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選曲が示唆する、「統合されたフランス像」とその変革の予感
The Beatlesのレコードは既にフランスでも発売されていたものの、後のような熱狂的人気を獲得していたわけではなく、1964年1月に行われた初のフランス公演でもそれなりの歓迎を受けたものの、共演者であった地元のスター=シルヴィ・ヴァルタンの人気が上回っていたという話も伝わっている。つまり、クリフ・リチャードのほがらかな歌声によって幕開けし、終盤に至ってもなおThe Shadowsの端正なギターがダンスホールを彩る『ペパーミントソーダ』の世界は、後の「若者の反抗」の象徴たるロックの足音がほんのすんでのところに迫っていながらも、いまだ多くの若者の耳には聴こえていない、ある種のジュブナイルとその終焉の予感のただ中にあることが示されているのだ。
そう考えるならば、映画中盤に描かれる若者だけのパーティーのシーンで流れるのが、叙述のシルヴィ・ヴァルタンのツイスト〜イエイエ“Il Revient (Say Mama)”(1963年)だというのも妙に示唆的に思えてくるし、同シーンではサルバドール・アダモによる大ヒット曲“雪が降る(原題:Tombe la neige)”(1963年)も使われるなど、全編に渡ってシャンソンの名曲も散りばめられている。私には、やはりそのどれもが、当時の一般大衆が(アルジェリア戦争を経てもなお、いや、だからこそ)抱いていたとされる統合されたフランス像への素朴な憧憬と、その変革への気配がうっすらと入り混じった選曲に感じられてならない。
