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柚木麻子×堤幸彦監督対談『私にふさわしいホテル』から日本のジェンダーを考える

2024.12.26

#MOVIE

男性としては理解できないところに本当のおもしろみがある

柚木:その気骨というか反骨精神を『私にふさわしいホテル』でも削がないで撮っていただいたのは、監督の素晴らしい女性観によるものだと思いましたね。私、いまは戦後の保育運動に興味があります。

堤:先生がそういう題材に興味があるのはとても共感できます。僕自身も来年70になるんですけど、70代はもうね、ぶち上げますよ。やっぱり悔いを残さずで、思いの丈を映画にするっていうのをやりたくて。

それでいうと先生の『その手をにぎりたい』は最高ですよ、素晴らしい。バブルの10年の物語で、女性の生き方という意味で『私にふさわしいホテル』にも通じてますよ。青子と加代子、名前は違えど同じなにかを持っていて、男性としては理解できないところに本当のおもしろみがあるんです。それが寿司に体現されていて、寿司が悲しくも楽しくも憧れでもあるっていう、何変化もしてるんですよね。

柚木:『その手をにぎりたい』も撮ってほしいです(笑)。

堤:何時間の作品になってもいいから、まんま撮りたいですね。女性としての生き方も、日本が通ってきたバブルのいい面も悪い面も、この物語に全部凝縮してるんですよ。今はバブルは悪いとしか判断されていないけど、それも一面的で思考停止だと思うんですよ。現場にいた人間としては辛く苦しい面もあった半面、いい面もあったわけで。たとえば中学で勉強できなくて落ちこぼれになった時の気分みたいなものを、もう一回大人になって味わうのかみたいなこともあるわけですよ。でもそれが何十年も前の話になって、今にどう生かされてるかっていうと、なんにも生かされていないっていう、またその絶妙な時代のマジックみたいなものもおもしろい。そうしたことを全部お書きになってるんで、撮れたら幸せですね。

ちなみに僕が『私にふさわしいホテル』の映画の設定をあえて昭和~平成初期にしたのは、もちろん万年筆や原稿用紙、黒電話で受賞発表を待つという昭和の大作家の始まりというところにこだわっていたこともあるんですが、まさに先生の描かれる世界観がその時代に最も強く開花すると思ったからなんです。

大作家には大作家の、編集者には編集者の、背負って立つものや悲しみがあるわけですよね。それを馬鹿馬鹿しい、ぶち壊すって言ってる加代子がおもしろいわけで。

―そのおもしろさをとくにこのシーンで出せたというのはありますか?

堤:いっぱいあるけど、加代子と遠藤先輩がふたりで“め組の人”を歌って和気あいあいとなって、焼きそばガツガツ食べてるところに電話が鳴る。それでふざけるなって立ち上がってカラオケのステージに上がって、ダーツの矢を向けて宣戦布告する。そこが好きです。あと小説家の話なんだけど、書いた文面が出てこないというのもおもしろいですよね。

大学の先輩後輩でもあり、ビジネスパートナーでもある加代子と遠藤先輩。時に共闘しながら、時に反目しながら、夢を叶えていく / (C)2012柚木麻子/新潮社 (C)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会

柚木:加代子はジャーナリズム精神がかなり高いタイプで、視野も広いと思う。山崎豊子さんと書き方がものすごく似ていると思います。私と似てるところもあるけど、加代子のほうが行動力があるかもしれませんね。私は考えてるだけでやらないので(笑)。

堤:先生の世事に対する独特の切り口はすごいですよ。ドキュメンタリストであると同時に叙情的な風景描写がものすごくお上手で。日本中が浮かれてたのが急に不動産中心にアウトになった時の東京の描写とか、あんまり小説読んで泣くってことないんですけど、行間だけで泣けてくる。

柚木:ありがとうございます、嬉しいです。私、いまイギリスで結構ちやほやされて天狗になっているので(笑)、加代子と東十条のイギリス話も見たいですね。そこでは立場が逆転していて、東十条がロシアに渡ってどん底から這い上がってくるとか。

堤:そこで社会派の名を馳せる。ソルジェニーツィンみたいな(笑)。

―日本ではテーマ性が強かったり切り口が鋭かったりすると「社会派」でくくられがちなので、その風刺も込めて。

柚木:きっと加代子と東十条はトムとジェリーみたいにずっと関係が続いていくと思うので、想像がふくらみます。

加代子が機転を利かせて夢を掴んでいくストーリーである一方、天敵・東十条との世代も境遇も超えた友情の物語でもある / (C)2012柚木麻子/新潮社 (C)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会

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