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消費されてきたスターたちの解放
しかし、彼女の望みはどこまでも「愛される」ことだった。血を噴き出し続けたエリザベスは、会場の外に出てハリウッドウォークオブフェイムに辿りつく。肉体は完全に壊れ、触手に顔だけが引っついたような状態になったエリザベスは、自身の名前が刻まれたプレートの上で力尽き、星空を見上げる。いやに眩い光を放つ星は、エリザベスが折に触れて眺めていたスノードームの煌めきと重なり、彼女は笑顔を浮かべる。もはやカメラのフラッシュを浴びることがなくなった彼女は、星の光に照らされることで、スターでありたいという欲を満たしたのだろう。大衆に愛されたいと願い、自ら消費されることを選ぶエリザベス / スーの地獄を見て初めて、我々はスターを消費することの途方もなさを知る。

Male Gazeの批判的な再現と読めるものの、女性の肢体をクロースアップで映し、女同士のキャットファイトを見せ、最後には血飛沫が飛ぶこの映画が露悪的と言われることに、異議を唱えるつもりはない。しかし『サブスタンス』は、自ら消費される道を選び、その代償に傷を負ってきた往年のスターたちを、権力を持った男性にその身を消費されてきた女性たちを解放しようとする。この映画の衝撃に放心することこそが、もしかしたらその解放の契機になるのではないか。
『サブスタンス』

■監督・脚本:コラリー・ファルジャ『REVENGE リベンジ』
■出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド
イギリス・フランス/142分/R-15+ 配給:ギャガ (c)2024 UNIVERSAL STUDIOS
5月16日(金)全国ロードショー