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この場所が、ここでしかできない選曲を引き出す
黒茶屋は店主が一人で音楽をセレクトして流している店ではないけれど、「この場所ならではの音楽」があるように感じる。『SHELTER』で選曲をする神谷くんの専門はジャズ。彼は、柔らかい光が差し込み、コーヒーの香りが漂う古民家の穏やかな昼間に合う、ちょうどいい塩梅のジャズやジャズに隣接する音楽を流してくれる。
コンサバティブなスタイルのコルネット奏者ルビー・ブラフ、1960年代のチェット・ベイカーを支えた名ピアニストのカーク・ライトシーといった渋いセレクトが、黒茶屋の雰囲気によく似合う。映画『グリーンブック』のモチーフにもなったピアニストのドン・シャーリーのレコードもぴったりだったし、クラリネット奏者のジミー・ジュフリーのフォーキーかつ室内楽風味のジャズもしっくりきた。

お客さんをハッとさせるための選曲でも、珍しいレコードを披露するのでもなく、むしろひっかかりを作りすぎずに日曜日の朝にゆるく聴きたいようなレコードを選んでくれる絶妙さ。軽やかなスウィングのリズムが一日の始まりを演出してくれている気もした。この空間の魅力がそうした選曲を引き出し、そして選曲がまたこの場の雰囲気を作る。場所と選曲の相互作用をここまで感じたことはなかった。

実は僕も黒茶屋でゲストセレクターとして選曲をしたことがある。その際には家でリラックスしたいときによく聴いているCDを選んで持っていった。バラード中心のジャズボーカルや、ブルースフィーリング溢れるソロピアノのような、DJとして呼ばれたときにはなかなかかけられない作品を選ぶことができる楽しさがあったし、なんといってもこの黒茶屋という空間にふさわしい音楽を選ぶことがものすごく楽しかった。誰かに向けて音楽をかけるというよりは、その場所のために選ぶこと。ほど良い塩梅のBGMとして機能する音量を探るのも面白かった。選曲仕事はよくやっているが、ここでしかできない選曲をこの空間がさせてくれた。

バーカウンターの前で立ったまま、もしくは椅子に腰かけるか、ちゃぶ台の横で胡坐をかきながら、集まる人たちとなんでもない会話を楽しみ、音楽に耳を傾ける。黒茶屋でしか味わえない至福の時間がある。今回訪れたのは2月だったので、薪ストーブの前で陽の光を浴びながらうとうとする時間も最高だった。間違いなく、今の僕にとって黒茶屋は京都に行く目的のひとつになっている。
《『SHELTER』神谷さんが選ぶ5枚》

・Johnny Smith『The Man With The Blue Guitar』
・Don Shirley Trio『Water Boy』
・Jimmy Giuffre『Trav’lin Light』
・Petros Klampanis『Rooftop Stories』
・Brandon Ross『Puppet』
《黒茶屋cojiさんが選ぶ5枚》

・Sachal Vasandani『Still Life』
・Thomas Bartlett『Shelter』
・Sandrayati『Safe Ground』
・藤本一馬『Flow』
・Wilson Tanner『69』
黒茶屋
住所:非公開
営業時間:不定
定休日:不定
https://www.instagram.com/b__kurochaya/