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作品が届いても、作家として差し出せるものがなければ誠実ではない
ー印象に残っているのが、『縋ってんじゃねえよ』で沙智が大家族もののVTRの編集をしている時に、高校生の時の自分にかけてあげたかった言葉を発見する場面です。上村さんご自身は過去の自分に対してかけてあげたい言葉はありますか?
上村:過去の自分に言ってあげたいことは、『縋ってんじゃねえよ』で書かなければならないと思っていたことと重なるんですよ。いくつかあるんですけど、その中の1つは葉太くんみたいな、高校時代の沙智と似ている生きづらさを抱えている子に対して、どういう言葉をかけてあげるかということでした。
―その言葉が、「見てるよ」ということだったんですね。
上村:はい。そのシーンを書いた時は、高校生だった時の私に声をかけるとしたら何と言うかという問いに答える形になるので、すごく恥ずかしかったです。あとは、「見てるよ」という言葉は、高校時代の沙智に対して誠実なのか? みたいなことも考えました。

上村:正しい大人や自分を救おうとする佐藤先生みたいな存在に対して反発していた沙智が、歳を重ねていく中で、自分が大人側になった時に何ができるのか、というのはすごく難しい。でも、私もそこには向かわねばならなかったんです。この小説をそのままポンって投げて、沙智と同じような生きづらさを抱えている人に届いたとしても、私が差し出せるものが何もなかったら、それは誠実ではないので。
自分の中で何らかの誠実さを持って『縋ってんじゃねえよ』を書かねばならぬと思って、でもだからといって、軽々しく「あなたのことを救うよ」みたいなことを言うわけにはいかないし……沙智は絶対そんなことは言わないだろう、ということを考えて、「見てるよ」という言葉になりました。
ー「見てるよ」というのは、短いですが、それだけで絶対に伝わる言葉だなと思いました。最後になりますが、今後、こういう作品を書いていきたいというような、展望や構想はありますか?
上村:次の作品の告知をしてもいいですか? 7月16日(水)に、『ほくほくおいも党』という小説が出ます! 小学館さんの『STORY BOX』で連載していた小説なんですが、活動家二世と呼ばれる、左翼政党員のお父さんを持つ娘の話を書いています。
ー『救われてんじゃねえよ』を読んで、世の中のステレオタイプな見方に対して、アンチテーゼが含まれていると感じていたので、次回作も手に取るのを楽しみにしています。本日はありがとうございました。
上村裕香『救われてんじゃねえよ』

著者:上村裕香
出版社:新潮社
価格:1,540円(税込)
特設ページはこちら:
https://www.shinchosha.co.jp/special/sukuware/