先週末に世界最大のフェスティバルである『グラストンベリー・フェスティバル』が開催された。4月の『コーチェラ』、6月の『ボナルー』『プリマヴェーラ』と続いてきた世界の主要フェスの前半戦がはやくも終わってしまった。しかし日本はこれからが本番、今年も『フジロック』と『サマソニ』に多くのダンスアクトが出演する。いくつかの注目のアクトを紹介しつつ現在のダンスシーンの状況を紹介しよう。
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イギリスではダンスミュージックがポップミュージックになっている
毎年4月から5月にかけてDJやパーティー、フェスのSNSアカウントでの告知が一気に増える。そして今の時期からは現場の写真や音源がどんどんアップされてゆく。どれを見てもほんとに羨ましいものばかりだけれど、ちょっとした現場の空気が伝わるだけでどんな音楽でみんなが踊っているかがわかるのも楽しいものだ。とくに今はフェスのネット中継も多いし、オーディエンスがYouTubeにアップする映像からでもいろんなものが伝わってくる。僕自身はイギリスの国営放送BBCのインターネット放送であるBBC SOUNDSをいつもチェックしている。テレビ放送をネットで中継するBBC iPlayerはイギリス国内に限定されるけどラジオ放送中心のBBC SOUNDSは海外からでもアクセスが可能だ。
いまはグラストンのすべてのヘッドライナーのフルステージを聴くことができる。
BBC SOUNDSはリアルタイムのラジオ放送もきけるし、ライブはパーティー中継のアーカイヴなども多くアップされている。なによりダンス、ロック、リラックスなどジャンルに特化した番組の内容がとにかく充実している。1990年代に必死になってEssential Mixのプレイリストをチェックしていた頃からは考えられないほどすばらしい状況なのだ。僕は日中BBC SOUNDSのダンスチャンネルを流しっぱなしにしている。そこで思うのはイギリスではダンスミュージックは完全にポップミュージックだというこだ。あらゆるタイプのダンスビートが一日中流れている、それだけパーティーやダンスが日常に浸透しているということだろう。
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Romyから感じる、1998年から2000年のクラブミュージック
最近の一番の収穫は5月にスコットランドのダンディーという街で行われた『BBC Radio 1’s Big Weekend』というフェスに出演したRomyのライブだ。このフェスはヘッドライナーこそTHE 1975やルイス・キャパルディだけど、全体的に話題の若手やダンス系のアクトが多く出演している。そのいくつかのライブが1ヶ月アーカイヴされていて聴くことができる。配信されたRomyのセットは30分ほどの短いセットだが、Soniqueの“It Feels So Good”のトランスミックスからBinary Finaryの“1998”に自身の“Lifetime”のサンプルを載せるというDJをやっていた。1990年代のヒットチューン、しかも超アッパーなトラックの連発から彼女のオリジナル“Enjoy Your Life”と“Strong”を歌ってセットを閉じる。BBCのライブ音源は1990年代の昔からオーディエンスの音を拾うのがとてもうまいのでフロアの臨場感がダイレクトに伝わってくる、Romyはほんとに愛されている。
このライブを聴いていても、この数年言われている1990年代のサウンドのリバイバルを実感した。そもそもRomyのDJセットでいつもプレイされているNalin & Kaneの“Beach Ball”やFragmaの“Toca Me”は1990年代後半のトランスクラシックだ。前出のBinary Finaryの“1998”などは僕が初めてイビサに行った1998年に世界的な大ヒットとなり、その後10年以上はフロアを沸かせていた。“1998”がAmnesiaのcreamでプレイされた瞬間のフロアの沸騰するような大爆発は一生忘れることができないだろう。
しかし1989年生まれのRomyは当時まだ10歳ぐらい、リアルタイムではクラブに行くことすらできない。彼女のDJもそうだけど、オリジナル曲からも僕は強力に1998年から2000年のクラブミュージックを感じる。たとえ“Enjoy Your Life”はStardustの“Music Sounds Better With You”やピート・ヘラーの“Big Love”、Molokoの“Sing It Back”などのハウスを感じるし、“Strong”はそれこそ最高の90’sトランスだと思う。”Strong”の共作者であるFred Again..も1990年代のクラブ系ディーヴァ=ビリー・レイ・マーティンの名曲“Loving Arms”をカバーしている。彼もきっとRomyと同じように音楽を聴いてきたのだろう。
The xxでもルイ・ダ・シルバの“Touch Me”やKings Of Tomorrowの“Finally”をカバーしていることから1990年代後半のダンスミュージックが彼らのインスピレーションになっていることには気がついていた。しかし世代的にはまったく現場にアクセスできない彼らはどうやって数々の名曲を知ることができたのだろうか。これは完全に僕の想像だが、彼女はほんとに毎日ラジオを聴いていたんだと思う。金曜日のEssential MIxでのライブミックスを毎週楽しみにしながら、いつかクラブへいける年齢になることを待ちきれずに。もし彼女に会うことがあったらぜひその真相を聞いてみたい。
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2023年の『フジロック』『サマソニ』の注目アクト
BBC SOUNDSでダンスチャンネルを1日中ながしているとその選曲の多彩さに驚く。最新のトラックからクラシック、ポップチューンからアンダーグラウンドなベースミュージックまで時代もさまざまに次から次へとダンスミュージックが流れ続ける。これは多感なティーンエイジャーならすぐに夢中になってしまうだろう。イギリスはこうやって世代ごとに音楽をつないでいる。Romyの曲に込められたメッセージもクラブやパーティーで受け取る大事なことばかりだ。それは1990年にパーティーを体験した僕の世代が受け取ったメッセージと全く変わらない。それを正面から伝えてくる彼女をみていると音は進化しても芯の部分は同じだと思える。それが世代を超えて支持される理由なのだと思う。とにかく、このくだらない日常を忘れさせてくれるパーティーをみんなが待ち望んでいるのだ。
さてそのRomyが『フジロック』にやってくる、いったいどんな曲をセットで使うのか今から楽しみだ。9月に発売となるアルバムには彼女の愛したダンスミュージックがさまざまなかたちで詰まっているはずだ。本来ならばこの原稿ではこの10年、ダブステップ以降のUKダンスシーンをRomyの世代の活躍を中心に語りたかったのだが、その入口で想像以上に長くなってしまった。いまUKのシーンは2010年代前半にキャリアをスタートした世代がシーンの中心になり、変革期を抜けて大きな流れになりつつある。BicepやFor Tet、Jon Hopkins、Bonoboなどがテンポもスタイルもこれまでとは違い定型にこだわらないサウンドでシーンをリードしたことで、パーティーミュージックに音楽的な自由度がひろがった。その状況がさらに若い世代が新しい感覚で1990年代的なビートを再構築するきっかけを与えている。そこにはFerd Again..、TSHA、Jayda G、Barry Can’t Swim、ペギー・グーなど多くの才能が固まっている。それについてはまた次回掘り下げてみようと思う。数少ない日本のパーティーフリークのみんなに言いたいのは、とにかく『フジロック』のRomy、TSHA、THE BLESSED MADONNA、『サマソニ』のSlowthaiを見逃さないように!
YODA DJ DATE

『Analog Journey presents. -Offshore-』
2023年7月15日(土)
開演日時 12:00
横堀海岸みなとや (神奈川県)
神奈川県三浦市三崎町小網代1168
https://t.livepocket.jp/e/hlb3e