の流れだったなと思ったんですけど、『サマーソニック』だと曜日が分かれてしまっていて。ちょっと残念に思うところはあります。
風間:一方で、ビーチステージでは今年もラテンのキュレーションのパートがあるんですけど、過去には星野源キュレーションとか、JUJUキュレーションのパートがあったり、小さいステージで「もうこのステージで1日過ごしてください」っていうふうにして、それを3日間やっていたりもしますよね。
hiwatt:BABYMETALのキュレーションもありますよね。
風間:そうですね。そこだけもうメタルフェスになるっていう。そういう需要で来るお客さんもけっこう多いんじゃないかと思います。あと、今回のラテンのキュレーションは個人的にもう最高ですね! カリン・レオン(Carín León)、パロマ・モーフィー(Paloma Morphy)、Latin Mafiaという3組で。Latin Mafiaは相当インディ寄りのエレクトロニカ、言ってみれば「すごい陽気なBoards of Canada、その上でめっちゃラップしてる」みたいな音楽で、これは昔の『サマーソニック』みたいなラインナップを求めてるインディ好きのリスナーの方は、ぜったい観た方がいいと思います。
hiwatt:そのレコメンドを聞いてめちゃくちゃ聴きたくなりました。The Strokesとデヴィッド・バーンは日にちがバラけた一方で、JamiroquaiとSuchmosが同日なのはやっぱり胸熱ですよね。
風間:これはたしかに素晴らしいですね。『サマソニ』っていわゆる「地蔵」が問題になりがちじゃないですか。そこを巧妙に解決するための、うまくつながる、お客さんを混ぜる感じも、考えられていそうですよね。まだタイムテーブルが出てないですけど、たとえばThe Strokesの前がBUMP OF CHICKENだったら……とか。BUMP OF CHICKENのお客さんに、残ってThe Strokesを観てもらいたいですよね。
hiwatt:Wispと女王蜂なんかも親和性がありますよね。女王蜂はちょっとシューゲイザーっぽくなくなっちゃいましたけど。
風間:わかります。なんならFKA twigsとアヴちゃんも。
井草:たしかに!
風間:この日はアイナ・ジ・エンドもいるしジェニーもいるし、線で観ることができたらめちゃくちゃいいような気がします。
