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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
オカヤイヅミの「うちで飲みませんか?」

忙しい高妍と、食べさせたいオカヤ。日台漫画家が食卓で語る、仕事、食事、政治

2024.7.26

#BOOK

漫画家オカヤイヅミさんが、ゲストを自宅に招いて飲み語らう連載「うちで飲みませんか?」。第5回は台湾出身の漫画家・高妍(ガオ イェン)さんにお越しいただきました。

働きづめで、人と食事をする時間が唯一リラックスできるという高さんに、オカヤさんの料理の腕が鳴ったサシ飲みの模様をお届けします(高さんはノンアルコール)。

当日振る舞われた「冷やし梅味噌豚うどん」のレシピもお見逃しなく!(レシピは記事の最後にあります)

日本語にない、台湾語の言い回し

高:今日のことをとても楽しみにしてきました! よろしくお願いします。

オカヤ:ようこそ。最近は忙しいですか?

高:はい、連載の来月の分が62ページあって……。しかもちょうど今週引っ越しをして、まだ家が段ボールだらけなんです。

オカヤ:えー、それは大変。高さんは絵の密度がすごいから、私の62ページとぜんぜん労力が違いますしね。

高妍(ガオ イェン)
漫画家、イラストレーター。1996年、台湾・台北生まれ。台湾を舞台に、はっぴいえんどや村上春樹など日本のカルチャーに魅せられる若者を描いた漫画『緑の歌 – 収集群風 -』が大きな話題となる。現在『月刊コミックビーム』にて『隙間』を連載中。

高:私の漫画はまず母語で描いてから翻訳してもらっているので、翻訳の時間や、チェックややりとりの時間もかかるんです。しかもいまネームのストックがなくて。ペン入れをしながらネームを描かないといけなくて、本当にやばいです。

オカヤ:もう自分でも訳せそうだけど。

高:いや、ぜんぜんまだできない。台湾の言葉を日本語にするのには、やっぱり不自然さが出てきます。最近面白いなと思ったのは、台湾でよく使う言葉が、そのまま日本語に翻訳できないことがあって。

オカヤ:それは何ていう言葉だったんですか?

高:「我想你」、英語で言うと「I miss you」ですね。日本語に翻訳すると「寂しくなる」とか「あなたに会いたくなる」になるけど、そのままの意味は「私はあなたのことを考えています」。会いたいとか寂しいというより、もうすこし曖昧な感じなんです。

オカヤ:なるほど。日本だとまず「I miss you」とか「会いたい」って、恥ずかしがってあんまり言わない人が多いかもですね。

高:台湾ではめっちゃよく使うんですよ。恋人だけじゃなくて、家族とかにも。お父さんからも「我想你」とLINEがきます。

オカヤ:家族に「I miss you」って言わないなあ……家にもよるかもしれないけど。

高:私の周りではお父さんが「我想你」を一番よく使う人かもしれないです。「今すぐ東京に泳いで行きたい」とか言ってきますよ(笑)。

オカヤ:お父さんかわいいな。

「もうごはん食べた?」

オカヤ:高さんはお家で仕事してるんですよね?

高:はい。小説家の方は喫茶店で書いたりもされますけど、漫画はやっぱり道具があるので。

オカヤ:液晶タブレットも大きいし、家か仕事場になりますよね。

高:昔の小説家は、あちこち旅行して宿で作品を書いたりしていて、いいですよね。

オカヤ:たしかに。ゆかりの宿がいっぱいあるもんね。漫画でそれをやるのは大変そう。iPadがあればネームだけならできるかもしれないけど。

高:そうですね。旅先でスケッチしながら漫画を描くのは、五十嵐大介さんがやっていましたね。

オカヤ:旅の漫画家はちょっと憧れるな。来年インド旅行に行くかもしれないから、インドで漫画描こうかな。

高:インドいいですね! 私もいろんなところに遊びに行きたいし、台湾の実家にもたまには帰りたいんだけど、いまは仕事が忙しすぎて。毎月だいたい20日はずっと漫画を描いていて、残りの10日はイラストの仕事をしています。担当編集さんにまで「仕事はほどほどにしてね」と言われます。彼の方も「それはこっちのセリフだよ」と言いたくなるくらいずっと働いてるんですけどね。

オカヤ:すごい。「今日は何もしたくない」みたいな日はないんですか?

高:とてもありますけど、でも私、一度仕事をし始めると、ごはんを食べるのも忘れるくらい夢中になってしまうんですね。

オカヤ:それは食べた方がいいよ! よし、今日はうどんを茹でよう(笑)。

高:ありがとうございます(笑)。実は今日もあまり食べていなくて。

この日のメニューは、冷やし梅味噌豚うどん、鰹の刺身スパイス油がけ 、レンズ豆と夏野菜のサラダ、ズッキーニの焼き浸し。冷やし梅味噌豚うどんのレシピは記事の最後に!

オカヤ:実家のお母さんとかって、「こんなに食べられないよ」という量の料理を用意したりするじゃん。最近あの気持ちがわかるようになってきたよ。「たくさんお食べ〜」みたいな。

高:はい、わかります。私も友達が家に来たときとかは、そうなる。台湾では、英語の「How are you?」みたいな感じで、「もうごはん食べた?(呷飽没?)」というのが一番よく使う挨拶の言葉なんです。

オカヤ:へえー。それは、なんて答えるの?

高:だいたい90%「食べた」って答える。聞いている方も、実際に食べたか知りたいわけではないんです。私は、もしまだ食べていなかったら、「あとで食べる」って答えるかな。

オカヤ:なるほど。

高:誰かとごはんを食べて雑談するのは、一番リラックスできますね。私、一人のときは、「今から1時間は休みで仕事をしちゃだめ」と決めても、我慢できずに仕事をしてしまうか、「なんで休んでいるんだろう」という罪悪感を感じてしまうから。でも、みんなと集まるときは、仕事のことを一切考えてないし、リラックスできます。

オカヤ:真面目だなあ!

作家仲間という存在のありがたさ

高:いえいえ。今日もそうですけど、『コミックビーム』(*)の漫画家さんと会うのはすごく嬉しいんです。編集部のみんなや連載している漫画家さんのことは、「仲間」だと思っています。『緑の歌』の連載がはじまる前までは、ずっと一人で漫画を描いてきて、そういう仲間がぜんぜんいなかったので、いまとても嬉しい。

*二人が連載している、KADOKAWAが発行する月刊漫画雑誌。

オカヤ:漫画家は個人戦ですからね。基本的に家でひとりだし。漫画を描くのって、「お前はどう思うんだ」とずっと聞かれているような感じがする。あと、小説の世界にはいわゆる文壇みたいな「シーン」がある程度ある気がするけど、漫画はコミュニティが薄いかもね。批評との戦い方とか、そういう意味での孤独もあるかもしれない。

高:はい。担当編集さんには、何か悩むことがあったら相談させてもらっていて、いつも問題や不安を解決してくれるし、一緒に頑張ってくれている気持ちが伝わってきて、安心します。

オカヤ:心強いですね。でも高さんの方にも、それを切り開く力があるんだと思う。「わかってもらえない!」みたいなことを、ちゃんと解決していってるんだろうね。

高:私は日本人ではないし、打ち合わせで私の伝えたいことが相手にはっきり伝わらなかったらどうしようか、心配していたんですけど、担当編集さんがすごすぎて。今はお互いに、何も言っていなくても何を考えてるかわかるくらいです。

オカヤ:ラブソングみたいだな(笑)。あと、漫画家はいきなりパタッと倒れる人が多いので気をつけた方がいい。最近突然死が怖くてね……。

高:それで言えば、前に、原稿が終わって「よし、リラックスするぞ!」と思って温泉に入ったら、すぐ倒れてしまったことがあって。

オカヤ:ええ! 危ない!

高:仕事しすぎですね。そのときもごはんを食べていなくて、自分の体を過信していました。やりたい仕事の話はつい引き受けてしまって、体を壊していたんですけど、最近は、タイミングが合わないときは、やりたくてもちゃんと断った方がいいと思うようになりました。

オカヤ:うん。ごはん、ちゃんと食べてね……。みんなでごはん食べに行こうね。

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