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映画『ランニング・マン』の音楽が突きつける、今日のメディア環境への警句

2026.1.28

#MOVIE

映画『ランニング・マン』が2026年1月30日(金)より公開となる。スティーヴン・キングが記した『バトルランナー』の原作小説を、エドガー・ライト監督が再び映画化した同作は、いまの時代に何を投げかけるのか。劇中で流れる1970年代のポップソングに着目して、評論家 / 音楽ディレクターの柴崎祐二が論じる。連載「その選曲が、映画をつくる」第34回。

※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

エドガー・ライト監督の優れた選曲センス

初期作『ショーン・オブ・ザ・デッド』以来、エドガー・ライトの映画作品において、既存のポップソングは常に欠かせない存在であり続けている。『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』や『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』『ベイビー・ドライバー』といったヒット作で聴かれた数々のポップソングの存在は、彼自身が抱く音楽文化への並々ならぬ愛情を映し出してきたと同時に、ときにはテーマやモチーフの根幹部分に関わる優れた演出効果を担ってきた。

この度新たに公開される映画『ランニング・マン』においても当然ながらそうした選曲センスは健在で、映画 / 音楽ファン双方の期待に沿うであろう優れたポップソング使用の例を体感させてくれる。

エドガー・ライト監督 / ©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

あらすじを紹介しよう。映画の舞台は、独占メディア企業の「ネットワーク社」が政治経済を支配する近未来のアメリカだ。国民はネットワーク社の監視下におかれ、住所はおろか、職歴や病歴などの個人情報が彼らの手の内に握られている。ごく一部の富める者と貧しい者の格差はきわめて深刻で、スラムに住む多くの人々は、日々の生活もままならない状況に置かれている。そんな荒んだ社会にあって、人々は、ネットワーク社が提供する暴力的なリアリティショーに熱中することで憂さを晴らしている。

職を失い、重病の娘を抱える男ベン・リチャーズ(グレン・パウエル)は、なんとかして娘の薬代を得ようと、そうしたショーの中でももっとも苛烈な番組「ランニング・マン」へ出演することになる。もし、30日間殺されずに逃げ延びたなら、1000億円という巨額の賞金を得られると謳われている番組だ。敵役のハンターと懸賞金目当ての視聴者の目が光る中、最後まで逃げおおせた挑戦者は過去に一人もいない。果たしてベンは、生き残ることができるのだろうか──。

物語と巧みにリンクする、スライ、イギー・ポップ、ストーンズ

本作『ランニング・マン』は、かのスティーヴン・キングが1982年に「リチャード・バックマン」名義で発表した同名小説を原作としている。1987年にはアーノルド・シュワルツェネッガーの主演によって映画化(邦題『バトルランナー』)されているが、大幅な脚色が施されたその旧版に対し、今回の新版は、比較的原作に忠実なストーリーが展開される。

全体を通じて、エドガー・ライト作品特有のキレの良いアクションが随所で際立つ内容で、急転直下の物語およびカメラワークが、実に爽快なリズムを作り出している。時に過剰とすら言えるほどに慌ただしいプロット運びとなっているものの、そうした慌ただしさこそが、「逃げる男」というメインモチーフを際立たせているのがわかる。

生死をかけたリアリティショーに出場することになるベン・リチャーズ(グレン・パウエル) / ©2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

使用される楽曲も、実にリズミカルかつ疾走感に満ちたものが多い。初期Sly & The Family Stoneの名曲“Underdog”にはじまり、南アフリカ出身のシンガーソングライター=ジョン・コンゴスによるカルトヒット“He’s Gonna Step on You Again”、Iggy and the Stoogesのプロトパンク名曲“Search And Destroy”、トム・ジョーンズによるジャキー・エドワーズ曲のカバー“Keep On Running”、カナダ系アメリカ人作曲家ガルト・マクダーモットによるソウルジャズ曲“Coffee Cold”、サザンロックの代表格The Allman Brothers Bandの“Revival”、The Rolling Stonesによるファンク風味のロックンロール“Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)”、カーティス・ブロウのオールドスクール名曲“Tough”、ジャズポエットの第一人者ギル・スコット・ヘロンの代表曲“The Revolution Will Not Be Televised”などの各曲が、オリジナルスコアとともに、映画全体のリズムと調和しながら、ときに物語を牽引していくような役割を負っている。さらに言えば、各曲の歌詞内容も劇中で描かれる心象や状況と巧みにリンクしており、当該の曲たちに慣れ親しんできたファンであれば、否応なく身を乗り出さざるを得ないだろう。

しかしながら、そのように(いつものライト監督作品と同じく)いかにも必然性を伴った選曲だと評しうる一方で、映画の要の一つである美術面における協働性という視点では、一見すると、ややチグハグな感があるのも否めない──のだが、これは、あえてそうしているのだと推察してみるべきかもしれない。

どういうことか。この映画で描かれるテクノロジーによる暴力的な人民支配の様相と、それと対応するような(主にスラム地域の)ビジュアルイメージに通底するある種の美学の存在ついて考えてみれば、おのずと意図するところが見えてくるだろう。

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