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その選曲が、映画をつくる

『新世紀ロマンティクス』に聴く中国音楽の30年 90年代から現行マンドポップまで

2025.5.9

#MOVIE

本作が映し出す、改革開放下の中国の音楽受容

特別に重要な働きを負っている存在が、やはり音楽だ。ホウ・シャオシェン映画での劇伴等でも知られる名作曲家リン・チャン(林強)のファンとしては、彼の手によるクラブミュージック調のスコアが、映画全体が過度なシリアス性に没するのを見事に回避している点をまずは指摘したい。ショットや編集リズムとの密着感も相変わらず素晴らしく、ジャ・ジャンクー監督とリン・チャンのコラボレーションが、まさに今充実期に入っていることを告げている。

リン・チャンはDJ / 音楽プロデューサーとして、自身のユニークな作品も多く発表している。 photo by 佛空靈 is licensed under CC BY-SA 4.0.

既存曲の選曲、使用法も、いつも以上に冴え渡っている。表層的なレベルでは(先にも述べたように)時代背景や心情のアナロジーとしての機能を担いながらも、それぞれの楽曲が、どのようなシチュエーションで、どういったコミュニケーションにおいて、どういった人々の間で受容されている(いた)のかをしっかりと映し出すことで、一層深く強い効果を生んでいる。

例えば、本編冒頭で地元大同の女性たちがアカペラで歌う、中国ポップスの代表的歌手=マオ・アミン(毛阿敏)の“永远是朋友”(1994年)をはじめ、香港のリンダ・ウォン(王馨平)がブレイクするきっかけとなった北京語曲“别问我是谁”(1993年)や、大同の文化センターで歌われる台湾出身の香港ポップス界のスター=サリー・イップ(葉蒨文)の“潇洒走一回”(1991年)、日本での活動でも知られるシュー・ピンセイ(周冰倩)の“真的好想你”(1994年)などは、当時の中国大衆がどういった歌を好んでいたかを現代日本の観客にも説得的に伝えるはずだし、改革開放政策と並行する形で行政区分を超えた東アジア圏の音楽マーケットが大規模に形成されてきた事実を再確認させてくれる。その一方で、大同の文化センターで、シンセサイザーでアレンジされた革命歌“黄土高坡”が歌われる場面などからは、流行曲にとどまらない音楽受容のありようもはっきりと伝わってくる。

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