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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
Stronger Than Pride

加藤修平の「Stronger Than Pride」とは。ライター山塚リキマルと振り返る

2025.4.11

#MUSIC

ブームとかトレンドじゃなく、アルゴリズムから外れた何かを、なるべく受け取りたい。

山塚:この連載の裏テーマとして、加藤くんが苫小牧に軸足を置いてる理由っていうのがあると思うんですよ。失礼な話、これまでちょっと不思議だったんだけども。

加藤:あ、そうなんすね。

山塚:変な話さ、東京でライブするとしたら、東京にいれば交通費が丸々ギャラになるワケじゃん。飛行機代とかバカにならないし。

加藤:マジでそうなんすよ(笑)。もし東京で活動してたら、たぶんもうちょっといい暮らししてますからね。それに東京にいたら、クラブでも映画でも展示でも色々あるじゃないですか。

山塚:毎日何かやってるもんね。

加藤:アウトプットする場所もたくさんあるし。単に演奏するだけならどこでも出来ますけど、結局受け皿があるから表現が出来るってことも往々にしてあるじゃないですか。ニッチだったりカルト的な何かでも、思いついたことがパッとすぐ形にできるって、都会の強さだなって思うんですよ。でも、基本田舎に住んでるヤツにはそれが無いじゃないですか。札幌でもギリないんじゃないかなって思うんですよね。

山塚:そうだね、札幌でもどこかで頭打ちになって、都会に出ない限りこれ以上のことは起きないみたいなタイミングがある。

加藤:そういう風に、いい事っていっぱいあると思うんですけど。ただそれが、自分の好きな場所を離れる理由にならない。でも、好きだからここにいるって言うとちょっとズレる感じもして。やっぱどこかちょっと実験的なんですよ。こういう感じのヤツが、こういう感じの街で、音楽ビジネス的なメインストリームに乗っからずに続けていったらどうなるんだろう、みたいな。

山塚:ある種、社会実験じゃないけども。

加藤:そういう気持ちはありますね。これってどこまで行けるんだろうかって気になるんですよ。こうやった方がやりやすいとか、こういう方が刺激的とか、そういうのを100%分かった上で、そうじゃない選択を続けた人がいないし。

山塚:成功例も失敗例もないもんね。

加藤:それがめっちゃ気になるなーっていう。LOSTAGEが奈良にいて、SLANGが札幌にいて、ってありますけど、たぶん目指してるポイントはそれぞれ違うと思うんですよね。東京以外に暮らして音楽を作っている人のことを、一緒くたに考えている人って多いじゃないですか。東京からその他の地方に向けられる眼差しって、そんなにバリエーションがないと思う。

山塚:昔から郷土愛というか地元愛というか、そういうのってあった?

加藤:埼玉に親戚がいるんで、子供の頃から東京に遊びに行ったりはしてたんですよ。でもそこから苫小牧に帰ってきても「何もねえな」とは思わなかった。それが不思議なんですけど、なんなら都会的に感じてるみたいな。いつもクルマで通る跨線橋があって、そこはデッカい団地がいっぱいあるんですけど、その団地を見たときに、未だに都会的に感じるんですよね。

山塚:そのビジュアルというか。

加藤:シティの要素はないハズなんですけど(笑)。道路がただのコンクリートじゃなくて煉瓦を組んだ風になってる道を見て「都会っぽいなー」って思ったりとか(笑)。「建物も飯も匂いも人間もダサくて田舎っぽいヤツばっかりで、こんなところにいたらオレはこいつらと同じになってしまうからとっとと出てやるんだ!」     とか思ったことないんですよね。故郷に嫌悪感を抱いたことがない。東京生まれ東京育ちの人も、シティだから好きとか、そういう理由を並べながら暮らしてる人っていなさそうじゃないですか。もしかしたらその感覚に近いのかな。

山塚:そもそも飢えてないって感覚なのかな。

加藤:田舎だと「この街でGreen Day知ってるのオレだけ」みたいなのあるじゃないですか。そんなワケはないんですけど(笑)。でも、それって東京の「来日行ったよ」みたいな人が普通にいる環境と、実は情報の総量ってそんなに大きく変わらないんじゃないかって気もしていて。それをアウトプットするときのリアリティには関わってくるかもしれないですけど、その情報自体がその人をどれだけ幸せにしているかっていうのとは関係ない気がするんですよ。もしかしたら見ない方が幸せだったものっていっぱいあるんじゃないかって。

山塚:広い意味で。

加藤:広い意味で。海外アーティストの来日で、どうしても観たくて観に行ったものって、オレ10回もないですね。本当に好きでずっと観てみたいと思ってたモノが、想像を超えた瞬間ってあんまり無いんですよ。もしかしたら出会えてないだけかもしんないですけど、いつの間にか期待しなくなってしまったなって。東京はもっとスゲエんだろうな、ヤバいこと考えてるヤツがいるんだろうなって想像してて、いざ行ってみると、そこまで考えてるのオレだけだったみたいな事とか。

山塚:都会だろーが田舎だろーが、結局めっちゃカッコいい人って、ごくごく一部しかいないんだなっていう体感はありますな。

加藤:「これは考えたこともなかった!」ってものにブチ当たる事って少ないですね。それが局所的にどこか一部に集まっているとも思えないし。比率で言ったら多いとかはあるかもしんないけど。ブームとかトレンドじゃなく、アルゴリズムから外れた何かを、なるべく受け取りたいって思ってるんですよね。

たとえばBASE(※)とか、同時代性ってものをあんまり感じないんですよ。どういうものが今ホットなのか、ヒップなのかっていう目配せを一切感じない。それを田舎臭いって表現する人もいるかもしれないけれど、オレは年間ベストみたいな事に興味がないんですよ。「今年これが急に好きになった」とか「なんか分かんないけど今これが自分に必要だと思った」みたいなものって、絶対誰しもあるはずで、そういうものにめちゃくちゃ興味がある。そういうものに影響を受けて何かを作るほうが、めちゃくちゃオリジナルな気がするんですよね。

※bar BASE:連載2話目で訪れた苫小牧にあるDJバー(記事はこちら)。

山塚:世間的なトレンドより、個人的なマイブームの方が、クリエイティブにおいて重要みたいな話だよね。

加藤:それが東京にいたら出来ないとかは全く思わないし、気づいたらそうだったって人もいるだろうけど、環境から変えちゃうってやっぱ早いですよ。耳に入ってくるものが全然違うから。

山塚:都会は望む望まざるに関わらず、情報が入ってきちゃうし、どうしても影響を及ぼしがちかもね。

加藤:自分の場合だったら、スコット・ウォーカー(※)のことが大事に思えてきたりするのって、何とも関係がないんですよ。なんでこんなに好きになったんだろうって考えたら、苫小牧の駅前にハヤシって喫茶店が以前あって、そこでジャッキー・トレントの“make it easy on yourself”が流れてて、調べたら作曲がバート・バカラックなんだって分かって、そこから遡ってウォーカー・ブラザーズのバージョンに行き着いて、こっちの方がいいかもってなって、それでスコット・ウォーカーが好きになって、って流れがあったんですよ。この話って、どんどん苫小牧の駅前からずっと外れていくんですけど(笑)。

※1960~70年代にかけて活躍したアメリカの歌手 / 作曲家。ウォーカー・ブラザーズの一員として数多くヒットを飛ばし、デヴィッド・ボウイやトム・ヨークにも多大な影響を与えた

山塚:苫小牧の駅前、関係ないね(笑)。

加藤:で、それをリファレンスにアルバムを作って、東京でレコーディングするっていう。

山塚:色んな時間が層を成して流れている。

加藤:そしてそのレコーディングした曲を聴くヤツには、そんなこと一切関係がないっていう(笑)。

山塚:いいね。何かが(笑)。でも年間ベストの話、すげえ分かるな。2024年に、自分の中でオールディーズのブームが来ることだって当然あるワケで。

加藤:その理由を考える方が絶対面白い気がする。シティポップが流行った理由とかもそうじゃないですか。それが人にフィットした理由って、簡単に一言で説明できるモノでもない気がする。

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