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時代の変化と心性をサウンドが表象する
注意して映画を見てみると、そうした1990年代前半までに世に出た楽曲が、2001年の時点で既に一種の「スタンダード」的な存在として――もっとわかりやすくいえば「過去」の印象を纏う存在として配置されている図式も浮かび上がってくる。WTOへの加盟承認など、グローバル世界経済への参加によって急速な(実質的)資本主義化を遂げる直前の時代にあって、それらのレパートリーが既に、主に「ミレニアム以前」の世代によって歌い継がれる存在へと推移しつつあったのがわかる。
また、こうした「ノスタルジックな」楽曲使用のわかりやすい例として、大同に戻ったビンが社交ダンスの会場で耳にする広州拠点のシンガー=ガン・ピン(甘萍)の“潮湿的心”を挙げられるだろう。様変わりしてしまった大同の姿と、あの時代を生きた人々の抱えるそれでも「変わらない」(変わることのできない?)心性が、この曲によって表象されていると考えるのも可能だろう。
他方で、(2001年における)新世代の若者であるチャオらがディスコで踊りに興じる際に流れるデンマークのToy-Boxのヒット曲“BEST FRIEND”(1998年)や、スウェーデンのSMiLE.dkの“BUTTERFLY”(同年)を筆頭に、「変わっていく中国」のアレゴリーとして、比較的リリース年の近いダンスミュージック〜クラブミュージックのトラックが使用されているのにも気づく。中でも印象的なのが、2006年のチャオが長江を遡航する場面と、奉節でビンを探す場面に流される、四川省生まれのアーティスト=ワン・レイ(王磊)による2つのトラックだ。ハービー・ハンコックの“Cantaloupe Island”を引用した(と思われる)ブレイクビーツ風の“迎贤店”と、エスニックダブ風の“处女”は、新時代が幕開けし、それまでのムードがガラッと変わっていく雰囲気を実に見事に伝えている。
加えて、2022年の珠海で、高齢のインフルエンサーとともにダンス動画を撮影する際に流されるディスコ曲“ジンギスカン”の使い方もかなり面白い。あえて穿った解釈をするのなら、最新のテクノロジーによって制作・拡散されるこの「ベタ」なパフォーマンスをスマホの画面越しに覗き込む裏寂しさこそは、コロナ禍と技術万能時代がもたらした新たな疎外の形と考えるのも可能だろうし、いにしえの著名ディスコチューンたる“ジンギスカン”を介して異世代同士が即座に繋がってしまう現下のメディア環境のおかしみが、じんわりと滲み出ているようにも感じる。