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ジュブナイル性を象徴するクリフ・リチャード
こうした「若さ」への視線は、劇中で流されるポップソングの選曲にも見いだせる。いや、見いだせるどころか、当時のポップソングの響きそれ自体が、映画全体をそうしたカラーに染め上げる重要な役割を担っているように感じられる。
オープニングに置かれたバカンスのシーンでラジオから流れるのは、当時イギリスを中心にアイドル的な人気を誇っていたクリフ・リチャードとThe Shadows(当時はThe Drifters名義)によるヒット曲“Livig Doll”(1959年)だ。いかにも長閑でポップなサウンドを聴かせるこの曲をはじめ、映画館でアンヌがクリフ主演の『太陽と遊ぼう!』(1963年)を観たいと言うシーン、そして終盤のダンスパーティーで流れるThe Shadows版の“Sleep Walk”(1961年)等、クリフ・リチャードおよびThe Shadowsの曲 / モチーフは、本作の中で繰り返し登場する。
ポップミュージック史の視点から見ると、当時のクリフ・リチャード(およびThe Shadows)は、ロックンロールの英国(およびヨーロッパ)におけるローカライズとポップ化を象徴する存在であったといえる。その作風は、元となったアメリカ産のロックンロールと比べても穏健かつポップで、もっとはっきりいうならば、ジュブナイル的な「無垢さ」と親和的なものといえる。
翻って、『ペパーミントソーダ』の舞台である1963年から翌1964年にかけては、そうした「クリフ・リチャードの時代」であったと同時に、彼と入れ替わるように、もっとワイルドなサウンドを聴かせるイギリス人の若者四人組が、まさにフランスにも旋風を巻き起こさんとしていたそのときにあたる。他でもない、The Beatlesのことだ。
