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トークイベントを終えて:志村正彦が繋げた縁
山口は台本もお構いなし、終始スリリングな展開にヒヤヒヤするものの、古舘はうまくかわしていたり、トーク後に旅の道中でよく口ずさんでいたという“People Get Ready”をしっかり弾き語ったりしているあたり、古舘のほうが一枚上手かもと思ってしまった。気づけば、大いに励まされ奮い立たされるトークイベントだった。

筆者がこのイベントを記録したいと思ったのは、2009年に急逝したフジファブリックのフロントマン・志村正彦がきっかけだった。
2025年2月、山口は自身がナビゲーターを務めるNHK-FM『Night Fishing Radio』で、フジファブリックのセカンドアルバム『FAB FOX』(2005年)を特集していた。フジファブリックがデビュー20周年を迎え活動休止するこのタイミングで、志村存命期の作品を取り上げたミュージシャンはおそらく山口だけだったから、私はいたく感動した。その直後、鬱との格闘・共生を経て完成させたサカナクション3年ぶりの新曲“怪獣”は、彼らのドキュメントとしてもNHKアニメ『チ。 ―地球の運動について―』の主題歌としても完璧で、得も言われぬ凄みを見た。
そこから情報収集していたら、3月に古舘佑太郎とトークするというではないか。ふたりの関係性を知る由もなく、自分にとってはThe SALOVERSのフロントマン。当時、「TOKYO NEW WAVE 2010」のうねりの中にいてライブハウスが家のようだった身としても、活きのいい東京のロックバンドが出てきたなとワクワクしたものだ。
トーク中に山口が触れた“夏の夜”はもちろん、『C’mon Dresden.』なんていま聴いても街中を全力疾走したくなるくらい熱い気持ちにさせてくれる。そして、『文学のススメ』収録のフジファブリック“茜色の夕日”のカバー。東京の青年が歌う、まるで初めて見たかのような「東京の空の星」。ぶっきらぼうだが優しく愛のあるカバーで、数あるカバーの中で一番好きだ。

そういえば古舘は、“カレー三昧”の中で<嗚呼 やる気も自信も失って / 今 限界を感じたとしても / 自分探しとかで旅に出るなよ / だって印度で見つけた己の姿は / きっと日本の暮らしに向いていないから>と歌っていた。「旅では人は変わらない」。その時からもう答えは出ていたのかもしれない。
そんなことを思いながら、ふたりに幸あれと願わずにはいられない春の夜だった。
古舘佑太郎『カトマンズに飛ばされて 旅嫌いな僕のアジア10カ国激闘日記』

発売日:2025年3月12日
定価:1,980円
詳細:https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344044159/
サカナクション『怪獣』

NHKアニメ『チ。 ―地球の運動について―』主題歌
デジタル配信中!
https://jvcmusic.lnk.to/sakanaction_kaiju
『SAKANAQUARIUM 2025 “怪獣”』追加公演決定!
https://cf.sakanaction.jp/feature/tour2025_arena