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『平成狸合戦ぽんぽこ』『ホーホケキョ となりの山田くん』エリアも要注目

1994年のスタジオジブリ作品『平成狸合戦ぽんぽこ』は、高畑が初めて原作・脚本・監督の3役を務めた作品。彼の25年以上のキャリアの中で、ゼロから物語を立ち上げたのはこれが初めてというのはちょっと意外である。

タヌキを主役にした作品を創るにあたり、そのお茶目な生態や化かしの工夫を表現するべく大量のイメージボードが描かれた。会場ではガラスケースいっぱいに展示されたカラフルなイメージボードを鑑賞することができる。映画で見覚えあるワンシーンはもちろんのこと、残念ながらボツになってしまったちょっとオトナなネタがあったり、クスッと笑ってしまうひとコマがあったりと、見れば見るほど面白い。

ジブリの背景美術でよく知られる、男鹿和雄による背景画にも注目だ。この一角だけでまるで美術展のような見応えである。
さて、下の写真は、左手が『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)の展示エリアで、右手は高畑の敬愛するカナダのアニメーション作家、フレデリック・バックを紹介するエリアだ。この一見するとシンプルな展示空間に、来場時はぜひ集中力を注いでほしい。

正直に言って『ホーホケキョ となりの山田くん』の何が凄いのか、私はわかっていなかった。線はブレているように思えるし、色を塗り残している場所だってあるし、背景は描き込まれていないしで、「ユルくて適当」なように見えてしまっていたのだ。けれど、そのスケッチっぽさを醸し出すために通常の何倍ものリソースが注ぎ込まれており、わざわざ塗り残しの余白をつくるために複数の専用レイヤーが用意されていたことを、本展で初めて知った。
なぜそんな新技法を編み出してまで、高畑は「抜け感」のある画面へ舵を切ったのか。それは『おもひでぽろぽろ』等で実現してきた密度の高い画面が、むしろ観客の想像力の妨げになってしまうと考えたからだという。描きたいところだけ描いて、あとは余白で想像させる。そして丁寧に清書されたラインでは持ちえない「手描きの線のチカラ」にこそ、自らの表現を託せると考えたのだ。
モニターで放映されているフレデリック・バックの短編アニメ『クラック!』の抜粋映像を見ると、高畑がどんなものを目指したかが端的に伝わってくる。従来のアニメのイメージには当てはまらない、躍動するスケッチとしか言いようのない映像は是非とも実際に鑑賞してみてほしい。そしてそんな高畑の挑戦を理解した上で、いよいよ展覧会クライマックスの『かぐや姫の物語』エリアへと進んでいこう。