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役の人生に寄り添う適材適所のキャスティングと演技

時代に即したテーマを扱う作品だけに、ついつい内容にばかり言及したくなってしまう本作だが、一つ一つのセリフを胸の奥まで響かせ、展開に説得力を持たせる上では、適材適所のキャスティングが効力を発揮したのは間違いないだろう。礼子、中谷、虎朗は、江口のりこ、ディーン・フジオカ、一ノ瀬ワタルと、見た目だけでも原作小説のイメージにぴったりのキャスティングだが、少し大袈裟に見える動きや喋り方の役へと調整されたことで、ふとした反応にどことなく愛らしさが滲み、それぞれが愛すべき生き生きとしたキャラクターになっている。
周囲の人々の心を解いていく詩穂は、多部未華子のゆったりとした話し方と優しい声色によって説得力が増し、一つ一つの言葉を視聴者に深く響かせることに成功している。特に第9話で、未婚の母であり、専業主婦である詩穂を恨んでいた白山はるか(織田梨沙)にかけた「赤ちゃんはただただ可愛くて、何の苦労もなく育てられる。そう思っていました。でも、妊娠したらつわりが酷くて、重いおなかが苦しくて。やっと赤ちゃんを産んだら、産んだその瞬間から、急にお母さんになることを求められる。育児がこんなに大変だなんて想像したこともなかった。今までの生活のための家事から赤ちゃんを生かすための、死なせないための家事になる」は、子育て中のあらゆる人に刺さるセリフで、子育ての大変さに共感しながら優しく労う言葉に涙を誘われた人もいるだろう。
キャスティングが素晴らしいのはメインキャストだけではなく、礼子の夫・量平を演じた川西賢志郎、中谷の妻・樹里を演じた島袋寛子、知美を演じた田中美佐子、里美を演じた美村里江など、書ききれないほど端から端までハマり役だった。どの俳優の芝居からも、役柄の生きる道を理解しようとし、寄り添いながら表現していることが伝わり、その裏には、「この作品を届けたい」という熱意も感じられた。小説の実写化における成功例と言えるだろう。