毎週水曜よる10時から放送中のテレビドラマ『全領域異常解決室』(フジテレビ系)。
藤原竜也が初めてフジテレビ制作の連続ドラマで主演を務めるということで放送前から話題となったが、放送後も、1話完結の本格ミステリードラマとして面白いだけでなく、登場人物の名前における日本神話的なモチーフや、各話で描かれる超常現象の描写も考察に考察を呼び、ドラマ好きだけでなく、幅広い視聴者から人気となっている。
脚本家の黒岩勉が「この物語は7話から始まります」と語る本作について、第6話までを振り返りながら、その異常性を紐解いてみたい。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
INDEX
日本神話×オカルトにおける『ダンダダン』との同時代性

「わからないことがあっても良いじゃないですか。全て知ろうとするなんて人間の傲慢です」
第3話で興玉雅(藤原竜也)が雨野小夢(広瀬アリス)に対して言う。なるほど、わからないドラマだ。なぜ毎話、解き明かされない謎が残されるのか。なぜ登場人物たちが古式ゆかしい名前になっているのか。そもそも彼らは「人」なのか……。そんな異常な状況は、第5話終了後の次週予告における興玉による一言によって晴れる。「僕も神です」。
ドラマが始まった段階で(早い人は放送前から)、既にドラマ好きやオカルト好きの間では、登場人物たちの名前が日本における「神」になぞらえたものであると話題になっていた。「興玉雅」「雨野小夢」「直毘吉道」「豊玉妃花」「芹田正彦」「宇喜之民生」という特徴的な名前だから当然であるとも言えるだろう。そして、第1話の冒頭から「ヒルコ(蛭子)」などという言葉が繰り返し発される。「全領域異常解決室」、通称「ゼンケツ」の本部は「稲荷山神社」の奥にあるし、各話で扱われるモチーフは「神隠し」「キツネツキ」「タイムホール」「縊鬼(いつき)」「千里眼」「犬神」そして「八百比丘尼」。『古事記』『日本書紀』など日本の神話で描かれてきた要素と、後年に作られるようになったオカルト作品の要素が入り交じるのが現代的で興味深い。
奇しくも、『全領域異常解決室』の放送が始まった2024年10月にはオカルト好きの少年を主人公としたマンガ原作のアニメ『ダンダダン』(TBS系)も放送開始となり、番組が配信されている海外でも話題となっている。『ダンダダン』もまた、オカルト要素に日本の神話要素を交えた作品であり、もう一人の女性主人公の実家には鳥居が立っている。
INDEX
新海誠監督作『すずめの戸締まり』でもモチーフとして使われた日本神話

そもそもオカルトは、浮き沈みはあるとは言え、映画において人気ジャンルの一つではある。霊的な存在がドラマの中で描かれることも少なくない。しかし、地上波のドラマ、それも多くの人が目にする時間帯のドラマで、ここまでオカルト要素を全面に出すというのは画期的とも言えるだろう。深夜帯だと『何かおかしい』(テレビ東京系)、『恐怖新聞』(東海テレビ)などの例もあるが、それでも、ここまでオカルトに関わる固有名詞を絡めているのは珍しい。
日本神話をモチーフとした作品で近年、話題になったのは新海誠監督『すずめの戸締まり』(2022年)。主人公の岩戸鈴芽や宗像草太などの名前にも、「天岩戸(あめのいわと)」「天宇受売(あめのうずめ)」「宗像三女神」などの日本神話のモチーフが用いられているし、そこで描かれる「戸締まり」という行為は本作で行われる「事戸渡し(ことどわたし)」と共通する由来があるように思える。そもそも新海誠監督は、『君の名は。』(2016年)以降、『天気の子』(2019年)、『すずめの戸締まり』と、いずれの作品にも日本神話のモチーフを込め続けている。彼の作品が世界的にヒットしていることと、そうした神話モチーフの活用は無関係ではないだろう。
最近では、アニメ化もされた『天穂のサクナヒメ』などのゲームにおいても日本神話がモチーフとして扱われている。海外ドラマを見ても、欧米の作品では、当たり前に北欧神話やギリシャ神話などのモチーフが扱われている。『マイティ・ソー』(2011年)シリーズのように神そのものを登場人物とした作品もある。どちらかと言うと信仰心が薄いとされ、神道より仏教が身近な日本においては、そこまで作品に自国に纏わる神話のモチーフが使われてこなかったのかもしれない。