10月31日(土)より東京・ユーロスペース、京都・京都シネマ、大阪・第七藝術劇場ほか全国で順次公開されるドキュメンタリー映画『京都ALS患者嘱託殺人事件』へ寄せられた、8名の著名人によるコメントが公開された。
同作は、2024年に公開された和歌山毒物カレー事件を検証した映画『マミー』で知られる二村真弘監督の最新作。ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う林優里の依頼により、林に薬物を投与して殺害したとして2名の医師が2020年7月に逮捕された事件を題材としている。
一人暮らしをしていた林は、事件当時には眼球しか動かせず、痰吸引や胃ろうからの食事、排せつなど、24時間介護を必要としていた。主犯の大久保愉一と接触したのは、林が「安楽死」を望む言葉をたびたび投稿していたSNS。大久保らは事前報酬として130万円を受け取り、初対面からわずか15分程度で殺害を実行した。捜査では過去の殺人事件への関与も浮上。大久保に対しメディアは「狂った医者」「優生思想の殺人鬼」と非難し、世間もそれに同調した。2025年には嘱託殺人罪などで懲役18年の刑が確定している。
裁判を傍聴した二村監督は、「何かが抜け落ちている」と感じ、事件の取材を開始。被害者の父親、SNSでの林を知る元看護師や難病当事者、医療とケアの専門家たちへの取材を通し、制度の未熟さや生への渇望を浮き彫りにしていく。また、大久保の半生を辿るべく彼の母親やかつての医師仲間を訪ね、独自に供述分析を実施して大阪拘置所へも向かったという。
今回、同作にコメントを寄せたのは、ドキュメンタリー監督・大島新、ノンフィクションライター・最相葉月、ライター・武田砂鉄、映画批評家・常川拓也、早稲田メンタルクリニック院長の精神科医・益田裕介、弁護士・三輪記子、映画評論家・森直人、和歌山カレー事件長男の計8名。それぞれの多様な立場と専門性から、同作が社会に投げかける問いを多面的にあぶり出し、射程の広さと緊張感を示すコメントとなっている。
大島新(ドキュメンタリー監督) コメント
生きる意味とは?自分だったらどうする?この再現どうなの?主治医の立場は?Twitter どんだけ探ったんだ?釜山まで?ここでタイトルかよ?お母さん大丈夫か?医師の倫理とは?供述分析?山本氏はなんなの?ユーミン?復讐……。
ダメだ。頭の中のぐるぐるが止まらない。
観る者を動揺、あるいは覚醒させる映画だ。
最相葉月(ノンフィクションライター) コメント
聴きたかった声が聴こえてきた。生と死の境目に立たされた者にしかわからない言葉があった。なぜ林優里さんは尊厳死ではなく、安楽死を選ばざるをえなかったのか。「復讐」の矛先は私たちに向いている。終末期のケアや死をめぐる対応力「デス・リテラシー」を急ぎ身につけて考えなければならない。議論はそこからだ。
武田砂鉄(ライター) コメント
もし自分だったら、と考えてしまう安直さ。
自分の話じゃないし、と考えない安直さ。
直視せずに済ませていた問いを丁寧に磨き、
こちらに向かって突いてくる。
常川拓也(映画批評家) コメント
前作『マミー』に続いて、『京都ALS患者嘱託殺人事件』も扇情的に報じられた事件を検証可能な根拠や知見に基づいて再調査する試みである。報道に誘発された犯人像ではなく証拠を見て、すでに形成された判断とは別の可能性を検討する倫理的態度の実践であり、それは、他罰的な感情と「正義」を混同し、早計な結論に至ってしまう社会の危険をも浮き彫りにする。問題や不安の原因を特定の他者に帰属させ、理解の及ばない存在として排除する──ますますたやすく類型的な「怪物」を作り出してしまいかねない時代にあって、二村真弘のドキュメンタリーは、私たちは十分にわかっていると思い込んではいなかったかと問い直すのだ。
益田裕介(早稲田メンタルクリニック 院長 精神科医) コメント
彼女の思索は深く、医療者への怒りはもっともだった。しかし、医師免許はあっても、その深さに付き合える才能は周囲になく、手を差し伸べたのは最も的外れな相手だった。才能のない精神科医のひとりとして無念に思う。
三輪記子(弁護士) コメント
「法」とは何か?
「法を守る」とは何か?「法を破る」とは何か?
何のために「法」はあるのか?
「法を守りさえすればそれでいいのか?」
「生きる」とは何か、「死ぬ」とは何か?
難しい問いかもしれないが、誰も逃れられない問いである。
絶望の淵で叫んでも誰にも聞こえなかった声を浮かび上がらせる映画。その声の主はあなたであり私である。
森直人(映画評論家) コメント
二村真弘監督の『マミー』を観た時、メディアによって刷り込まれた「極悪」という林眞須美さんのイメージが、“チャーミングな女性”へと塗り替えられていく面白さを感じた。
今回の“ヒロイン”=林優里さんも「ALS 患者」という情報だけではない姿が見えてくる。エンディングに“ある曲”が流れた時、涙を禁じ得なかった。好景気期の社会を快活に駆け抜け、苛酷な受難にも自由意思で立ち向かった、彼女の数奇な人生の物語にふさわしいロマンティックなテーマ曲だと思えたからだ。
和歌山カレー事件 長男 コメント
報道からは見えてこなかった本人たちのやりとりに触れ、命に対する漠然とした正しさや倫理観、死生観が揺らぎ、脳が錯覚するような映像体験でした。
希死念慮、当事者にしかわからない苦しみや命の選択。
事件を通じて、法治国家における命のあり方を自分自身で考えなければならないと思った。
映画『京都ALS患者嘱託殺人事件』


10月31日(土)より〈東京〉ユーロスペース、〈京都〉京都シネマ、〈大阪〉第七藝術劇場ほか全国順次公開
声の出演:田畑智子
撮影:松村敏行、佐藤洋祐
照明:尾山隆之
カラーグレーディング・オンライン編集:織山臨太郎
音響効果:増子彰
整音:富永憲一
配給:東風
プロデューサー:⽯川朋⼦
制作:digTV
製作:『京都 ALS 患者嘱託殺人事件』製作委員会
監督:⼆村真弘
2026 年|日本|98 分|DCP|ドキュメンタリー
<イントロダクション>
死の直前まで続いた二人のやり取り。なぜ一線を越えたのか?
2020年7月23日、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う林優里さん(当時51歳)から依頼され薬物を投与し殺害したとして、二人の医師が逮捕された。一人暮らしの彼女は事件当時、眼球しか動かせず、痰吸引や胃ろうからの食事、排せつなど24時間介護が必要だった。主犯の大久保愉一と接触したのは、彼女が“安楽死”を望む言葉を度々投稿していたSNS。大久保らは事前に報酬として130万円を受け取り、初対面からわずか15分程度で殺害を実行した。さらに捜査で過去の殺人事件への関与も浮上。メディアは大久保の過去のブログなどから「ドクター・キリコ」への憧れや生命軽視の姿勢を大々的に報じ、〈狂った医者〉〈優生思想の殺人鬼〉と苛烈に非難。世間もまたそれに同調し責め立てた。そして25年、嘱託殺人罪などで懲役18年の刑が確定した。救命が第一義とされる医師の男は、なぜ一線を越え彼女を手にかけたのか?
監督は、「和歌山毒物カレー事件」を検証した『マミー』(24)で自らの闇をも曝け出し鮮烈な印象を残した二村真弘。優里さんの父親、SNS上での彼女を知る元看護師や難病当事者、医療とケアの専門家たちへの取材を重ね、彼女人生を掘り下げていく。そのなかで見えてきた制度の未熟さ。明らかになる外界から完全に遮断されるかもしれない恐怖、そして、身体が訴え続ける生への渇望。一方で二村は、大久保の半生を辿るべく、母親やかつての医師仲間を訪ねる。さらに供述分析を独自に実施し、大久保が収監される大阪拘置所へ――。
「死にたい」、その言葉の奥にあるもの。ひとりの女性の声が受け止められない社会の空白地帯で、死の直前まで続いた二人だけのやり取り。私たちが目を背け続けている何かが、未公開のDMとそれぞれが語る“事実”から浮かび上がってくる。
(C)『京都ALS患者嘱託殺人事件』製作委員会