アカデミー賞作品賞にノミネートされた映画『サブスタンス』が5月16日(金)より日本公開される。
デミ・ムーアが、自身のキャリアと重なるような落ちぶれた元スターを怪演した同作。若さと美貌を求めるエリザベスと、再生医療によって生まれた「理想の女」スーの壮絶な分裂と融合が描かれている。その露悪的なショック描写の裏に、スターという存在の儚さと、それを消費する私たちの欲望を突きつける。血まみれのカタルシスの先に見えるものとは?
※本記事には作品本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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デミ・ムーアが演じるのは必然だった
デミ・ムーアは本作でゴールデングローブ賞・主演女優賞を受賞したが、俳優として賞を受賞したのは45年以上のキャリアの中で初めてだったそうだ。
受賞スピーチでは「かつては“ポップコーン女優”と呼ばれ、キャリアのどん底にいた最中に『サブスタンス』と出会い、自分はまだ終わっていないと思えた」と語った。
『サブスタンス』においてデミ・ムーアは、かつてスター女優として活躍したものの、歳を重ねて人気も容姿も衰え、キャリアが途絶えてしまった女性・エリザベスという役を怪演している。
スターとは、なんとも脆い存在だ。輝くような容姿や芸も、大衆から認知されてこそ。スターが自身に存在価値を見出すには人々からの眼差しが必要だが、大衆とは移り気なものだ。人気には山があれば必ず谷があり、この波が彼らを不安定にしてゆく。有力なTVプロデューサーであるハーヴェイからエアロビ番組の降板を言い渡され、人気の翳りが次第に精神を蝕んでいくエリザベス。そんな彼女を演じるのが、かつて同様の境遇にあったデミ・ムーアであるのは必然だったのだろう。


エリザベスは「自身をアップデートする」ために、再生医療「サブスタンス」に手を出す。注射を打つと突如彼女の背中が割れ、若さと美貌を備えたスーが現れる。その後、スーはハーヴェイに見出され、終了したエアロビ番組の後釜に抜擢される。エリザベスの経験も持ち合わせているスーは、面接でエアロビの動きを披露してもよかったはずだが、そうはしなかった。スーはピンクのレオタードを着て肌を露出させ、ただ笑顔を作ってみせただけである。それは男たちにとって、若い女性のツンと張った胸や丸い尻が何よりも価値があることを知っているからだ。欲望を掻き立てるように、カメラは足から尻、胸元から顔までを露骨なクロースアップで映してゆく。このMale Gaze(男性からのまなざし)を再現するようなカメラの動きには、監督コラリー・ファルジャの批評の目が光る。
