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ゆうらん船インタビュー 大人の季節へ足を踏み入れ、新しい一歩を踏み出した最新作

2025.8.4

ゆうらん船『MY CHEMICAL ROMANCE』

#PR #MUSIC

「もう、このままでいることはできない」――そんな感覚が漂っている。ときに失意に溺れ、ときに記憶をお守りのように握り締めながら、それでも歩き出さなければいけない時がもう目の前に迫っていることを、静かに感じ取っている。ゆうらん船の3rdアルバムとなる新作『MY CHEMICAL ROMANCE』には、そんなフィーリングがパッケージングされている。

もしかしたら、このアルバムは、ゆうらん船というバンドが「大人」と呼ばれる季節へ足を踏み入れ、新しい世界に歩き出そうとする瞬間の、芸術的なドキュメントと言えるのかもしれない。これまで内村イタル(Vo / Gt)という、魅力的でありながら捉えどころのないメインソングライターを中心に、彼が作る曲をバンド一丸となって形作ってきた、ゆうらん船。だが、本作『MY CHEMICAL ROMANCE』において、バンドはその制作構造を変えた。今作ではメンバーの砂井慧(Dr)と永井秀和(Pf)も作曲者として加わり、本村拓磨(Ba)が前面的にミックスも手掛けている。作曲が分業になったことの発端には内村のスランプがあったようだが、内村が陥ったのは、いわゆる「バンドのフロントマンの苦悩」ともまた違うようで、実際、彼は自分の心持ちをこう言葉にしている――「なんとかなるから、大丈夫」。

内村はまたこうも言っている。「ゆうらん船の“場所”としての在り方が、どんどんはっきりしてきている」と。一体、ゆうらん船に何が起こったのか。そしてなぜ『MY CHEMICAL ROMANCE』は、こんなにも多くの不可思議さと魅惑を含む傑作になったのか。その謎を解くべく、内村と本村のふたりに話を聞いた。見えてきたのは、ゆうらん船というバンドの健全で冷静な生命力。そして、人と人が共に作り、生きることへの大きなヒントだった。

「ずっと、ゆうらん船は自分の中では“安心できる場所”という感じなんですよね」(本村)

―新作アルバム『MY CHEMICAL ROMANCE』は、今までのように内村さん作の楽曲をバンドでアレンジするだけでなく、砂井さんと永井さんが作曲した曲や、本村さんがミックスを手掛けられた曲があり、よりバンドが一体となって作り上げた作品なんですよね。特に今作のサウンドを聴く限り、ミックスもほとんど作曲に近い行為だと思うんです。

本村:そうですね。今の時代、アレンジと作曲の境目、あるいはアレンジとミックスの境目も年々、融解しているのは感じていて。そういう意味では、自分にとってのミックスも、作曲ほどではなくても、それに近しい感覚はありますね。

ゆうらん船(ゆうらんせん)
ロック、フォーク、カントリーなどを独自に解釈し、ストレンジな音楽を奏でるシンガーソングライター・内村イタル(Vo / Gt)を中心に、伊藤里文(Key)、永井秀和(Pf)、本村拓磨(Ba)、砂井慧(Ds)の5人で活動するバンド。多様なグルーヴが溶け合うことで、どこか懐かしくも新しい、スリリングなバンドサウンドを響かせている。

―バンドとして、こうした変化を求めたのは何故なのでしょうか?

内村:前作『MY REVOLUTION』(2022年)の制作が終わった段階から、次のアルバムに向けて曲を作り始めようとはしていたんです。でも、僕がなかなか新しい曲を作れなくて。アルバム制作のペースに追いつけなかったり、アルバムを作ろうにも曲が足りなかったりしたんです。そこから自然と他のメンバーが曲を作るようになったんですよね。

本村:「イタルが難産そうだな」となったところから、砂井くんと永井くんが作曲に加わったんですけど、そもそも、このふたりは各々の活動で作曲もやってきているんですよ。「ゆうらん船は内村イタルが曲を作るバンド」というのは、僕らの中になんとなくの前提としてはあったんですけど、「よく考えたら他のメンバーも作れるじゃん」となった。それはすごく自然な流れだったんですよね。でも振り返れば、もう3枚目のアルバムだし、バンドとしてなにかしら変化を求めていたんだろうなって、今になってみると感じますね。

内村:そうだね。

永井が作曲を担当した“Departure”
左から内村イタル(Vo / Gt)、本村拓磨(Ba)

―曲の作り方が変化したこと、おふたりにとって、ゆうらん船というバンドの存在意義に変化はあったと思いますか?

本村:その部分は、僕の中では全然変わっていないです。ずっと、ゆうらん船は「安定していて安心できる場所」という感じなんですよね。ゆうらん船って、僕の中では気持ちのバロメーターになっている部分もあるんです。もし、ゆうらん船のことで気持ちが沈んでいたとして、それはバンドの調子が悪いんじゃなくて、自分の調子が悪いんじゃないかと疑う。どんなに調子が悪いときでも、「ゆうらん船の動き方が悪い」とはあまり考えない…。そのくらいの信頼がこのバンドにはあるんですよね。

内村:ゆうらん船って、音楽面でも5人それぞれ趣味がバラバラだし、みんなフラットというか。持っている世界が全然違う人たちの集まりだから、変に伝播しないんだよね。

本村:そう、みんなが各々の「普通」の状態をずっとキープしている。誰かの気分が落ちているからと言って、それに当てられて別の人も落ちる、みたいなことがあまり起こらないんです。5人それぞれが、自分の速度や温度を保ったままでいられている、というか。そういう意味ではすごく稀有なコミュニティだと思うし、実際、友達のバンドから「ゆうらん船の平熱感みたいなものって、どうやって出すんですか?」って、たまに聞かれます。でも、「どうやってもなにもなあ……」って(笑)。答えようがないんですよ。

内村:今回は砂井くんがアルバム全体の枠組みを作ってくれたり、曲の並びやテーマ的な部分も考えてくれたんですけど、そうやってバンドを俯瞰して見ることのできる砂井くんがいたり、本村くんはミックスをしたり、僕は歌詞を考えたり、各々持ち場がある状態で。そうやって一人ひとりが独立した存在でいられる関係性が、ゆうらん船にはあるんですよね。そんなゆうらん船の「場所」としての在り方が、作品を経る毎にどんどんとハッキリしている気がします。それゆえに、お互いの信頼感もどんどん増しているし、棲み分けができて、安心して任せられるようにもなっている気がしますね。

砂井が作曲を担当した“Carry Me To Heaven (Accelerated)”

年齢を重ねて広がった「きっと大丈夫!」という気持ち

―今回の『MY CHEMICAL ROMANCE』は、皆さんが30代に入られてから作った最初のアルバムということになると思うんですけど、そうした年齢の変化も、「場所」としてのバンドの姿がどんどんと明確化していることに関係していると思いますか?

本村:それはすごくあると思います。たとえば今回、砂井くんがスプレッドシートを作ってくれて、曲の進行具合を可視化してくれたんですよ。彼は大学を出てから一般企業で働いているんですけど、それゆえに社会人スキルが高いというか。私みたいな丸出しのバンドマンからすると、「そんなことできるんだ!」ということをやってくれる(笑)。それは年齢や重ねてきた経験が、バンドに生きているということですよね。そういう意味で年齢の変化は感じていますね。もっと若い頃だったら、目の前のことにいっぱいいっぱいで、アルバム制作をひとつのプロジェクトとして進める感覚もなかったと思う。

―内村さんは、バンド活動に表れている年齢の変化をどう感じていますか?

内村:僕は、「なんとかなる!」って、最近思ってるかもしれない(笑)。

本村:ははは(笑)。

内村:「なんとかなるから、大丈夫!」って。

本村:たしかに、今回イタルはだいぶ大きく構えてたよね。

内村:割と無責任だったかもしれない(笑)。「自分は曲を作れないけど、メンバーが作ってくれるから大丈夫。その分、歌詞は頑張ろう」とか。年齢を重ねたことで、楽観的になっている感じがする。よくないのかな? これって。

本村:いや、いいと思います。

内村:もちろん、みんながいてこそ、ですけどね。「ゆうらん船だったら、まあ大丈夫だろう」って。「大きく構えるのも大事だよね」というのは、年齢を重ねたからこそ思うことなのかもしれないです。「今までも、なんとかなってきたしな」と思える。いっちゃん(伊藤里文 / Key)が前に、「結局、バンドは全員で集まったときに100%であればよくて、5人で割ればひとり20%だから、大丈夫だよ」って言っていたんですよ。

本村:そんなこと言ってたんだ。砂井くんと伊藤さんは、顕著にチームワークが上手くなったよね。スプレッドシートも作れるし(笑)。

―「なんとかなる」と思えている状態って、すごくいい精神状態ですよね。でも、年齢や経験を重ねることは同時に、嫌な予測も立ちやすくなることでもあるとは思うんですけど。

内村:それで言うと、いっちゃんの話を聞いたり、砂井くんの制作の進め方を見たりすると、「こうやって残り超えるんだな」と思うんです。「なんとかの仕方」を知っていくというか。

本村:あと具体的な話で言うと、たとえば体調を崩してレコーディングに行けなさそうな日でも、前作までだったら、無理やりでもレコーディングに行っていたんですよ。でも最近は、素直に「今日は休ませてください」と言えるようになった。そうやって「なんとかなる」の範囲が年齢と共に広がっているんだと思うんですよね。

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