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薬膳ドラマ『しあわせは食べて寝て待て』が教えてくれる日常に潜む「良質な普通」

2025.4.29

#MOVIE

©NHK
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「薬膳」という日常に潜む「良質な普通」の幸せ

鈴さんに誘われ司と共に食卓を囲むさとこ©NHK
鈴さんに誘われ司と共に食卓を囲むさとこ©NHK

本作は、現在も連載中の人気コミック『しあわせは食べて寝て待て』を原作に、桑原亮子、ねじめ彩木が脚本を手掛けた。膠原病(こうげんびょう)という「一生つきあわなくてはならない」病気にかかり、思うように働けなくなった彼女は、務めていた会社を辞め、新しい住まい探しを余儀なくされる。家賃5万円の団地住まいで、週4日のパート暮らし。マンション購入の夢も断たれ、マイナスからのスタートかと思いきや、隣に住む大家・鈴さんと、鈴さんの同居人・司と出会うことで、「薬膳」に目覚めていく話だ。

シロさん(西島秀俊)と賢二(内野聖陽)の、旬を取り入れた季節ごとの食事の光景が見ていて心地よい『きのう何食べた?』(テレビ東京系)もそうだが、薬膳、つまり「旬の食材を取り入れた食事で体調を整える」ことを実践するさとこの暮らしぶりを見ていると「特段、代わり映えのしない日常」などないことに気づかされる。春夏秋冬、季節によって出会える食材が異なり、それぞれに様々な効能が備わっていること。また、それを活かす料理の方法さえ知っていれば、時にお財布事情との攻防はあるものの、スーパーでそれを発見することの喜びや、用意してきたお弁当を食べる喜びで日々は満たされ、日常は変化とともにあること。さらに、次の季節に向かうちょっとした準備をしていれば、それが未来の自分まで幸せにしてくれるのである。

例えば、印象的だったのは第2話だ。梅雨時の鬱々とした気分の中で、少しでも「毎日の楽しみ」を見つけようと、さとこは切れてしまった電球を中に入れて、穴が開いてしまった靴下を繕う。スーパーで勇気を出して梅の実を買い、たまたま出会った反橋りく(北乃きい)の勧めで梅シロップを作る。それを1ヶ月寝かせるために棚にしまったところで、雨続きだった空が晴れていることに気づき、思わず歓声をあげた。しゃがんだ彼女の足元を、繕いたての靴下の縫い目がチャーミングに彩っていた。

さらに第3話は、1ヶ月後、その梅シロップができあがった頃から始まる。暑さでソファーから動けないさとこを動かすのは、1ヶ月前に準備していた梅シロップの蠱惑的な煌めきだ。切れてしまった電球も、穴が開いてしまった靴下も、日々収入が少ない中でなんとかやり繰りするさとこにとっては、心に大雨を降らせるほどにマイナスな出来事でしかないのだけれど、マイナス要素をプラス要素に変える小さな工夫の積み重ねは、日常に思わぬ晴れ間をもたらしてくれる。そして、さとこや、彼女にとって薬膳との出会いのきっかけとなった司による言葉の数々は、第1話の「杏仁豆腐の原料はあんずの種で、喉の調子を整えてくれる」をはじめ、身近な薬膳の存在を知らせ、テレビを観ている視聴者に、日常に潜む「良質な普通」の幸せをお裾分けしてくれるのである。

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