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「実写化」あるいは「実写リメイク」表記がもたらすミスリード
2014年から、過去のプリンセスストーリーのいわゆる実写リメイク版、英語だと「Live-Action Reimagining」が制作・公開されるようになった。リイマジニング(reimagining)とは、「少なくとも一つの大きな変更を伴っておこなうリメイク(remakes with at least one big change)」のことで、作品を他の表現メディアの形に置き換えるアダプテーションの一種であるが、同じ媒体(映画から映画)で行うことが特徴である(※5)。これまでにリイマジニングされたプリンセスストーリーとして、『眠れる森の美女』をヴィランであるマレフィセント視点から捉え直した『マレフィセント』(2014年)を皮切りに、『シンデレラ』(2015年)、『美女と野獣』(2017年)、『アラジン』(2019年)、『ムーラン』(2020年)、『リトル・マーメイド』(2023年)が挙げられる。
※5:Koski, Genevieve. “Reboots, remakes, and reimaginings: a guide to confusing Hollywood terminology.” Vox 17 September 2015.[最終閲覧日:2025年3月24日]
そして、このたび満を持してディズニー初の長編映画かつ世界初のカラー長編アニメーションの『白雪姫』がリイマジニングされたわけだが、不幸にも本作はさまざまな「ノイズ」を抱えた状態で封切られた。そのため、公開直後のSNSには「ノイズ」ありきで鑑賞した人々による「酷評」が散見された。「ノイズ」について本稿では詳らかにはしないが、「酷評」の多くは『リトル・マーメイド』(2023年)のときと同様、キャスティングに対する批判やストーリーそのものが「原作に忠実ではない」というものであった。
日本では「実写化」、最近では「実写リメイク」という表現が用いられることが多いが、「ある特定の映画をほぼそっくりそのまま作り直す(Closely re-create one particular film)」ことを指すリメイク(remake)(※6)という語からは、アニメーション版のプリンセスストーリーどおりのものを期待してしまうことは否定できない。本作がリイマジニングであることを念頭におけばその誤解も多少は緩和されるだろうが、リイマジニングが意味するものはおろか、言葉自体もなかなか浸透していないのが現状である。
※6:Koski, Genevieve. “Reboots, remakes, and reimaginings: a guide to confusing Hollywood terminology.” Vox 17 September 2015.[最終閲覧日:2025年3月24日]
しかし、言わずもがな、これまでのディズニー作品の多くは元となる童話や民話——これ自体にもさまざまなバージョンがあるわけだが——を大幅に改作している。すなわち、多くの人々が「原作」と呼んでいるものは、ウォルト・ディズニーがその時代の子供たちに見合った、ないしはウォルトが理想とする価値観を反映させた内容に作り変えたものだ。だが、多くの人々がディズニー作品を「原作」だと錯覚してしまうほどの影響力があることもまた事実である。
とはいえ、『白雪姫』でいえば、88年前の価値観——「女の子は美しく従順であれば、地位と金のある男性に愛されて結婚し、幸福になれる」というプリンセスストーリーの基本原則——を2025年の作品としてそのまま踏襲することには無理がある。そこで、これまでリイマジニングしてきたプリンセスストーリー同様、長らく愛されてきたプリンセスおよびプリンセスストーリーに新たな価値観を反映させ、バリエーションを増やすことで、これからの子供たちに向けて長く愛されるものを残す決意を持って作られたのが本作だ(※7)。

※7:監督のマーク・ウェブは、公式パンフレットに掲載されているインタビューのなかで、本作を当時幼かった彼の娘のために作った(「彼女が楽しみ、共感できるような作品を世に送り出したかった」)と答えている。