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福田和子をめぐる個人的な逡巡
私が福田和子の物語に惹かれる一因が、彼女と息子との関係である。個人的な話だが、父母の離婚後、しばらくは「年の離れた弟」という立場で、嘘をつく母親を目の前にちょっとした共犯者を気取っていた中学時代の自分を、つい重ねてしまう。『私の見た世界』ではほぼオミットされているが、それもまた興味深い。
あと、妻の実家が福井市にあるので、帰省の際に、彼女が長く滞在していたホテルに泊まってみたり、逮捕の現場となったおでん屋も何度か前を通ったりした。そのたび、自分だったら通報するかなあ、と考えた。今もずっと考えてしまう。ドラマや映画に接する時間が増えれば増えるほど、彼女の逃亡生活を疑似体験する時間が増えるほど、自然と深いシンパシーを覚えてしまう。そして、こうして文章を書く段になって、いや、人を殺してるんだぞ、と考え直す。

まだまだ、福田和子の物語は終わることがないだろう。これから先、何度も何度もこの堂々巡りを繰り返していくのだろう。いつか、創作の世界で福田和子が逃げおおせる日は来るのだろうか。いや、そもそも、みんな、なんで、こんなに福田和子が好きなの?
『私の見た世界』

2025年7月26日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督・脚本・編集・主演:石田えり
製作・配給:トライアングルCプロジェクト
配給協力・宣伝:Playtime
© 2025 Triangle C Project
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