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大石晴子とは何者か。そのパーソナリティとキャリアをインタビューで紐解く

2025.2.5

大石晴子『サテンの月』『沢山』

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「日常を尊ぶ」というより、ただそれがあることを歌う感覚

―昨年の10月と12月に新曲のリリースがありました。『脈光』以降の1年半はどんな時間でしたか?

大石:長い目で計画的にアルバムを作れたらいいだろうな、という考えはうっすらあったんですけど……今回ばっかりは少し焦ったのかもしれないですね。去年の年始に近しい人が病気になってしまって、早く届けたい気持ちがあったので、今あるものをとにかく形にして出したいと思ったんです。それでシングルを2曲、「配信したから聴いといて」ではなく、何か渡せるものを作りたくて、カセットテープにしました。

―ライブに関してはコロナ禍以降も決して数は多くないと思いますが、どのような考えがありましたか?

大石:「ライブが大事」という意識がそもそもなかったかもしれないです。私自身これまでライブに足を運ぶ機会がそれほど多くなくて、どちらかというといつも音源に救われてきたからなのか、音源を出した時点で一旦完結してる心地なんです。

音源制作においてはテイクを選択したりして、ある程度自分でゴールを決められるけど、ライブは自分の意思以外の要素があまりに多いので、そこが怖いなという思いがありました。リハと同じにはならないし、会場もお客さんもどんな様子かわからない。でも今回は直近で楽曲のリリースもありましたし、「やった方がいいよ」って各所が言って下さったので(笑)、チャレンジできました。

編集・柏井:はい、ライブの出演オファーを出しまくっておりました(笑)。

―やってみてどうですか?

大石:「やっぱり難しい!」と思いました。お客さんが「すごくよかった」と言って下さるのを一つの結果として、それに一先ず安心しつつ、自分の中の感触はまた別ものとして大切にしたいです。

大石晴子ライブ写真@NiEW Presents『exPoP!!!!! Vol.168』 / 撮影:koudai uwabo

―アルバムで注目度が上がったことによるプレッシャーを感じたりもしましたか?

大石:そこは全然なかったですね。あくまで自分の中での不安――自分が納得いくものにならなかったらどうしようっていうところだけで。でも今回リリースした楽曲の参加メンバーとであれば、少し探れるような気がしたというか、いいライブができるのかもしれない予感があったから、踏み切れたというのはありそうです。制作からライブにかけて高橋佑成さんが中心メンバーとして、私の相談役になってくれて、それはかなり大きかったですね。

―10月にリリースされた“サテンの月”はどのように生まれたのでしょうか?

大石:夜散歩をしていて、大きな道路沿いをずっと歩くんですけど、横断歩道を渡るときに中央分離帯があるじゃないですか。信号が赤になりそうなら諦めるか走るかすれば良かったんですけど、渡りきれずに真ん中で青信号になるのを待つ時間があって。私の前後をすごいスピードで車がバーって行き来して、まるで自分がいないような気もしてくる。ここに私が立っていることを、こうやってあれこれ感じていることを、誰も知らないんだと。孤独を強く意識して、じゃあその孤独を前提にこれから考えられること、やれることもあるはずだと思って、この曲を書きました。

―お話を聞きながら、現在の大石さんはアーティストとしてのキャリアの中央分離帯にいるようなイメージが湧きました。孤独なんだけど、車が通ってるから戻ることはできなくて、進んでいくことしかできない、みたいなことだったり。

大石:アーティストのキャリアに限らずですが、「戻れない」という意識は大きいですね。何か知る前の状態には戻れないし、できないことは増えていく。そういう状況に自分がいて、「じゃあどうしたいか?」っていうことについて考えていた期間だったと思います。

曲としては、前半で孤独への気づきがあって、後半では、だとしても一つの影があるのは私がここに確かにいるからで、鼓動が鳴ってるのは私が生きてるからであって、と。ポジティブに変換とまではいかなくても、でもできることはあるよな、みたいな感じですね。<この街を初めて走ってる>って、別にどこに行くっていうこともないんですけど、目的も勝算もなく走ってる。「こんな自分もいたんだ」みたいな、ちょっと笑えてくるというか、少し気が楽になってるような様子です。

―12月にリリースされた“沢山”に関してはいかがですか?

大石:去年は年始から災害があって、「お正月なのに」とか思ってしまったんですけど、そんなの関係ないんだと。その日が社会的にどうとか、他の人にとってどうとかは関係なく、嬉しいことも悲しいことも、大小問わず何だってあるんだというのを改めて実感したので、それをもとに書きました。

本当は嬉しいことだけ続いてほしいけど、選べないから、普通に生活をしていくだけでも結構きついと思うんです。それでも人生が続いていくとしたら、どうやったら自分を保っていられるかと考えた時に、やっぱり誰かと共有したい、話したいっていうのがありました。曲を作ることも私にとってその手段で。こういうことを考えてる、感じてるっていうのを共有するために作ってる気がします。家族や友達、距離も時間も超えて、今は会えない人にさえ届くかもって思うと、困難でも私は取り組みたいです。

―<君に果物をむく>というラインが印象的で、他者への意識を感じます。

大石:<君に果物をむく>とか<表で子供達は遊ぶ>とか歌ってはいるんですけど、「ささやかな生活を尊ぶ」みたいにはしたくなくて、ただそういう生活があるというのを言うだけでいいなと思ってました。

―「生活を尊ぶ」とか「ささやかなことだけど大事にしていこう」ではなく、ただそれがあることを歌う、その温度感が重要だったと。

大石:そうですね。だから<君に果物をむく>と書いてるけど、君という存在への愛情、みたいなことはあまり意識していなくて。そこにフォーカスするというよりは、嬉しいことも、悲しいことも、座標みたいに点が沢山打ってある、っていうのを言ってるだけ。そんな暮らしがあることをみんなが知っていたら、あるいは想像できたら起こらないようなことが、残念だけど起こるから。願いがあるとすれば、誰かに何かを強制される、逆に何かを取り上げられるということが無いといいなということです。子供たちが何も気にせず遊びに行けるような、そういう世の中であり続けてほしいと込めたつもりです。

―では最後に、ここから先何を大事にして、どんな表現をしていきたいと考えていますか?

大石:去年はリリースにライブに、カセットテープやグッズの制作にも挑戦してみたけど、ぼんやりする時間をあまり持てなかったので。年末から本屋さんで本を買ったり、服の破れてたところを繕ったり、そういう時間を確保していて楽しいです。今年は旅行にも行きたいかも。そうやって少ししたら、自ずとまた曲もできていくのかなって。シングルで2曲出してみて、アルバムの強さを改めて感じた部分はあったので、次リリースするならアルバムかなと思ってます。その準備をしたいです。

―誰かに強制されない、その人が生きたいように生きられることへの願いというのは、自分自身の創作活動においても大事にしていることだと言えますか?

大石:私の場合は多少お尻を叩いてもらった方がいいのかもしれないですけど(笑)、これまでも制作から少し離れる期間があったとしても、そのうち「やっぱり作りたい」と気持ちが湧きました。本を読んだり、お笑いや落語や映画を観たり……それだけで勿論楽しいんですけど、結局その先に「私も何か作りたい」があって。それが自分にとって自然なことだし、制作でしか満足できない部分がある気がしてます。タイミングや熱量は自分でもコントロールできないんですけど、その「作りたい」と思ったときのために、心身ともに健やかでいることを心がけて過ごしていきたいです。

INFORMATION

シングル曲『サテンの月』『沢山』が各サイトにて配信中。
サテンの月:https://ssm.lnk.to/satinmoon
沢山:https://ssm.lnk.to/things

また、上記2曲収録のカセットテープとグッズを通販にて販売中。
https://shop.oishiharuko.com/

大石晴子HP
https://oishiharuko.com/

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