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アウトローな首相、ウィンストン・チャーチル
先に述べたように、本作は危険なミッションに挑むアウトロー7人の物語でもあるのだが、もうひとり似たようなポジションに置かれているキャラクターがいる。ウィンストン・チャーチルその人だ。一国の首相を法規外キャラ、すなわちアウトローと呼ぶことには違和感があるが、この時点での彼を、リッチーは英国の政治的方針からはみ出した者として描いている。
当時の陸海空軍それぞれのトップの共通した見解は、イギリスはナチスと宥和するべきである、というものだった。ナチスの空襲はひっきりなしに起こり、長引く戦争に英国民は疲れている。そのうえヨーロッパの多くの国はナチスの同盟国、もしくは支配国となっていた。この現実を踏まえれば、英国も平和的な着地を見出すべきという声が上がるのは当然だし、政権を狙う政敵もそこを突いてくる。それでもチャーチルは徹底抗戦するしかないと信じていた。ヒトラーと宥和したら、いずれはイギリスもファシズムに侵食される。それは断固として防がねばならないし、そのためには米国の協力が要るが現状では不可能に近い。政治の中心ではみ出し者となった彼は、7人のアウトローに最後の望みを託したのだ。ちなみに、この「超法規」チャーチルを演じたのは、ダニエル・クレイグ版『007』シリーズでMI6の幕僚長ビル・タナー役で知られるロリー・キニアだが、特殊メイクのせいですぐには判別できないだろう。