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バブルはいかにとんでもない時代だったか
―創作の源泉はどういったところにあるのでしょうか?
柚木:私は天才タイプではないので、いろんな人に話を聞いたり資料を読み込んだりしますね。たとえばバブル期を生きてた女性で最初の総合職になった人に話を聞くと、みんな覚えていることや景色みたいなものがあって。バブルを楽しんだ人、バブルが嫌だった人、タイプが違ういろんな人がいるとわかるんです。当時の雑誌の読者投稿を読むと、いかにとんでもない時代だったかみたいなこともわかるし。
堤:「とらばーゆ」とかね(笑)。

柚木:それから配信されていない昔のドラマをどうにかして見たり、神保町でその時代の雑誌を漁ったり、結構いろいろ調べるんですよね。いまはインターネットでなんでもわかっちゃうんですけど、大宅文庫とか、意外と紙資料はネタの宝庫だと思いますね。あと作家になってから、いろんな職業の人にアクセスできるようになりました。
私は昭和56年生まれなんですけど、40超えると70代ぐらいの人の感覚と結構近いというか。監督もお若いし。私は携帯がない時代に少女だったし、40代は上の世代とも下の世代ともしゃべれるようになるし、どっちともチャンネルが合うのはすごい強みだと思います。80代~90代ぐらいの人だと、戦後から今現在タブレットで入力するまでが一人の人間の中で一つの線で繋がってるのは、すごいおもしろいなと思っています。
堤:最近、それすごい思います。その間を埋めてるものはなんだろうと思って、それこそ村上春樹さんとか、小説の題材を探しますよね。
―そういえば『風の歌を聴け』から読み直しているそうですね。当時リアルタイムで読まれていた、過ごしていた時とまた印象は違いますか? 私は柚木さんと同世代で、「キレる17歳世代」「氷河期世代」「失われた30年」とさんざんな言われようで、バブル華やかなりし上の世代に「チクショー!」という気持ちもあり(笑)。
堤:20代に読んで感動したもので、今読んでも感動できるものはすごいなと改めて思います。やっぱりバブル前、バブル中、バブル後で人生が大きく分かれてくるんですけどね。僕にとって「はっぴいえんど」は神だし、小説や音楽や映画や、その時々に象徴するものがあるから。僕は昭和30年生まれなので、洗濯機は手回しだったし、冷蔵庫は木の箱だったし、トイレットペーパーはなかったし。それが一人の人間として今の今までずっと続いてるわけだから、すごいことだなと。
柚木:それってすごくないですか。自分の中で受け止めきれなくないですかね。ファミレスでタブレット入力するシニアの方を見るたび、すごいなと思って。私は40代ですけどレジとかでもすごい戸惑うし、最近はキャッシュレスのところが多くなってきて、「え、現金ダメ!?」みたいな。身を切られるように辛い時もいっぱいあるので……。
堤:やらなくてよかったことをやらなくてはならないっていうのはすごい辛いんですよ。税金払うのと同じくらい辛い! キャッシュレスといえば、中目黒の立ち食いそば屋で「現金お断りします」って書いてあって、370円くらいいいじゃんって思いました(笑)。
とにかく先生には、昭和・平成・令和を貫く女性像の決定版みたいな小説を今後ぜひ書いていただきたいです。
柚木:ありがとうございます。書けるといいな。