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歌は変容しながら時代を記憶する
ポピュラー音楽――ここでは単に「歌」といった方がいいかもしれないが――は、ひとたび世の中に送り出され、多くの人々が聴き、口ずさみ、伝えていく過程の中で、一個の硬い「作品」であることをやめ、もっと柔らかな可変性を持った何かとして存在を続ける。それは、ある特定の人々によって「アレンジ」や「カバー」がなされる場合は当然として、そのような「産業的」なプロセスとは無関係に市井の人々の口にのぼる過程においても同様だ。
もっといえば、カバーとか改変とかの実演とは無関係に、仮に一つのレコードに刻まれた音源がそのままの形で聴き繋がれていこうとも、どのような時代、どのような場所、どのような人々によって受容されるかによって、そこに託される、あるいはそれが象徴する意味はいくらでも変容していく。しかしながらその一方で、受容の形式がいくら変容を重ねようとも――いや、だからこそ――経年という試練にも耐え、時代を記憶する「わたしたちの経験」になりうる。ちょうど、本作における「愛」が、他でもないそうした経験として描かれているように。

ジャ・ジャンクーの映画は、ポピュラー音楽一般が宿命的に内蔵するそうした性質を、あまりにも鮮やかな仕方で抽出してみせる。彼は、当代を代表する映画監督であると同時に、常に前進と挑戦をやめない一流の「選曲家」なのだ。
『新世紀ロマンティクス』

2025年5月9日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:ジャ・ジャンクー
脚本:ジャ・ジャンクー、ワン・ジアファン
出演:チャオ・タオ、リー・チュウビンほか
配給:ビターズ・エンド
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