少年キッズボウイは「営み」を奏でるバンドである。幸福と痛みの中で抱きしめ合う恋人たちの姿を奏で、その拳に怒りと希望を握り締める少年少女たちのまなざしを奏でるバンドである。騒々しくチアフルな彼らの音楽は抗っている。何に?――冷笑に。ニヒリズムに。心ない嫌味に。理不尽な暴力に。人を人とも思わないものたちに。僕やあなたの視界を暗くする閉塞感や疲弊に。少年キッズボウイは、そういうものたちに徹底的に抗っているバンドなのである。
8人のメンバー全員が、音楽以外の仕事も持ちながら活動する少年キッズボウイ。自分自身の生を全力で謳歌しながら、そこから生まれる熱をみんなで分かち合おうとする彼らのパンキッシュでソウルフルなエネルギーは僕らを傍観者にさせない。僕ら一人ひとりが熱源であることを自覚させる。
既にライブハウスでは熱狂的かつ感動的な光景が生まれているが、彼らの音楽を必要としている人は実はもっとたくさんいるはずで、だから「出合ってほしい」――そんな思いを込めて、ここにメンバーの中からアキラ(Vo)、こーしくん(Vo / Comp)、山岸(Gt)の3人を迎えたインタビューをお送りする。働きながらバンドをやることについて、メジャーデビューについて、新曲“キスをしようよ”や、“僕らのラプソディー”や“君が生きる理由”といった稀代の名曲たちについて、たくさん語ってもらった。
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2020年結成。東京を拠点にメンバー全員社会人として働きながら音楽活動をする、今どき二刀流バンド。全員が熱量の高いミュージックラバーでありながら、音楽だけでなくファッション・映画・お笑い・マンガなども大好物。さまざまなカルチャーやエンタメもシャッフルして、わんぱくに活動中!
メンバー全員社会人。仕事も趣味も楽しむがモットー
―少年キッズボウイはメンバー皆さんが別の仕事を持ちながらバンド活動をしていることを発信していますが、まず素敵だなと思うのは、そこに後ろ向きなニュアンスを感じないことなんです。仕事をしながら音楽活動をすることに対して、「全力で自分の人生を生きている」という前向きなスタンスを感じます。
山岸(Gt):たしかにライブのMCでも「僕たちは働きながらバンドを続けます」とよく言うんですけど、僕は、自分が好きだったこととか、自分がやってきたことに対して「諦めたくない」っていう気持ちがあるんです。こんな社会だし、普通に生きていたらどんどん暗くなるじゃないですか。今は特にそうだと思うけど、でも、それって当たり前のことなんですよね。未来が暗いことも、人生が辛いことやキツいことも、もう当たり前で。その当たり前の中で「どう楽しんでいくか?」を考え続けていきたいとは思います。「僕にできるんだから、みんなにもできるよ」とも思うし。
アキラ(Vo):最初はあまり「社会人バンドです」とは言っていなかったんですよ。でも、働きながらバンドをやることに対して、周りが「その生き方いいね」と言ってくれることが多くて。今は、誰かの希望になれるのなら押し出した方がいいなと思ってます。実際、私たちのライブには「今日、仕事が終わってから来ました!」と言ってくれる人が多くて。そういう人たちとは「お互い頑張りましょうね」っていうムードになるんです。
山岸:働きながらライブを観に来てくれること自体、めちゃくちゃ凄いことだしね。

こーしくん(Vo):僕は、仕事もバンドもずるずる始まって、ずるずる続けている感じなんですけどね(笑)。でも、それができるのはバンドも仕事も両方に楽しい側面があるからで。もちろん両方に嫌な側面もあるんですけど、それもまた一興って感じですね。あと、「今日はバンドに向き合わなきゃ」とか、「今日は仕事が忙しい」とか、一方に熱が傾く時があるんですけど、その時もう片方がなかったら僕は凄く嫌なんですよ。
アキラ:わかる。心持の問題として、仕事とバンド、両方に避難できる場所みたいなものがあるのはいいよね。
―そういうことも踏まえて、実は今日の取材の裏テーマにあるのが、映画『花束みたいな恋をした』の主人公カップルが、ずっと一緒に生きていくことができた世界線にいるバンドが少年キッズボウイなんじゃないか? という視点なんですけど(笑)……これはしっくりきますか?(※)
※主人公の麦と絹が学生時代に意気投合して付き合ってから、就職を経て環境が変わる中で、趣味や仕事に無関心になっていく麦と、仕事が楽しく充実した絹の間に価値観のずれが生じてくる様子が描かれる。
山岸:めちゃくちゃ嬉しいです(笑)。麦のように、多忙で好きだった趣味も忘れ、『パズドラ』しかできなくなる世界線とは真反対に僕らはいるということですよね。
アキラ:私も嬉しいです。でも、その一方で『パズドラ』しかできなくなる気持ちも凄くわかるんですよ。「社会人になったら本が読めなくなる」とか「料理ができなくなる」とか、そういう話もあるじゃないですか。それ自体がセルフネグレクトに繋がっている、みたいな話もあるし。それもわかるんです。でも、私たちは「それとは違う方向に行きたい」と思っているっていう。
―こーしくんはどうですか?
こーしくん:僕もその視点はとてもいいなと思います。根本的に、僕はハッピーエンド好きなんですよ。あの映画は寂しいエンディングじゃないですか。「それは嫌だな」と思っていたので。
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「別にバンドじゃなくてもよかった」(こーしくん)
―僕はこの間初めて少年キッズボウイのライブを観たんですけど、お客さんもバンドの一員になったかと思えるような熱狂的な盛り上がりに感動しました。それに、YouTubeなどでの発信の仕方も凄く独特だと思うし、少年キッズボウイは、バンドでありつつ、多くの人が想像する「バンド像」から少しはみ出した在り方をしていると思うんです。そこは結成当初から一貫しているものなんですか?
こーしくん:最初から「ただ面白いことがやりたいよね」というだけだったし、別にバンドじゃなくてもよかったんです。集まったのが楽器をできるやつが多かったので「一旦音楽をやろう」となっただけで、今も音楽は「一旦やっている」って感じなんですよ。本当はもっといろいろなことをやりたいんです。コントもやりたいし、便利グッズの発明とかもしたい(笑)。でも、この感じは最初あまりメンバーにも伝わらなかったんですよね。山岸に「コントをやろう!」と言っても「はあ?」って感じで(笑)。
―(笑)。
山岸:僕はバンドをやること自体初めてだったから、最初は「え?」って感じだったんですけど(笑)、どんどん、自分が少年キッズボウイにいる理由は「みんなでいる」ってことなんだなと思うようになって。今は8人でバンドをやっていますけど、みんなでいる時間がいちばん尊いし、自分以外の誰かと何かをやっていることに意味があるんだなと今は思います。なので、お客さんも含めて、みんなでいる時間を続けるために音楽もそれ以外のこともどんどんやっていきたい。
アキラ:一緒にいられればオールOKだからね(笑)。

―アキラさんは、少年キッズボウイのコミュニティとしての在り方にはどう向き合っていますか?
アキラ:正直、最初は気恥ずかしかったです。「バンドなのにSNSを頑張るのもなぁ」と思ったし、TikTokで喋るなんて自分とは程遠いことだと思っていたから最初は抵抗ありましたけど、今は慣れました(笑)。それによくあるバンドのイメージって、ボーカルだけが印象に残っていて他の人は目立たないと思うんです。でも私たちの場合は、たとえばGB(Dr)は普段服屋さんで働いていて、そっちの方でインタビューを受けたり、それぞれにスポットが当たることもあって。それは凄くいいことだと思うんですよね。

https://www.tiktok.com/@shonenkidsboy/video/7199259690503556354
―少年ボウイキッズを見ていると、友達同士で歌を歌ったり、好きな音楽の話をしたりする純粋な喜びを感じるんですけど、皆さん、子どもの頃友達は多かったですか?
こーしくん:僕は友達いっぱいいましたね。でも、小3の時に友達がひとりもいなくなったんですよ。全員引っ越したんです。
山岸:そんな誰も悪くないことあんの?(笑)
―(笑)。アキラさんと山岸さんはどうですか?
アキラ:私は暗かったです。男の子とばかり遊んでいたのは、今のバンドの男女比に受け継がれているかもしれない(笑)。
山岸:僕は友達少なくて、ひとりの時間の方が好きでしたね。大学に入って音楽をやるようになって、新鮮に「人と何かやるってこんなに楽しいんだ!」と思いました。「誰かと一緒に何かをやることを楽しんでいいんだ」って。それが今もこのバンドで続いている感覚ですね。
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怒りから始まり、愛を歌うようになった
―これまで発表されている楽曲を時系列で聴いた時、どんどんと生まれるものが変化している印象もあったんですけど、作詞作曲をされているこーしくんは、そういった実感がありますか?
こーしくん:あります。そもそも僕らはパンクバンドとして始まったんです。パンクとは怒っているものであり、僕はずっと怒っていたんですよね。でも、その怒りの上で何かを提示しなければいけないと思った。それで作ったのが“僕らのラプソディー”という曲なんです。この曲もまだ怒ってはいるんですけど、それでも「何かメッセージを言わなきゃ」と考えた時に、愛について書きたくなった。
―最初の頃の怒りというのは、何に対しての怒りだったと思いますか?
こーしくん:僕はワガママなので、自分の中にある「こうしたい」という思いがあって、でも現実はそうではなくて「ちくしょう」と思う……そういうことを日々、蓄えていて生きていた感じなんですね。それは「こういうギターが弾きたい」と思って、でもそれが弾けないことに対してもそうだし、仕事で「なんでおまえはこれができないんだ?」という怒りがあれば、その怒りは自分に向く時もあるし。

―聴き手としては、自分自身の無力感からくる怒りとか、どうしようもない現実に対しての怒りでもあるのかなと、初期の曲を聴いていると感じました。
こーしくん:そう思います。
―“僕らのラプソディー”の頃に変化が起こったのは、僕も曲を聴いて感じたことでした。この時期から、描かれるものの前提に戦争などの社会的なことが入り込んできている気がしたし、“僕らのラプソディー”も収録されているアルバム『少年キッズボウイ 1』は、ある意味では反戦歌が集まった作品でもあると感じたんです。この時期の変化がどのように生まれたのか、具体的に知りたいです。
こーしくん:「社会と繋がってなきゃいけない」と思ったのは大きいと思います。少年キッズボウイは「楽しければいいよね」で始まったバンドだし、ずっと大学のサークルのノリでやってきたけど、バンドは他者に見てもらうものでもあるわけだし、「内輪ノリじゃダメだよね」と思った。それで久しぶりに外を見てみたら、世界は荒れに荒れていて。ここは俺が一筆したためねば、という感じでした。少年キッズボウイは、「自分が楽しいことやりたい」と言って始まったバンドだけど、この時期、「みんな楽しかったらいいじゃん」という形にちょっと広がったんだと思います。ライブも「お客さんもみんなメンバーだよ」という気持ちでやるようになったし。
山岸:“僕らのラプソディー”の時期はバンド全体が明確に変わったんですよね。それまでは自分たちだけで活動していたけど、“僕らのラプソディー”から今も一緒にやっているスタッフと一緒に活動するようになって。あとこの曲を出す前に1度解散の話が出たことがあったんです。「今ある曲でアルバムを作って、解散しようか」って。でも、そのタイミングで後にスタッフになる方に声を掛けていただいて。明確にバンドが切り替わった時期だったんですよね。
アキラ:生まれ変わった時期だったね。
こーしくん:“僕らの”ラプソディーのあとに“君が生きる理由”という曲ができたんですけど、この曲では「世界はこんなに素敵なんだから、君も生きてみようぜ」というメッセージを書くことができたと思っていて。
―“君が生きる理由”は、より訴えかける力が強い曲だなと感じます。
こーしくん:この曲は「みんなも楽しまなきゃ!」という気持ちですね。「死ぬなんて言うなよ」っていう、その一心です。あとその時期、自分がずっと好きだったバンドのメンバーの方が「俺たちの世界は変わらない」と言っていたのを聞いて、すげえ寂しかったんです。その言葉を聞いた日、自分が乗っていた京王井の頭線で人身事故があって、2時間くらい何もできずに座っていた時間があって。その時に、携帯のメモ欄に書いた歌詞が“君が生きる理由”の歌詞でした。
―こーしくんは、自分を寂しくさせるものに対して常に抗っている感じがしますね。
こーしくん:『花束みたいな恋をした』をハッピーエンドにするためにやっていますから。最高のハッピーエンドを目指します。
―最高だと思います。