INDEX
音楽や芸術は貧富の差とは関係なく、平等に降り注ぐ
―アルバム収録曲“To My Love”に<To naively that sings>という一説があります。「ナイーブに歌う」というのは、あなたのボーカルから感じることでもあるのですが、この一節に込めた思いを教えてください。
タマス:この曲は数年前にがんでパートナーを亡くした友人のことを歌っていて、愛についての歌詞を書こうと思いました。友人とパートナーの愛には苦しい時期もありました。<To naively that sings>は、2人が「無邪気に(ナイーブに)」愛し合っていた時期のことを振り返っているところの一節なんです。自分ではナイーブに歌おうと意識したりはしていませんが、無意識に表れているものなんでしょうね。
―『To Drink up the Sea』というアルバムタイトルについて教えてください。
タマス:アルバムが完成する前後にニーチェの本をたまたま読んでいたんです。それは信仰心を持つ人々が現代社会に不安を抱いているという内容でした。その本で見つけた印象的な一節をアルバムタイトルにました。
ニーチェの研究者ではないので正しく解釈できているか怪しいのですが、この一節は「信仰について」の話だと思います。我々人間が船に乗って航海しているとすると、船が浮かんでいる海は信仰や伝統であり、そういったものを飲み干してしまったら航海できなくなってしまう。神を信じないというのは海の水を飲み干すくらいに無謀なこと、という意味ではないか、と私は解釈しています。
―海というたとえで思ったのですが、あなたの音楽はコップ一杯の水のようです。コップ一杯の水が疲れた身体を癒してくれるように、あなたの歌は、束の間、不安や孤独を和らげてくれます。
タマス:ありがとう。そんなふうに言ってもらったのは初めてです。音楽や芸術は、貧富の差は関係なく人間にポジティブな影響を与えてくれるものだと思います。
―子どもの頃から社会の不平等さが気になっていた、ということですが、音楽は平等に人々に何かを与えてくれることも、あなたが音楽活動を続ける理由なのでしょうか。
タマス:人生にはいろんな局面があると思います。私の人生の大部分は大学やNPOで働くことで、そこではシリアスな問題と向き合わなくてはいけない。もっともっと勉強する必要もあります。音楽はそういった現実的な問題とは別の場所。私はそこで何かを創造する。音楽をつくっているときに自由を感じられることが自分にとって重要なんです。
―あなたにとって音楽活動は、日々の暮らしを送るうえで欠かせないものなんですね。
タマス:毎日、ギターを抱えて新しい曲をつくるのは、自分にとっては水分補給をするようなこと。音楽は私にとっても一杯の水なのです。音楽があるかおかげで、厳しい現実を相手にした仕事に向き合うことができる。だから、音楽はとても個人的なことなのですが、それが結果的に人々によい影響を与えているのなら嬉しいですね。
『Tamas Wells performing “A Plea en Vendredi”』

2024年4月20日(土)
会場:東京都 代官山 晴れたら空に豆まいて
ゲスト:寺尾紗穂
https://tamaswells2024-day1.peatix.com
2024年4月21日(日)
会場:東京都 渋谷 7th FLOOR
オープニングアクト:キム・ビールズ
https://tamaswells2024-day2.peatix.com
Tamas Wells 『To Drink up the Sea』国内盤(CD)

発売日:2023年12月8日(金)
価格:2,400円(税抜)
LIIP-1555
1. It Shakes the Living Daylights from You
2. Arguments That Go Around
3. Every Other Day
4. It’s Not the Same
5. Tooth and Nail
6. August I Think Nothing Much at All
7. A Little Wonder
8. Shells Like Razor Blades
9. The Tattoos on Anna’s Feet
10. To My Love
https://lirico.lnk.to/LIIP-1555