8月31日、9月1日の2日間、バンド「初恋の嵐」のメンバーとしても知られるベーシスト・隅倉弘至の生誕50年ライブがShibuya WWWにて開催された。誕生日当日となる8月31日、「生誕祭バンド編」と題された1日目は、八橋義幸(Gt)、真壁陽平(Gt)、高野勲(Key)、あらきゆうこ(Dr)、神谷洵平(Dr / 赤い靴)という、隅倉と縁の深いミュージシャンたちが集まった特別編成のバンドに加え、赤い靴、石崎ひゅーい、斉藤和義、トータス松本、中田裕二という隅倉がサポート活動などを通じて縁のあるボーカリストたちも集い、隅倉の50歳の誕生日を祝うライブが繰り広げられた。
そして「初恋の嵐編」と題された2日目は、その名の通り、初恋の嵐としてのワンマンライブ。2002年にオリジナルメンバーである西山達郎(Vo / Gt)が逝去し、2011年の活動再開以降は様々なゲストボーカルを招いてきた初恋の嵐だが、この日も7人のゲストボーカルを迎えてライブが行われた。
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幸福ですさまじい音楽空間だった「初恋の嵐編」
私は2日目、初恋の嵐のライブを観ることができたのだが、端的に言って、素晴らしいライブだった。熟練の技術と、変わらぬ無邪気な遊び心と、アンサンブルの喜びが混ざり合って、爆発していた。こんなにも幸福ですさまじい音楽空間があるのか、と思った。前日に50歳になった隅倉を始めとして、ステージに立つ人たちの多くは30代後半の私よりも年上だったが、カッコいい歳の重ね方を見せてもらった、そんな気分にもなった。
隅倉と鈴木正敏(Dr)という初恋の嵐のオリジナルメンバーに加え、この日のサポートメンバーは、木暮晋也(Gt / ヒックスヴィル)、玉川裕高(Gt)、高野勲(Key)、朝倉真司(Per / ヨシンバ)の4人。そしてゲストボーカルには、出演順に、松本素生(GOING UNDER GROUND)、クボケンジ(メレンゲ)、吉井功と五目亭ひじきによるユニット「からすぐち」、岩崎慧(セカイイチ)、堂島孝平、満島ひかり、そして、曽我部恵一という7組が集まった。加えて、隅倉自身もボーカルを取った。

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松本素生とクボケンジ、からすぐちが登場。1曲目から、ドッキリ勃発!
ライブが始まり、最初のボーカリストを務めたのは、松本素生。1曲目の“No Power!”からフルスロットルに疾走するパンクサウンドに乗せて見事なボーカルを披露したが、曲が終わると松本が隅倉に向かって、ひと言。「1曲目にやる曲、違いますよ」。この言葉を聞いた時には「こんな速い曲、1曲目にやるもんじゃないよ」的なニュアンスかと思ったが、その後の種明かしによれば、松本は本当にドッキリにひっかかっていたらしい。予定では、1曲目が“Untitled”で、2曲目が“No Power!”。でもいざ本番、1曲目として演奏が始まったのは“No Power!”。それを知らないのは松本だけ――失礼ながら、「なんてことをするおっさんたちだ」と思った。しかし、なんて楽しそうなんだろうか。


続いて登場したのは、クボケンジ。“ジョイント”と“涙の旅路”の2曲を披露した。“ジョイント”では朝倉のパーカッションが強烈に熱を帯びて、会場の温度を急上昇させた。クボは隅倉に向けて「50歳、レベル50。RPGで言えば、ボス戦には程遠いなと思うので」と激励を送る。「頑張りまーす」と返す、隅倉。

そして3組目は、からすぐち。披露したのは“カントリーホーム”と、今年の西山の命日に、ふたりがSNSでもカバーをアップしていた“化粧に夢中な女の子”。“カントリーホーム”では、<クラレンス・ホワイトはどんな顔でギターを弾いてたんだろうな>という歌詞を、からすぐちのふたりは、<隅倉弘至はどんな顔でベース弾いてたんだろうな>と変えて歌った。これは、からすぐちから隅倉へのドッキリだったのだろう。会場からも歓声が上がる。

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さらに会場を盛り上げる岩崎慧と、威風堂々と歌いあげた満島ひかり
4組目、岩崎慧はステージに登場するやいなや「楽しんでますかー⁉」と呼びかけ、会場を盛り上げる。披露したのは“雨宿り”と“初恋に捧ぐ”。岩崎は、先のからすぐちのMCでも話題になっていた、1日目のライブで見られたという、手を前後に振る若いロックバンドのライブでよく見られるノリ方を、この日の観客にも促し、盛り上げる。笑いながらステージ上を躍動する岩崎慧を見て、「本当に華のある人だ」と思う。


続いて登場したのは、満島ひかり。初恋の嵐に馴染みの深いゲストボーカル陣の中に満島の名があることに驚いた人もいるかもしれないが、彼女は高校生の頃にテレビで“真夏の夜の事”を見て以来、バンドのファンであるという。2012年には、NHK-FMで放送された初恋の嵐の特別番組のナビゲーターを務め、今年の「RECORD STORE DAY」にまつわるインタビュー内でも、アルバム『初恋に捧ぐ』を「歌詞カードを見ないでも歌えるくらいたくさん聴いてる」とレコメンドしている。そんな彼女は、“罪の意識”と“good-bye”の2曲を披露。本人は「緊張する!」と言っていたが、威風堂々とした佇まいと、歌声だった。


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堂島孝平と曽我部恵一から隅倉へのメッセージ
そして6組目に登場したのは、堂島孝平。“nothin’”と“あの娘のことば”の2曲を披露した。彼は、音源では8分半にも及ぶ“nothin’”を見事に歌い上げたあと、「長いわー、この曲!」とぼやき、隅倉も「なんというか、重いよね」と返し、会場は笑いに包まれる。しかしながら、曲の「長さ」に表れる叙情世界の豊かさ、溢れるものを捉え、描こうとする若さゆえの表現への渇望こそが、初恋の嵐の作品に刻み込まれた、色褪せることのない大きな魅力だ。堂島と隅倉の会話は、ぼやきのようで、とても愛に満ちた言葉たちに聞こえた。堂島は隅倉に向かって「ずっと続けてくれてありがとう」とも告げた。

そして、7組目に登場したのは、曽我部恵一。“真夏の夜の事”と“星空のバラード”を披露した。筆舌に尽くしがたい、本当に素晴らしい歌だった。この日、この場所に集ったすべての人と想いを、この日に至るまでに流れたすべての時間を、抱きしめるような、そんなおおらかで力強い歌声。思えばサニーデイ・サービスやソロなど、私がライブで見る曽我部はほとんどの場合、ギターを抱えて歌っていた。その経験も十分感動的なものとして残っているのだが、この日、ギターを持たずシンガーに特化した曽我部の歌声を聴いて、命が震えるような感動があった。演奏を終え、ステージを去る間際、曽我部は「50代になっても、化粧に夢中な女の子にうっとりする男でいたいね」と隅倉に告げた。最後まで、カッコよかった。

