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ホアキンとガガが、グレートアメリカンソングブックを歌う
ポップミュージック界のスター=レディ・ガガが重要な役どころを演じていることからもわかる通り、本作の主要な魅力の一つに、音楽、とくに歌曲の巧みな使い方が挙げられる。前作『ジョーカー』でもいくつかのポップソングが顕著な効果を発揮していたが、今回はそれを更に上回る存在感で、ほぼ全編に音楽が配置されている。しかも、それらのほとんどは、既存音源を使用するのではなく、アーサー(ジョーカー)やリーが実際に劇中で歌唱しているのだ。

サウンドトラック盤の曲目を元に、代表的な楽曲を挙げよう(参考のため、作曲者、オリジナルまたは主な歌唱者、同曲が使用された代表的な映画 / 舞台作品がある場合、その名称を曲名以下に併記する)。
“Slap That Bass”(作曲:ジョージ・ガーシュウィン / 作詞:アイラ・ガーシュウィン / 歌唱:フレッド・アステア等 / マーク・サンドリッチ監督『踊らん哉』1937年)
“Get Happy”(作曲:ハロルド・アーレン / 作詞:テッド・ケーラー / 歌唱:ルース・エッティング、ジュディ・ガーランド等 / チャールズ・ウォルタース監督『サマー・ストック』1950年)
“What The World Needs Now Is Love”(作曲:バート・バカラック / 作詞:ハル・デヴィッド / 歌唱:ジャッキー・デシャノン)
“For Once In My Life”(作曲:オーランド・マーデン / 作詞:ロン・ミラー / 歌唱:バーバラ・マクネアー、スティービー・ワンダー等)
“If My Friends Could See Me Now”(作曲:サイ・コールマン / 作詞:ドロシー・フィールズ / 歌唱:シャーリー・マクレーン、リンダ・クロフォード等 / ブロードウェイミュージカル『スイート・チャリティー』1966年)
“Bewitched”(作曲:リチャード・ロジャース / 作詞:ロレンツ・ハート / 歌唱:ヴィヴィアン・シーガル、ドリス・デイ等 / ブロードウェイミュージカル『夜の豹(Pal Joey)』1940年)
“That’s Entertainment”(作曲:アーサー・シュワルツ / 作詞:ハワード・ディーツ / 歌唱:フレッド・アステア等 / ヴィンセント・ミネリ監督『バンド・ワゴン』1953年)
“When You’re Smiling”(作曲・作詞:マーク・フィッシャー、ラリー・シェイ、ジョー・グッドウィン / 歌唱:シーガー・エリス、ルイ・アームストロング等)
“To Love Somebody”(作曲・作詞:バリー・ギブ、ロビン・ギブ / 歌唱:Bee Gees)
“(They Long To Be) Close To You”(作曲:バート・バカラック / 作詞:ハル・デヴィッド / 歌唱:リチャード・チェンバレン、Carpenters等)
“The Joker”(作曲・作詞:アンソニー・ニューリー、レスリー・ブリッカス / 歌唱:アンソニー・ニューリー / ミュージカル『The Roar of the Greasepaint – The Smell of the Crowd』1964年)
“Gonna Build a Mountain”(作曲・作詞:アンソニー・ニューリー、レスリー・ブリッカス / 歌唱:サミー・デイヴィスJr.等 / ミュージカル『地球を止めろ 俺は降りたい(Stop the World – I Want to Get Off)』1961年)
“I’ve Got The World On A String”(作曲:ハロルド・アーレン / 作詞:テッド・ケーラー / 歌唱:キャブ・キャロウェイ等)
“If You Go Away”(作曲・作詞:ジャック・ブレル / 英語詞:ロッド・マッケン / 歌唱:ダミタ・ジョー、シャーリー・バッシー等)
“That’s Life”(作曲・作詞:ディーン・ケイ、ケリー・ゴードン / 歌唱:マリオン・モンゴメリー、フランク・シナトラ等)
“True Love Will Find You in The End”(作曲・作詞・歌唱:ダニエル・ジョンストン)
このリストを見てもらえれば分かる通り、一般に「グレートアメリカンソングブック」と呼ばれる、「古き良き」時代の米国産ポップソングが多数を占めている。前作でも“That’s Life”が(殺害されたエンターティナー、マレー・フランクリンの番組テーマソングとして)目立った使われ方をしていたことを思い出せば、そうした路線をより一層推し進めたものともいえそうだ。更には、そのレパートリーと劇中での登場の仕方、つまり、上述の通りアーサー(ジョーカー)とリーによる「実際の」歌唱によって披露されるという形式からも、この映画が往年のハリウッドミュージカル映画の音楽表現を踏まえた作品であるのは間違いのないところだろう。