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学生たちに仁科の死と向き合わせたことの意味

視聴者にも大きなショックを与えたのが、第7話における救難員・仁科(濱田岳)の死だ。宇佐美にとっても、初めて卒業させることができた訓練生の一人だった。「俺が宇佐美さんに憧れてPJを目指したように、学生たちの心に火ぃつけてやりたいんスよ」と熱く語っていた仁科は、まさに宇佐美マインドを受け継ぐ熱い指導教官ながらも、比較的、年齢が近い学生たちの“兄貴”的存在でもあった。
精鋭が揃う救難教育隊の指導教官たちも、緊急時には出動を命じられる。仁科たちが向かったのは、長野県で発生した線状降水帯による大規模災害。崖上にある校舎前で倒れていた松井(笠原秀幸)を救出したものの、構内から松井の娘・恵理(瑠璃)の泣く声を聞いた仁科は、迷わず室内に足を踏み入れる。中林(高岸宏行)や森野(野村麻純)の反対を押し切り、「未来救わない大人がどこにいる」という仁科の声には、宇佐美と同様に大人としての覚悟を感じた。
しかし、自然の脅威は容赦なく仁科たちを襲う。恵理は松井と共に無事に助け出されたものの、ヘリコプターでの収容中に校舎前で待機していた仁科が一人、斜面崩落に巻き込まれてしまったのだ。

絶望的な状況の中で恵理に対して必死に希望を唱え続けた仁科。そして、夫を失い、胸を裂かれるような悲しみの中で「私だけは褒めてあげたいんです」と仁科の選択を肯定した妻の芽衣(黒川智花)。本作の中でも重要なエピソードを託された濱田と黒川の芝居は圧巻だった。

他の教官から学生たちの心のケアが最優先だといった声が上がる中、宇佐美はあえて、仁科の救難活動について学生たちと検証したいと同僚教官たちに提案する。この恐怖や痛みを忘れる前に、学生たちに口に出して考えさせたい。それは、亡くなった仁科の判断が「正しかったか」「間違っていたか」を問うためではない。日頃の救助訓練において、改善できる点はないか。訓練中の判断ミスが、実際の現場でどんな結果を生みうるのか。仁科の死と向き合うことは、航空救難団の未来に繋げるための行為だ。それは、12年前に沢井の父・幸三(和田正人)を救えなかった後悔を抱える宇佐美が、ずっと続けてきたことでもあった。