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創作の起点は「怒り」の感情
ー確かに『クワイエットルームにようこそ』は、悲惨なのに笑えるシーンが多いですよね。影響を受けていると聞いて、すごく腑に落ちました。ちなみに、上村さんが小説を書く時は、どういう要素を起点にして書かれていますか?
上村:日々自分が生きている中で、「めっちゃムカつく」みたいな、怒りを起点にしていることが多いと思います。
ーどういうことに怒りを感じますか?
上村:『泣いてんじゃねえよ』を書いていた時は、世の中に存在している「ヤングケアラー小説」みたいなものを読めば読むほど、「そんなに簡単じゃねえんだよ」って怒っていましたね。あとは、『救われてんじゃねえよ』について、「実体験ですか?」と聞かれると、「実体験ではあるんですけど、全部ではなくて」みたいに答えることが多いんですよ。ケアの体験を語ることは、ナラティブアプローチ的なケアになるとは思うんですが、とても個人的なことなので、それって正しいの? みたいに考えることもあって。そういった、日々自分がもにょっと思ったり考えたりしていることを小説にしています。

ー私も先程、「実体験なんですか?」とお聞きしたんですが、実は、そういうとても個人の内的なものを聞いてしまうのはどうなんだろう、と悩んでいた部分がありました……。
上村:でも、この物語は私の実体験をもとにしていた部分があるからこそ、読者の方が「実は私もそういう体験があって……」と語ってくれたりするので、いい面もあると思っています。
ー上村さんが開示しているからこそ、近しい境遇の人たちにしっかりと物語が届き、開示してくれたりするんですね。それをお聞きすると、沙智が自分の企画した『ヤングケアラー王』というバラエティ番組を作りたいと思っているところと、上村さんが小説を書いているということは、構造的には重なる部分もあるのかなと思ったのですが、どのように小説が届くといいなと思っていますか?
上村:小説は綺麗事ばかり書かなくていいというか、漂白化された世界の中ではこぼれ落ちてしまう部分を書ける媒体なので、例えばヤングケアラーのドキュメンタリーとかでは表現できないリアルさを届けられたと思っています。
不謹慎だと思われるかもしれないですが、沙智は「ヤングケアラー」というものを笑い飛ばしてくれる恭介くんみたいな存在に救われている部分もあって、それが『ヤングケアラー王』を作りたいと思っているところにも繋がっているんですよね。沙智が『ヤングケアラー王』を作りたがっているのは、マジでバカで好き(笑)。なので、「最近あんまり笑ってなかったけど、この小説を読んで笑った」みたいな感想を聞くと、めっちゃ嬉しいです。
ー笑ってもらいたいという思いが強いですか?
上村:そうですね。「笑った」みたいなのって、何個かに分類されると思っていて。「最近笑ってなかったけど、笑った」と言ってくれた人は、沙智と同じような生きづらさを感じているんじゃないかと思うんです。本を読んでいる中で沙智が笑っているのに触れて、それと同じ状況に自分を重ねて笑うことで、沙智が小島よしおのネタを見た時と同じ感じで、ふっと心が軽くなるというか。
その一方で、「笑っていいのかなと思いながら笑った」と言われることもあります。特に、沙智の親世代ぐらいの人は、今までこういう視点で介護する女の子の話に触れたことがないからこそ、沙智は笑っているけど、当事者と遠い自分が沙智のように笑っていいのか? と感じるみたいで。
でも、「笑っていいのか?」と思わせてる時点で、この物語のメッセージは伝わっていると思っています。悩むということは、本心では笑いたいわけじゃないですか。
