2024年11⽉7⽇(⽊)から10⽇(⽇)まで開催される、『アートウィーク東京(AWT)』。53の美術館 / ギャラリーが参加する同イベントは、アートを気楽に多くの人に楽しんでもらえるよう、あの頃の遠足を思い出すような無料シャトルバス「AWT BUS」を約15分間隔で運行してくれています。
この連載では、そんな『AWT』を楽しみ尽くすプランをゲストと考えます。今回は、Dos Monosのラッパーであり、クリエイティブディレクターとしても活動するTaiTanが登場。音楽家である玉置周啓とのPodcast『奇奇怪怪』やTBSラジオ『脳盗』ではパーソナリティを務めるなどの活躍からは、膨大なアイデアのインプットを感じます。
「気になるアーティストがいれば展示規模や作品点数は関係なくどこへでも行く」というTaiTanと東京・ワタリウム美術館で開催中の『SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット』を訪れました。サプライズでSIDE COREのメンバーも登場し、作家本人からの解説も聞きながらの鑑賞の後で、これまでアートから得てきたインスピレーションと自身のクリエイティブについて話を聞きました。
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バンクシーとの出会いから広がった、現代アートへの興味
ーTaiTanさんのアートとの出会いを教えてください。
TaiTan:目立ったきっかけはないのですが、物心ついた時から映画も音楽もテレビも演劇も手の届く場所にあり、ポップカルチャーやものづくりに強い関心がありました。やっぱりインターネット以降の世代なので、国内外のアニメや動画、クラシック音楽といった時間軸も背景もバラバラのカルチャーが、YouTubeなど統一されたプラットフォームに並ぶ風景に慣れているし、少年の頃からさまざまな情報がすぐ手に届く距離にありました。

Dos Monosのラッパー。クリエイティブディレクターとしても活動し、¥0の雑誌『magazineⅱ』やテレ東停波帯ジャック番組『蓋』、音を出さなければ全商品盗めるショップ『盗』などを手がける。Podcast『奇奇怪怪』やTBSラジオ『脳盗』ではパーソナリティもつとめる。
TaiTan:現代アートに関しては僕が中学生だった2000年代にバンクシーが現れて、彼のアクションやアートシーンでの存在感に惹かれたのを覚えています。当時は言葉では理解できていなかったですが、バンクシーの登場によって、アートの力で社会問題や環境問題にまで介入するアートアクティビズムのような流れが目立つようになり、僕の中のアートのイメージが広がったのかなと今となっては思います。
ー今日鑑賞されたSIDE COREも「都市空間における表現の拡張」をテーマに、公共空間や路上でさまざまなアクションを行ってきたアートチームですね。もともと作品はご存じでしたか?
TaiTan:SIDE COREは前から気になる存在でした。僕は、美術館やギャラリーに行くこと自体が趣味というタイプではないですが、気になるアーティストがいれば、展示の規模や作品の点数など関係なくどこへでも行きます。東京都現代美術館で開催中の『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』(※)も、SIDE COREの過去の作品を 観るのも目的のひとつでした。
※編注:東京都現代美術館で2024年8月3日(土)から11月10日(日)まで開催。高橋龍太郎という一人の精神科医が捉えた現代日本の姿を、時代に対する批評精神あふれる作家115組の代表作とともに辿る展示。

TaiTan:日本橋のアートホテル・BnA_WALLには、SIDE COREが手がけたスイートルームがあって、そこに宿泊した経験もあります。所々コンクリートが剥き出しだったり、床は東京の路面や壁面を3Dスキャニングして切削したという手の込んだタイルが敷き詰められていたり。ホテルというイメージとは結びつかないくらいノイジーで面白い部屋なんですよ。今回も2回目でしたが、じっくり観れてよかったです。

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都内初のSIDE CORE大規模個展、TaiTanが思う見どころ
ー都内では初となるSIDE COREの大規模個展、『コンクリート・プラネット』のTaiTanさんが思う見どころを教えてください。
TaiTan:路上に無数にある看板を大量に収集して切り出し、コラージュしたという新作『東京の通り』(2024)が面白かったです。ちょっとずつデザインがずれた工事用看板をまとめて観ることで、標準規格のピクトグラムが存在しないことに気づき驚きました。

TaiTan:東京都と福島県に設置されたライブカメラの映像から場所を特定し、実際に訪れ、そのカメラのレンズにカラーフィルターを当てて撮影した『巡礼ロードサイド』(2017)も印象に残りました。

TaiTan:ライブカメラに映し出される異なる二つの場所がどのように繋がっているのかという視点に、映像の外への想像を掻き立てられますね。コンセプチュアルな作品でありながら、風景に物理的に「映え」を発生させるアプローチや、北野武監督作品のレンズにフィルターをかけ世界観をを作った話を意識した、という裏話にはユーモアも感じました。
ーTaiTanさんが、今日SIDE COREから受け取ったインスピレーションはどのようなものですか?
TaiTan:展覧会のタイトルにも含まれる「コンクリート」は、都市の象徴で不動のイメージがありますが、SIDE COREはその解釈を新たな視点から揺るがし、小さな物理的アクションを積み重ねて変化させていく。僕もいつも、社会の中で固定されたものや解釈に対して新しい視点から介入したいと思っているので、SIDE COREの秩序の乱し方と崩し方にインスピレーションを受けました。

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都市で不要とされているものにアートで意味を与える
ー今回のSIDE COREの個展は「視点」「行動」「ストーリーテリング」をキーワードに構成されています。この3つはTaiTanさんのクリエイティブにも通ずるような気がしました。
TaiTan:以前テレビ東京の『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を手がけた上出遼平さんと、僕らDos Monosがタッグを組んで、放送が止まる早朝の停波帯をジャックして『蓋』(2021)という10分間のテレビ番組を作ったことがあります。その番組は、テレ東の停波枠と渋谷中の監視カメラをハックするという設定の不可解な映像と一緒に、僕らの当時の新曲を1ヶ月間停波帯に流し続けるというもので。渋谷川暗渠内の地下壕を舞台にDos Monosのパフォーマンスを撮影するなど、東京の地下にフォーカスした番組でした。
―斬新な発想ですよね。
TaiTan:テレビは朝から夜までレギュラー番組が詰まっているにもかかわらず、なぜか放送を止める空白の時間がある。暗渠も、都市が川に蓋をして無理やり地下に閉じ込めた水脈であり、その存在は滅多に知られないけれど、存在自体はしているというまるで幽霊のようです。
誰かが「都会のあるビルの地下では、深夜になると暗渠となった川のせせらぎが聞こえる」と言った。実際にそこに訪れてみると、昼間は街の喧騒に遮られて聞こえないが、夜街が静まると確かにチョロチョロと水が流れるような音がする。実際のところ、これは下水管を流れる排水の音なのかもしれない。ただ真っ黒な地下にジッと佇んでいると、自分の頭の中に自分が入っているような、または寝ているけれど意識だけが起きているような感覚に陥る。すると「これは川の音である」という誰かのストーリーに引き込まれ、見えない地下水脈のとめどない広がりがぼんやりと頭の中に浮かんでくる。
―SIDE CORE(『SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット』のためのテキストより抜粋)
TaiTan:SIDE COREも暗渠についての作品がありますし、今回の個展のステートメントも地下水脈の描写から始まりますよね。僕も暗渠や停波帯のような、そういった都市の中で止まっているものや用無しとされているもの、幽霊的なものに関心があり、介入したいと思ってきました。
