INDEX
登場人物をキャラクター化せず、多面的に描く
ー沙智と両親との距離感についても伺いたいのですが、沙智は母親を介護する中で、本人に直接不満を漏らしたりもしていましたよね。ケアをする相手に対して不満があっても、飲み込んでしまうことも多いと思ったので、本音を漏らせるような関係性が絶妙だなと感じました。
上村:書いている時は、関係性についてはあまり意識していなくて、沙智はこういう感じで親と接するよね、みたいなことを率直に書いていました。ただ、ゲラをチェックしている時に、『泣いてんじゃねえよ』のラストを変えたんです。
最初は、母親が「さっちゃんも手伝ってよお」と言っているのに対して、沙智は「お父さんに頼んだらいいじゃん」みたいなことを言っていたんです。でも、母親は母親で生きていて、ケアされる側だけど、ケアされるだけの人間というわけではなくて。そこの構造を固定化してしまったら、母親は人間になってくれないな、というのを考えた結果、沙智に「そのへんのタオルで自分で拭いたら?」と言わせることにしました。そうすることで、母親のことを1人の自立した人間として描けるなと思ったんです。
ー「そのへんのタオルで自分で拭いたら?」と言うことは、人によっては非情だと思うかもしれないけれど、実際は人として尊重しているなというのは、読んでいて感じました。沙智の父親にも焦点を当てたいのですが、作品を読んでいると、「お父さんいいとこあるじゃん!」と思った直後に、急にひどい面が出てきたりしますよね。そこも、人間を描くというところに関係しているのかなと思ったのですが。
上村:ひどいだけの人って、あまりいないと思っていて。父親も、ざっくり見るとひどい人だけど、道に迷った母を探しに行ったりするし、いいところもあるんです。人間なので、いい面も悪い面もあるから、キャラクター的にはならないようにしています。
ーキャラクター的?
上村:沙智は「ヤングケアラーの女の子」、父親は「散財癖のあるお父さん」みたいに要素を羅列しちゃうと、キャラクターになってしまうんです。なので、要素の羅列をするだけでは見えてこない、現実的な人間としての生活を書きたいなと考えています。小説って、人間を描くものなので。

ー上村さんは普段人と関わる時に、この人のいろんな面を見たいな、とか思われたりするんですか?
上村:そうですね、すごく思っています。唐突に「どういう時に怒りますか?」みたいな質問をして、戸惑われたりしています(笑)。