1977年に製作され、長く日本未公開だったフランス映画『ペパーミントソーダ』が、4K修復版として12月13日(金)より初上映される。
監督自身の体験を元にしたドラマである本作には、思春期の少女の心の揺れとともに、1960年代後半のいわゆる「政治の季節」へと向かうムードが色濃く反映されており、劇中の音楽もまた、それらと響き合うものとなっている。評論家・柴崎祐二が論じる。連載「その選曲が、映画をつくる」第21回。
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幻のフランス映画、日本初公開
1977年のデビュー以来、フランス映画界における先駆的な女性監督として現在まで活躍を続けてきたディアーヌ・キュリス。ジャクリーヌ・オードリーやアニエス・ヴァルダといった少数の例外を除き、長らく男性監督が覇権を握ってきた同国の映画界において、それまで映画制作の経験がまったくなかったという彼女の登場は、まさしく時代の新風を感じさせる出来事であっただろう。
本作『ペパーミントソーダ』は、そんなキュリスの第一作であり、フランス国内で300万人以上を動員した大ヒット作品である。同年のルイ・デリュック賞を受賞するなど、高い評価を与えられた作品だったが、現在に至るまで日本では未公開のままで、ごく一部のファンのみに知られる「幻の映画」であった。近年、同時代のヨーロッパの女性監督による傑作が次々に初公開・リバイバル上映され話題となる中、同作の4K修復版がこうして日本配給された意義は殊の外大きいだろう。
あらすじを紹介しよう。舞台は1963年夏から翌年1964年夏にかけてのフランス、パリ。13歳のアンヌ(エレオノール・クラーワイン)と15歳の姉フレデリック(オディール・ミシェル)は、普段は父と離れ、母と3人で暮らしている。妹アンヌは、厳格な女子校リセ・ジュール・フェリー校の新学期を眼の前にして、心が落ち着かない。成績優秀な姉の反面、学校でも家庭でもなにかと問題を起こしがちで、性への関心も高まるばかりだ。
一方で姉のフレデリックは、はじめのうちこそボーイフレンドと睦言を交わすことに夢中だったが、友人関係の変化とともに、次第に政治意識に目覚めていく。母親(アヌーク・フェルジャック)はそんな姉妹の言動に気を揉みながらも、ときに厳しく、ときに優しく二人を諭そうとするのだった……。